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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第8章 最後のステージ。
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激励会。

「え~。それでは!これより、松本大地の日本最後の夜ということでささやかではありますが、激励会をとり行おうかと思います。」

よっしーが箸をマイク代わりに司会を始める。

「じゃあ、主役の松本に乾杯の挨拶をお願いしたいと思います。」

すでに俺とミツキ以外のグラスには使われた跡が見て取れるがそんな野暮なことは腹の底にしまった。

松本が若干の照れを見せながら立ち上がる。

「え~。なんだろうな。全然言葉が出てこないや。」

グラスを持った松本は頭を掻きながら照れを見せる。

「しっかりしろー。」

長方形のリビングのテーブル。

上座の松本と対面に座る早枝が野次を飛ばす。

「そうだな。うん。こうやってみんなに祝ってもらうってだけじゃなくて、いや今日のこれもめちゃくちゃ嬉しいんだけど。そういうんじゃなくてさ。」

いつも直感的な言動が目立つ松本は珍しくまとまっていなかった。

でも、それに口をはさむ人は誰ひとりとしていなかった。

「俺と仲良くしてくれたのってここにいるみんなだけだったつーか?みんながいなかったら俺の高校生活ってすげーつまんなかったんだと思う。だから、良太も早枝もミツキもハラッチも、よっしーも。みんながいてくれたから。」

松本は笑った。

「明日日本を出るのがすげー寂しい。」

時刻はもうすぐ23時になろうとしていた。

もうすぐ日付が変わる。

明日になれば松本はアメリカに行ってしまうんだ。

「俺、みんなが自慢できるような。松本と旅行に行ったんだぞ、とか。激励会したんだぞ、とか。ここにいるたった4人が誇れるマジシャンに絶対なるから。」

松本はグラスを自分の目の前に突き出した。

「見ていてほしい。これからも俺の事を。」

それに合わせて全員がグラスを高く掲げた。

「いままでありがとう!乾杯!」

「かんぱ~い!」

松本の乾杯の音頭で高校生にはあまりに遅いパーティーが始まった。


皆、それぞれピザを頬張ったり、ジュースを飲んだり、ハラッチの持ってきたアルバムを広げて思い出話に花を咲かせたりした。

「旅行、本当に楽しかったよねー!」

松本の隣に座るよっしーがアルバムを松本と二人で見ていた。

「ああ。プールとかあってさ。」

「そうそう。」

「そういえば、あの時ミツキと良太をくっつけようって企画したんだよな。」

「そういえば。そうだったわね。」

よっしーが素直に驚いてみせる。

「そうだったの?!」

俺が驚いて声を上げようとしたところ先に声を上げたのはミツキだった。

「なんだ、ミツキ気づいてなかったの?ミツキならお見通しかと思ってたんだけどな。」

「全然気付かなかった。」

「まあ結果オーライじゃないか?なぁ。」

「ねぇ。」

松本とよっしーは二人でアルバムで顔を隠して、目だけを出してこちらにいやらしい視線を向ける。

「なんか。そのおかげとか言われるのはすげー府に落ちないんだけど。」

俺の不快な気持ちをそのまま伝えると二人はアルバムに顔を隠したまま笑い声だけが聞こえた。

アルバム越しに松本の声がする。

「ごめんな。」

二人の顔はアルバムから出ないまま。

「なに?」

よっしーの声が聞こえる。

「ちゃんと謝ってなかったからさ。今日企画持ち出したのがよっしーだって良太から聞いて、俺少しホッとしてる。」

「もしかしてランドの話?」

ランド?

あの日、まさかよっしーも来ていたのか?

俺はミツキも知っていたのかという意味でミツキの表情をうかがうとミツキは顔を二人から逸らした。

二人だけの会話を俺たちは聞かないほうがいいということなのだろうか。

「気にしないで。あんたがフッたんじゃない。」

よっしーはアルバムを下ろして胸を張る。

その誇らしげな顔を松本は自信のなさそうな顔で見上げる。

「ウチは高校をやめて不安定な道のりを歩見始めたあんたに見切りをつけて高収入確定の男子に鞍替えしただけなんだから。」

よっしーは松本の背中を思い切りたたく。

その音はリビングに響くほどの爽快さがあった。

「ウチを後悔させるくらいビックになりなさいよ!」

「いって!」

すると二人は少しばかり見つめあうと、声を上げて笑いだした。


「明日のショーって体育館でやるんだっけ?」

「そうそうなのよ!あんなでかいところでやるようのマジックできんの?松本。」

ミツキの質問に代わりに答えるのはよっしーだ。

「まあ、そんなに数はないけどな。あるっちゃーある。」

早枝が腕を組む。

松本が不安そうにニヤつくが早枝も動揺が見える。

松本はショータイプのマジックは苦手なのかもしれない。

「すごいよねー。私たち最前列で応援するからね。」

するとよっしーは手を上げる。

「ウチは多分無理かも。その日風紀委員は外部の整理&警備しなきゃなんだわ。」

「外部?」

ハラッチが首を傾げる。

「ああ。なんでもSNSとか使ってお客さんを呼んでるらしい。体育館をその時だけ解放するんだと。」

松本の笑顔も流石にひきつる。

俺も勘違いしていた。

彼は極度の目立ちたがりで、人の前に立って何かやるのが好きで仕方のない人間であるが、プレッシャーに強いのかと問われればそれは否であるのだ。

「うちの生徒会のイベント好きも困ったものね。」

早枝は足を組み苛立ちを見せる。

「いや……。そんなことはない。」

松本は握りこぶしを掲げた。


「俺……。明日のステージ、すげー楽しみなんだ。」

彼の眼は投資に満ち溢れ、輝きすら見える。

しかしその握られた手はわずかに震えるばかりであった。



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