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第7話 ジャイアントキリング 3

 3日目は、もう暴れる元気もなくなったのか、あの魔物はだいぶ大人しくなった。

 こちらに攻撃してくることも少なくなった。


 もちろん寝かさないように定期的に[ショット]は当てている。


 あの魔物はもう2日くらい飲まず食わずだ。多分喉も渇いているだろう。

 というより、餓死より先に水分不足で倒れるかもしれない。


 あとちょっと、あとちょっとだ。


 僕もだいぶ疲れてきた。肉体的にではなく、精神的にだ。


 僕はこんなに長時間[ジェット]を17箇所同時制御することなんてなかったから、疲れた。

 それに常に負ける危険性、死ぬ危険性がある中で長時間集中し続けることは初めてだった。

 だから精神的重圧が結構ある。


 だけどなんでだろう、僕は戦いなんて、命の取り合いなんて初めてなのに懐かしくも感じている。

 多分そのおかげでまだ戦えているんだと思う。


 それにしても、あの魔物は何をしているんだろう、諦めたのかな?


 いや、あの魔物はまだ諦めていない。顔がまだ真剣だ。


 じゃあ、本当に何をしているんだ?


「ガァ」


 その後も、あの魔物はずっと真剣に何かをしているようだった。

 その後は、もう僕が攻撃をしても、魔物が僕に攻撃をしてくることがなくなった。






 少し時間が経った。

 魔物はまだ動かない、僕に攻撃もしない、眠っているわけではない、唯々真剣に何かをしていた。


 僕はそれに嫌な予感を覚えた。


 ただ諦めただけなのかもしれない、何かをしているように見えて、実は何もしていないのかもしれない。

 だけど、ただ見ているだけは不味い気がする。だから僕は攻撃を始めた。


 今までは睡眠の邪魔をするためなどでしか攻撃してこなかったが、僕はその嫌な予感を信じる。


 とは言っても、近づくと死ぬ危険性がかなり高まるから遠距離攻撃だけをし続けた。

 だが、[ショット]以外の攻撃は全部無視された。

 ダメージが1しか入らないし、ノックバックもしないから、脅威とみなされていないんだろう。


 僕が使える魔法陣を使わない遠距離攻撃に、ノックバック効果のあるものは少ない。


 そして[ショット]以外のものは発動条件を満たせない。

 地面にいることや、特定の武器を装備していることが条件のものなど、今出来ないことが多い。


 だから結局、[ショット]のクールタイムが終わったらまた[ショット]を続けて邪魔することしかできなかった。






 それから、どれだけの時間が流れたんだろうか。

 かなりの時間が経った。何度も夜が来て、朝が来て、僕はもう日付を数えていない。唯々攻撃し続けていた。

 魔物はずっと動かない。もう動く元気もないのかもしれない。そろそろ魔物は限界のはず。

 そう思い続けてどれだけ時間が経ったのだろう。

 だけど、もう本当に限界だと思う。


「グァ、ガァァ!」


「っ!なに!?」


 あの魔物が突然叫び声を上げ行動を再開した。

 声はかなり掠れている。前のような力強さもない。だけど、その声からは歓喜が伝わって来た。


 何を喜んでいるんだ?


 行動を開始したと言っても、魔物の動きはゆっくり、いやなんとか頑張ってギリギリ動いているというくらいで、限界はかなり近いようだ。


「ガァァ」


 魔物が[ブレス]のモーションに入った。


 一瞬、僕を狙ったものだと思ったが、向いている方向が違う。


 魔物はそのまま、何も無い、誰もいない空中に[ブレス]を放った。


 何をしているんだろう?


 適当に[ブレス]を放っただけ?それにしては、どこかに狙いを定めていた気がする。


 それにさっきはなんで喜んでいた?喜んでいたのは気のせいだったのかな?


 いや、何かある、きっとそれは魔物にとっては良いことで、僕にとっては致命的なことだ。

 考えろ、あの方向には何がある?


 太陽や星を見れば方角がわかるってお兄ちゃんから教わっているから、太陽を確認したけど、今ほぼ真上にあるから方角の特定ができない。


 なんだろう?僕の村?いや、流石に届かないとは思う。それにそこを攻撃してなんの意味があるんだろう?

 それに結構上の方を向いて[ブレス]を放っていた。飛距離を稼ごうと思ったら、もう少し角度を緩くした方が飛ぶと思う。


 ん?上の方を向いて[ブレス]を放った?

 上の方、え、嘘でしょ、違う、流石に違うはず。

 だってありえない、見つかるなんてありえない。


[フォースコンバット]の魔法陣が見つかって攻撃されたなんてことは。


 だって僕は[ミラージュ]で隠している。それにここから結構距離がある。たとえ魔物の目がかなり良くても、絶対に見えないはず。

 それに魔物は何より見ていなかった、ただ真剣に何かを、


 ・・・まさか、ずっと探していたのか?[フォースコンバット]の魔法陣を。


 どうやって?・・・[深淵の森の守護竜]?

 この称号の効果に、深淵の森内の全てを見通せる、というものがある。

 まさか、はるか上空も深淵の森の範囲内なのか!?

 そして全てを見通せるとは、幻影も効かないということなのか!?


 魔物が魔法陣を見つけるのにかなり時間がかかったのは、森の上空も全て深淵の森だとしたら膨大な範囲があるからなのかもしれない。


 もし、もしそうなら、[フォースコンバット]が破壊されたら終わる。


 今この場から逃がしてしまえば、もう殺すチャンスは無くなるかもしれない。

 僕は正攻法ではこの魔物は倒せない。だからこんな方法を取っているが、これを破られたらもう方法がない。


 たとえ、何日か時間が経った後に再戦をして、[フォースコンバット]を使っても、今度はもっと早く魔法陣を発見され、破壊されるだろう。


 今しか、今しかチャンスはないんだ、ここを逃したら、負ける。

 あと少し、あと少しなんだ!負けられない、負けるわけにはいかない!


 また魔物が[ブレス]のモーションに入った。

 スキルモーション中はノックバックが発生しない。

 つまり今あの[ブレス]を防ぐ方法はない。


 もしあの[ブレス]が魔法陣に当たれば、僕の負けになる。


 どうする?どうすれば良いんだ?


[バリア]を使って[ブレス]を防ぐ?

 いや、僕の魔法攻撃力じゃ[ブレス]が当たった瞬間に砕け散って意味がない。減速させることすらできないだろう。


[イモータル]は?

 無理だ、新しく書かないといけないし、それに空中で発動しても重力のせいですぐに下に下がって解除される。

[バリア]を張って、その上に乗って[イモータル]を発動しても、攻撃は下から飛んでくる。

 だから[バリア]を先に破壊されて落ちて[イモータル]のスキルが切れる。

 他のスキルは?何かないか、何か、


[ブレス]を防げないなら、[ブレス]の発動を阻止するのはどうだ?


[グラビティ・バインド]が残っていたら重力で魔物の体制を崩せるだろうから、[ブレス]のスキルモーションから外れてスキルがキャンセルされるとは思うけど、もう[グラビティ・バインド]は使ったからない。


 ほかに体制を崩せるスキル、何か、何かないか?


[ピットフォール]で地面に穴を開けるのは?

 いや、スキルモーションであの魔物の間近の地面に触れてないと作れないし、あの魔物が体制を崩すほどの大きな落とし穴は、僕の魔法攻撃力じゃ多分作れない。


 どうしよう、どうすれば!


「ガァァ!!」


 あの魔物は、最後の力を振り絞るかのように[ブレス]を放った。


「あ!」


 僕はただ、その[ブレス]を見ていることしか出来なかった。


 そして、その[ブレス]は、はるか上空の魔法陣に直撃した。


 パリーン!

 その瞬間、光の空間が砕け散った。


[フォースコンバット]の効果が切れた。

 これでもう、あの魔物は逃げることができるようになった。


 つまり、僕は、負けたんだ。




















 ドォォォーーン!!!


 何か、巨大なものが倒れる音がした。


「え?」


 下を見ると、魔物が倒れ込んでいた。


「なんで、あ」


 もう、限界だったのかもしれない、いや、あの魔物は何日も飲まず食わず眠らずだっだったんだ、限界を超えていたんだろう。


 だけどあの魔物は笑っている。

 その笑顔は、まるで僕に、俺の勝ちだ、と言っているようだった。


「開眼せよ、万物を見通す識別の魔眼」


 名前 グランドドラゴンの死骸


 称号 物


 魔物は、死んでいた。


 僕はあの魔物を殺すことができた。

 だけどなんだろう、スッキリしない。

 これがお兄ちゃんが言っていた、試合に勝って勝負に負けるってことなのかもしれない。

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