外伝0 石井空 1
俺は、かなりやり込んでいるVRゲームをしていたはずだった。
なのにこれは何だろう?何で俺は赤子になっているんだ?
え?俺は死んだのか?死んで生まれ変わった?いつの間に?
ダメだ、ゲームを起動して、それ以降の記憶がない。
何故?何が起こっているんだ?
お、落ち着こう、まずは状況の整理だ、今の現状を正確に把握しないと。
体はほとんど動かない。立てないし座れもしない。
寝返りはうてる。
「あー、うー、」
声は出せるが言葉は話せないようだ。
今、俺は何かで運ばれている。
何だろう?車ではない、荷馬車?荷車?ちょっとよくわからなかった。
そして俺の隣には赤子がいた。
「済まない、私たちは君達を育てることができない、こんな不甲斐ない父親を、いや、許せとは言えないな、本当に済まない」
「ごめんなさい、ごめんなさい、イーシス、アルター、愛しているわ、本当にごめんなさい」
「あー、うー、きゃいきゃい!きゃはははは!」
俺の位置からは見えないけど、男の声と女の声が聞こえて来た。もしかして俺の父親と母親?
えっと、状況かわからない。
今女の声はイーシス、アルターといっていた。
イーシス、アルターって、名前?もしかして、俺とこの隣の赤子のことを言っている?
え、待って、男の声がさっき育てられないとか言ってなかったか?
え?俺、捨てられる?ちょ、ちょっと待てよ!何だよそれ!いきなり詰みじゃねぇか!
見た所森の中っぽいし、え、ここに捨てられたらマジで何もできねぇって!俺まだ赤子だぞ!はいはいすらできないって!動物に襲われたらどうするんだよ!飯は!?自給自足!?無理無理無理無理!マジやめてくれ!愛してるんじゃねえのかよ!?愛してんならせめて街の中とかに捨ててくれよ!そしたら親切な人が助けてくれるかもしれないしよ!もしくは孤児院とか!
てかこれなんだよ!夢か!夢なら早くさめろ!俺は早くクリスタルアルカナムⅤの続きをやりたいんだよ!
「あー!うー!アバババアー!!」
でも、赤子の俺では全く抗議ができない。話そうとしても無駄だった。
「きゃはは!きゃいきゃい!きゃはははは!」
隣の赤子は無邪気に笑っている。
楽しそうだな、俺は微塵も楽しくないよ。
結局俺と隣の赤子は捨てられた。
でも幸いなことに村の中に捨ててくれたようだ。その為、すぐに村の人が気づいて俺たちを拾ってくれた。
そして、俺たちは村の教会で暮らすことになった。
良かった、野垂死にしないで。
「あー、うー、きゃいきゃい!」
「全く誰だい、こんな生まれたての赤子を捨てたやつは、信じられないよ」
ほんとだよ、こっちの身にもなれってんだ、全く。
「一応目撃者がいないか村の全員に確認はとったんだが、残念ながら誰も見てないようだ、で、この2人はシスターが育てるのか?」
「それしかないさね」
「まだ結婚もしていないのに、子供が2人、婚期を逃すぞ?」
「余計なお世話だよ!あんたは屋根の修理を頼まれていたんじゃないのかい!ほら、さっさと出て行きな!」
「はいはい、じゃあな」
髭面のおっさんが教会を出て行った。
シスターはなかなかの美人さんだ。良かった、美人のシスターに育てられることになって。
さっきの髭面のおっさんに育てられるということになっていたら泣いて抗議していたところだぜ!
はー、それにしても死ななくてよかった。
だけど、ここはどこのど田舎だ?見たところ、電化製品とかも見当たらないし、今時こんな場所があるなんても思いもよらなかった。
でも何だろう、どこか見覚えがあるような?無いような。
俺、田舎なんて行ったことないんだけどな。
だけど、この村もこの教会も、ごく最近どっかで見たようなって感じがする。
人生で一回も教会なんて訪れたことないし、見ることはあってもそれはゲームの中だけなのに。
・・・うん、気のせいだな。
考えるのめんどくさい。
「はぁ、さて、まずは2人の名前を確認しないとね、[ディテクション]、イーシス・カイに、アルター・カイか、いいかい、今日からここがお前達の家になるんだよ、これからよろしくね」
!?いま、[ディテクション]って言ったか!?かなり聞きなれた言葉だ、というより言い慣れたと言ったほうがいいのか?
[ディテクション]は俺がやり込んだゲーム、[クリスタルアルカナムⅤ]に出てくるスキルの名前だ。
そのスキルは、視界に捉えた対象のステータスの一部を視認することができるようになるスキルだ。
そして見ることができるステータスの中には名前もある。
もしかして、え?ここ、ゲームの中?俺、まさかゲームの中に転生した?
あれから数ヶ月が経った。
その数ヶ月でわかったことがある。
ここは間違いなくクリスタルアルカナムⅤの世界の中だってことだ。
最初は正直ゲームの中に転生したなんて信じられなかった。
確かにスキル名をシスターは言っていたが、シスターが単なる厨二病っていう可能性だってあるわけだし、この状況全てがドッキリという可能性もない訳じゃないと思っていた。
いや、俺が赤子になってる時点でドッキリなんて無理か?
いや、技術大国日本の技術を舐めたらいかん。
だって、ゲームの中に入って遊べる技術なんてあるくらいだ、なら、俺を赤子にすることができてもおかしくは・・・おかしいか。
確かにゲームの中に入れるなんていう魔法のような技術はあっても、若返りなんて、しかも赤子まで若返るなんて不可能だよな。
まぁ、でもとにかく最初はゲームの中の世界に来たなんて信じられなかった。
だってそうだろ?みんな日本語を話してるんだぜ?
そりゃ信じられないって。
正直、髪の毛の色とか眼の色が、赤とか紫とか青とかピンクとかの人が日本語ペラッペラなのはちょっと笑えたけど。
でも、よく考えてみると、クリスタルアルカナムⅤのゲームの中でも普通に日本語使ってたから、ここがゲームの中の世界なら変じゃないんだよな。
それに、この村、見覚えがあると思ったら、ゲームで出てきた最初の村によく似ていた。
似てはいたけど、村はところどころゲームとは違うところがあり、教会は作りとかは同じなんだけど、なんていうか、ゲームのときより、かなり古びていた。
だから俺は、ここがゲームのその後の世界だと予想している。
そうなってくると気になるのが、ゲームでのルートだ。
この世界はどのルートで終わったんだろうか?
姫様エンド?カレンエンド?師匠エンドと言う名の真冬ちゃんエンド?ハッピーエンド?ノーマルエンド?もしくはバッドエンド?
このゲームは、主人公の行動によってエンディングが変わってくる。
分岐する場所は色々あるけど、例えば、最初のチュートリアル戦闘と言う名の最難関戦闘を突破できるか、できないかとか、誰を師匠にするかとか、レイルガルフ防衛戦での防衛成功、失敗、ソウルトレード事件の戦闘で、姫様を殺すか、一定時間過ぎるか、とか、師匠の全スキル習得後の師匠戦での勝敗とかだ。
他にもまだまだ分岐はあるけど、そういった主人公の行動によって最後、どうやって終わるかが変わってくる。
この世界はどのルートで終わったんだろうな?
まぁ、バッドエンド以外はどれも似たようなものか。
魔王を倒して世界が平和になりました。その平和な世界で誰々と幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん。
みたいなものだからな。
ならそんな気にしなくていっか、バッドエンドで終わることはよっぽどないだろうし、この協会の古び具合なら何百年、何千年と経ってるだろうからな。
ゲームのキャラクターはもう生きてないだろう。
もしバッドエンドだったら?
そりゃもう世界は崩壊してるんじゃないか?
いや、世界崩壊まではゲームでは書かれてなかったけど、確か、もう全人類を滅ぼすまでは止まらない、って感じで終わったはずだから、人が生きているのはおかしい。
あの魔王を止められる奴なんていないだろうし。
だけどこうしてゲーム後の世界っぽいところで人が生きているから、バッドエンドじゃないだろうな。
それにバッドエンド、通称アルタールートなんて呼ばれていたりもしたけど、普通にやってれば、バッドエンドなんて行けないから。
・・・ああ!面倒臭い!やっぱこの世界の考察とかはどうでもいいや!
そんなことよりせっかくゲームの中に来たんだ!
しかも、このゲームについて知らないことは無いと言っても過言じゃないくらいやり込んだゲームにだ!
なら、ゲームの知識を活かして最強になって、俺様無双!やらないとな!
てゆうか、俺主人公だよな!ゲームの中に入るなんて、そんなことを体験してる奴が主人公じゃ無いなんてありえないし!
つまり、ここから俺の最強無双ハーレム物語が始まるわけだな!
楽しみだぜ!