水着。
無事に温泉旅館に着くことができた。
青い空に非常にマッチした、綺麗で尊厳のある外観をしている旅館だ。
いや、名目上ホテル扱いのため旅館ホテルと称する方が正しいだろうか。
チェックインは15時からなのだが2時間も早い13時に旅館に着いてしまった。
それには主催者の二人の意図があるらしい。
どうも、今回の語りは今井良太がお届けします。
このホテルには年中遊べる温水プールが完備されていて、夏季はウォータースライダーまで備わっているといる本気っぷりだ。
今はまだギリギリ四月の四月末。
まだプールには早い季節なのだがその心配は無用だった。
水着が必要との連絡だったので混浴を期待した俺は愚かものであった。
水着など小学校のプールの授業以来だったので、持ってないに等しい。
昨日俺は、年の二つ離れた弟を付き添わせ水着を買いに行ったのだ。
弟はだいぶ性格がアレなのだが、俺よりはファッションセンスがイクバクかはマシの為頼ったというわけだ。
俺は着替えを終えプールサイドに立った。
弟に選んでもらった水着は紺色で丈の少し短い海パンだ。
ゴールデンウィークということでかなりの混みっぷりである。
子どもの割合が多い。
高校生は僕たちくらいかもしれない。
「こういうとき水泳帽いらねぇよ」
俺の水泳帽は後ろから来た松本に外されてしまった。
たしかに弟にも止められてはいたのだが。
「プールではマナーだってネットに書いてあったし。」
ふと松本の肉体美に目が行く。
もともと身長も高く体格もいいのは知っていたのだが程よくバッキバキなのである。
「なんつぅ腹筋してんだよ。」
「俺には将来世界的なマジシャンになるっていう夢があるからな。体は鍛えているさ。」
将来イリュージョンでもやるのだろうか。
「やっぱ女は着替えに時間かかってんのな。」
次に来たのは吉川さんのお兄さんと安原さんの弟くんだ。
お兄さんは海パンの上にパーカー、弟くんは水泳帽にゴーグル、水鉄砲まで完全武装だ。表情は未だ無愛想だが。
「パーカーとは男らしくないですねぇ、京平さん?」
「おっさんのたるんだ体なんて誰もみたくねぇだろ。」
京平さんは大きめのベンチに横になった。
「僕には監督責任があるので何かあったらすぐ言え?おじさん助けてやるからなぁ」
長時間の運転で疲れているのだろう。
京平さんは眠りについた。
「行動と言葉がかみ合ってないのだが」
京平さんの顔面に突如激しい水流が襲いかかる。
当の本人もあまりのことにパニックのようだ。
「なに?だれ?どうしてこんなひどいことができるの?」
大樹くんの水鉄砲から水滴が滴り落ちている。
子どもとは時に恐れ知らずである。
「ライダーブルーは水が苦手なの。水を食らうと必殺技が5分間使えないの。」
「ライダーブルーはスカイブルーの青。無限の苦しみを味わうがいい」
「ならばこい。ライダーブラックは孤高の闇。貴様の空の限りをみせてやろう」
おじさんと子どものバトルが始まった。目で追うのがやっとだった。
「やっほー。おまたせー」
高岡さんの声が聞こえる。
待ちに待った女子たちの入場だ。
さすがにスクール水着はいなかった。
俺はやはり漫画の読みすぎだったようだ。
吉川さんがキョロキョロと周りを見渡している。
だれかを探しているようだ。
京平さんと大樹くんは子ども用プールで遊んでおり、松本は泳ぎに行ってしまっていた。
俺一人で水着の女子4人と遭遇してしまった。
どこに視点を置けばいいかわからない。
ちらっと見たけど高岡さんの水着は抜群にかわいかった。
「今井ー?あいつどこいった?」
泉野さんの質問に俺は赤面して答える。
女子の顔を見ておしゃべりできない俺は本当にどこをみたらいいかわからない。
「泳ぎに行ってくるって。」
ふーんとプールを眺める泉野さんはニヤついた顔で俺をからかいだした。
「今井どうした?顔真っ赤だよ?」
男にもっとも言ってはいけないワードを言い放つ。
「むっつり」
むっつりで何が悪い。
男子はみんなHなことを考えてしまうもので、それを表に出さないように必死に堪えてる様をそんな逃げ場のない言葉で片付けないでいただきたい。
「今井みたいな純朴チェリーボーイを赤面させて喜んでいるようじゃまだまだね。泉野」
当然のように泉野さんにつっかかっていくスタイルの吉川さん。
「もっともあなたのその貧相な胸元じゃ今井すら赤面させられているかは微妙だけれどね」
「いくらでかくてもその水着はないわ。頭といい、水着といい、主張激しいんじゃない?」
似たもの同士の二人だがシルエットには絶対的な違いがある。
「ウチはね、自分のスタイルに絶対的な自信があるからこの水着が着れるの。あんたみたいにカーテンで隠したりしないの」
吉川さんは豊満な胸を張って見せる。
「おう。みんな揃ったか。遅いじゃん。」
濡れた髪をかき上げながら松本が登場した。
「いやークラスメイトの水着が見れるなんて幸せだわ。眼福、眼福」
「松本、セクハラ」
泉野さんが冷たい視線を松本に浴びせる。
「おっ泉野は俺がひらひら好きだって言ってたの覚えててくれたの」
「なわけないでしょ。思い上がんな」
腕組みする泉野さん。
松本が周りを見渡す。
「あれ?ヨッシーは?」
君の探す吉川さんは泉野さんの後ろに隠れているよ。
俺以上に顔を赤らめてね。