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第48話 夢 4

「久しぶりだね」


「ん?おお!アルター!久しぶりだな!元気だったか!」


「まあね、どう?あれから強くなった?」


「あー、まあな!これで強くなってなかったらキツイぜ!」


「そうなの?」


「そうだよ、はぁ、あー!マジでなんだよ!あの師匠達はよー!聞いてくれよ!アルター!」


「なに?どうしたの?」


「俺、ウィンターちゃんの弟子になったんだけどよー!そしたら、武器屋も防具屋も飲食店も情報屋も宿屋もぜーんぶ使えなくなっちまったんだよ!」


「あー、師匠同士が仲悪いからね、その辺りの店は全部師匠が経営してるから、使えなくなっちゃうよね」


「それだけじゃねぇんだよ!俺この格好を強要されてんだ!ローブしか着させてもらえないんだよ!他の服を着たり鎧を着たりすると、頭の中からウィンターちゃんの声が響いて来るんだ、キモい、やめろ、恥を知れ、師匠として恥ずかしい、キモい、キモい、キモいってさ!それに魔物と戦う時もこの格好じゃないとダメだって言うんだぜ!防御力皆無じゃねえか!」


「あはは、そうだよね、でもローブは魔法防御力は高いから、防御力が皆無というわけじゃないよ」


「そうなのか?こんなペラッペラな布で魔法攻撃を防げるのか?」


「もちろん完全に防げるわけじゃないけど、軽減率は高めだよ」


「うーん、そうか、でもよー、寝る時も寝巻きに着替えたら、ダサい、キモい、着替えろ、って頭に声が響いて来るんだよ、俺はローブしか着ちゃいかんのかい!ってさ!」


「でも鎧姿で寝させられるよりはいいんじゃない?他の師匠だとそう言う人もいるよ?」


「え?マジで!?って、てめー!アルター!やっぱこうなる事を知ってたな!このこのこの!」


「あはは、ごめんごめん、でも強くなるには一番の近道だからね、仕方ないよ」


「仕方ないじゃねぇってー!結構住みやすい街だったのに、一気に住みづらくなったじゃねえか!はぁ、・・・って、まあアルターに当たっても仕方ないか、俺は守りたいものを守れるように、強くなるって決めたんだからな」


「うん、頑張ってね」


「もう、あんな思いはしたくないからな、・・・カレンは、さ、タンスの角に小指をぶつける痛みがわかる女だったんだ」


「ん?えっと、なに?タンスの角に小指をぶつける痛み?」


「まぁ、タンスじゃなくてもいいんだけどな、とにかく何かの角に足の小指をぶつける痛みがわかる女だったんだ」


「う、うん、でも僕もぶつけた事はあるけど、痛みなんてなかったよ?」


「あー、カレンは[魔力抜き]ってやつをした状態で、動き回っていたら小指をぶつけたらしい、ほんと、ドジだよな」


「えっと、そんなに痛いの?」


「みんな、そうやって反応するんだよなぁ、あの筆舌しがたい激痛はてっきり全員体験しているものだと思ってたんだが、そうじゃないって知った時は驚いたぜ」


「ふーん、じゃあその痛みを体験している君もカレンに劣らずのドジってことなんだね」


「そ、そうか、昔の俺、カレン並みのドジだったのか、ちょっとショックだ」


「昔?」


「俺、その痛みを体験したのは多分記憶を失う前なんだよな」


「え?記憶を失う前?思い出したの?」


「いや、なんていうか断片的なもの?いや、体が覚えているっていうのか?自分の名前以外はほんとなにも記憶にないんだけど、歩き方とか話し方とか言葉とかは俺わかるだろ?なんかそう言ったやつだよ、なんていうから知らんけどな、だから記憶は戻ってないな」


「記憶、戻るといいね」


「ま、なるようになるさ、あ、そういえばよ、アルターはどうして俺が勇者だってわかったんだ?街の人達に、俺は勇者だ!って言ってもみんな、はいはいって言って聞き流すんだよ」


「ああ、それは僕が[識別の魔眼]を持っているからだよ」


「あ?なんだそれ?」


「[ディテンション]はもう覚えた?」


「ああ、もう教えてもらったぜ、名前とかレベルとか色々見れるやつだろ」


「うん、それに加えて[識別の魔眼]では他者の称号も見ることが出来るんだ、その他にも効果はあるけど、それによって君が[勇者]っていう称号を持っていることがわかったんだ」


「ふーん、[識別の魔眼]ね、魔眼、なんかカッケーな!俺もそれ使えるようにならねぇか!」


「これは君には使えないよ」


「そうか、残念だ、なぁアルター、くっ左目が疼く、俺の魔眼が暴れたがっている、近いうちに解放しなければ!とかならないのか?」


「それは何?左目が疼く?」


「おう!やっぱ魔眼って言ったら左目が疼かねぇとな!」


「なんで左だけ?右目はいいの?」


「あー、なんでだろう?まぁ、細かいことはいいんだよ!アルター、なんかその目に代償とかは無いのか?」


「代償?特に無いかな、MPはそれなりに消費するけどそれだけだね、目は、特に疼かないよ」


「そうか、まぁ、そういうもんか」


「そういうものだね」






「ん、」


 鳥のさえずりが聞こえる。

 窓からは日の光が差し込み、部屋の外からは人々の生活音や声が聞こえてきた。


 朝だ。


 ピィナーはまだ部屋の隅で眠っている。

 ピィナーの体はもう、蹴ったら遠くまで転がって行きそうなほどのまんまるでは無くなっていた。

 元通りだ。


 そう言えば、サッカーしようぜ!お前ボールな!って言う言葉があるらしい。


 それは体が丸い者に言う言葉だってお兄ちゃんが言っていた。


 昨日はいい忘れちゃったけど、今度ピィナーが丸くなったら言ってあげないとね。


「ピ、ピィ(さむい、こわい)」


 ピィナーが寝言をつぶやいている。


 寒い?別に寒く無い、むしろ暖かいけど?どうしたんだろう?寒くて怖い夢でも見ているのかな?


「すぅ、すぅ」


 イリアもまだ眠っている。


 どうしよう?もう一回寝ようかな?

 うん、みんなが起きるまで寝よう。






 そこには、[勇者殺しの大剣]に貫かれた、勇者の姿があった。


「ご、ごめ・き・に、・お・せ・・・・」


「・・・」


「ほ・と・に、ご、め、」


 勇者は、ドロップアイテムを残し、消えた。

 もう、蘇ることは。


「あ、ああ、ああああああああああアアアアアアアアハハハハハハ!アハ!アハハ!アハハハハハハハ!!!」


 魔王は、涙を流しながら、狂ったように笑い続けていた。


 いつまでも、いつまでも。

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