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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第8章 最後のステージ。
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特技。

ミツキの特技の申告に当然のブーイングが巻き起こる。

「ミツキ。ただ眠いだけでしょ?」

「まあ、もう二時だしな。」

「あたしだって今すぐ寝られるわ。」

口ぐちにミツキに不平が浴びせられる。

「まあ眠いのはホントかな。でも私いっつも眠いんだよ?だからこの特技はホントなの。」

ミツキは照れくさそうに笑って見せる。

「いつもね。夢のなかにいるようなふわふわした感じっていうのかな。こうして皆と夜更かしするのがあんまり楽しくて。寝るなんてもったいないよ。」

この会自体、お開きのタイミングは全く決められず強行された。

明日も学校はある。

松本と早枝に関しては学校からのバイト、バイトから直でここにいる。

それでも誰ひとりとしてお開きの段取りを確認しない。

ミツキがわざわざ言うまでもなく、ここにいる誰もがこの時間を終えようとはしなかった。

「じゃあ、本当に寝ちゃったら起こすからね?ミツキ。」

よっしーが腕を組んでミツキに宣告する。

「うん。むしろお願い。」

ミツキはよっしーに後の自分を託した。

「ちょっとタンマ。このまま寝ても普通すぎるでしょう。時間決めよう?特技って言えるくらいの時間。」

早枝は指を3本立てる。

「3分よ。3分で寝なさい。もしできなかったらもう一回お題スを振ること。」

「お題ス採用あざす。どわっふ!」

そう口走った松本の顔面にお題スが飛んできたため、松本はソファーごと後ろに転げた。

「うわーそれはきっつい。」

辛うじて口のガムテープだけは剥がしてもらえたよっしーは縛られたままで、その姿の彼女の方がよっぽどきっついと思われる。

「いや甘いわ。」

ずっと黙りこくっていたハラッチは突如拳を握りしめ立ち上がる。

「……くら。」

その言葉はあまりにかすれた声で俺には聞きとれなかった。

「今井くんの膝枕で3分以内に寝てみなさい。」

俺たちに指を指すハラッチに早枝は無言でティッシュを差し出すがその理由は言わずもがなである。

「確かに、それなら……むふっ。」

よっしーはハレンチな笑みを浮かべる。

「なんでそんな!」

「何嫌なの?」

動揺を見せる俺に早枝はその眼光を一層鋭くするのだ。

それには俺も口をつぐむ。

嫌ではない。

むしろやってみたいまである。

ただ、この心臓の高鳴りをどうすればわからず、考えるよりも先に口を出ただけであった。

「別に嫌じゃないわ。」

俺の代わりにミツキはそう答えた。

ミツキは後ろに手を組み、俺に上目遣いを向ける。

「今井くん……。お願いしても……いいかな?」

その頬は少し赤らめられていた。

俺は生唾を飲み込む。

俺は彼氏だ。

俺は男だ。

下心があろうがなかろうが、これ以上うだうだいうのもみっともない。

俺は正座した上で膝を差し出す。

「……どうぞ。」

ミツキは正座する俺の横に背を向けて立つと、スカートを折るように手を膝の裏に挟み体育座りをする。

「お邪魔します。」

そう呟くとそのまま後ろに頭を倒し、俺の膝に体重を預けた。

俺の膝の上にミツキの顔がある。

ずっと好きで、好きで、好きで。

好きでたまらなくて告白したミツキを、俺は今膝枕している。

「あんまり見ないで。」

ミツキは耳を赤くし、手で顔を半分隠すと視線を外した。

「うわっ!ごめん。」

「はははっ。本当に君は謝ってばかりだね。」

ミツキの瞳がもう一度、俺の方を向く。

「感謝しかないよ。あ……いや。」

感謝以外もあるのか。

「好きも……ちゃんとあるけど。」

ミツキはそういうと目をつむった。

俺の顔が最高潮に赤くなったのを彼女は見ることができたのだろうか。

「俺たちはいったい何を見せられてるんだ。」

松本は胸やけ気味の顔で皮肉を吐き捨てた。

「どう?……膝枕。」

俺はその言葉がいたたまれなくて、ちゃんと返すことができなかった。

そんな辺鄙な質問しかできない。

「ちょっと、高いかな?」

「そっか。」

すると無言が流れる。

これ以上話しかけるとミツキの特技の邪魔になりかねない。

俺はそのまま口をつぐむ事にした。

「……今井くん、ありがと……ね。」

その感謝の言葉をそのまま受け取った俺はミツキの頭を撫でる。

俺は深く自分に落とし込むことはなかった。

自分が何をしたのかを考えなかったのだ。

「さて、そろそろ三分ね。」

早枝がスマホを確認する。

「ただイチャイチャを見せつけられただけじゃねぇか。」

松本はあきれ顔である。

「ところでどうやって寝たって判断するの?」

よっしー唯一自由に動く首を早枝に向けた。

「そんなの、確認するまでもないでしょ。」

早枝はミツキに向かって首を軽く振った。

ミツキは唇を噛みしめて、顔はさっきまで以上に赤くなっているのだ。

だれもそれ以上はなにも語らない。

ミツキは目を瞑ったまま、その顔を両手で隠した。

「やめて、ミツキをそれ以上見ないで。」

ミツキの顔の前にそっとお題スが添えられた。


かくして特技に失敗したと判断されたミツキはお題スの振り直しを命じられたのだった。

「なんか釈然としないなー。」

口を尖らせるミツキはお題スを手に持つ。

「ほら、さっさと振りなさいな。」

冷めて固くなったピザを片手に早枝急かす。

縛られて動けないよっしーの口にハラッチはポテトフライを運んだりもしていた。

聞く側はみんなのんきなものである。

「はいはい。じゃあミツキ……振りまーす。」

ミツキはお題スを床に放った。

出た目は白地。

唯一まだ出てない目である。

「これで全部出たね。……ミツキ?」

ミツキはその白く何も書かれていない面を冷たく見降ろして動かなかった。

「どうしたの?ミツキ。」

ハラッチが心配の色を見せる。

「ねえ。これまだわかんないからさ。振りなおしちゃ……。」

「だーめ。」

早枝は大きく頬張った口を動かしながら胸の前で手をクロスさせる。

「ほら、ミツキが引いたのは特技でしょ?振り直しがダメなら本来特技のやり直しじゃ……。」

「往生際が悪いわよー。」

同じく頬を膨らませ咀嚼中のよっしーが野次を飛ばす。

ミツキは歯を食いしばる。

そして足早にお題スに詰め寄ると、その場にしゃがみこんだ。

お題スの最後の目張りシールを乱暴に剥がす。

そのお題は全員、まるで予想していなかったお題であった。

剥がしたシールの台紙を手にもったまま、力なく立ち上がった。

ミツキの引き当てた最後のお題。


『泉野早枝について。』


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