外伝7 情報屋 4
次の日、自分はクロスくんからイーシスさんの話を聞きにいったっす。
最初はギルドでウィンターさんにドラゴンの事で色々聞こうと思ってたっすけど、同じことを考えている人が沢山いたからか、ギルドは大盛況っした。
一応しばらく待ってはいたっすけど、結局ウィンターさんはギルドに来なかったっす。
多分こうなることを見越していて、ギルドに来なかったんじゃないっすかね?
ウィンターさんの性格的に、騒がれるのは苦手っぽいっすもん。
なんで、とりあえずギルドを後にして、クロスくんに話を聞きに言ったっす。
クロスくんから詳しくイーシスさんの話を聞いてみると、どうやら本当になんでもないかのように魔石を渡してくれたそうっす。
いくらその時クロスくんが魔石を割って困っていたからって、あんな高価な物をポンと渡すなんて普通ありえないっすよね?
本当のお人好しなのか、それとも魔石の価値に気づいていないのか、それともあの魔石はイーシスさんにとってそれほど価値のないものだったのか。
でも最初に自分の店に来た時、確か持ち合わせがないって言ってたはずっすから、それほどお金に余裕はなさそうだったっすよね?
そういえば昨日、ウィンターさんが最後、イーシスって名前を口にしていたっす。
もしかして、2人は知り合いっすか?
ああ、そういえばイーシスさんが最初に街に来た時、ギルドで2人はあっているはずっすから、知り合いっすね。
いや、実はもっと前からの知り合いだった?
確か中位冒険者パーティ、アークロンドと戦闘になりかけたところをウィンターさんが止めたって話っすから、これ、見方を変えればウィンターさんがイーシスさんを庇ったって見れるっすよね。
イーシスさんはレベル1なんで、どう考えたってアークロンドの3人には敵わないっすからね。
でも昨日何であそこでイーシスさんの名前をつぶやいたっすかね?
まさかレベル1のイーシスさんがドラゴンを追い払ったわけはないでしょうし。
うーん、そう言えば、レベル1のイーシスさんがあんな高価な魔石を持っていた?
クロスくんの話ではイーシスさんが魔石を持つ魔物を自分で倒したと、しかもそれほど強くなかったみたいな言い方をしていたって言ってたっすけど、よく考えるまでもなく、レベル1っすからありえないっすよね?
なら何っすかね?
・・・ウィンターさんとイーシスさんは前からの知り合いの可能性、イーシスさんは魔石の価値に気づいていない、イーシスさんはレベル1で、あの魔石を持つ魔物を倒すことは不可能、そして困っていたクロスくんに躊躇いもせず魔石を渡した。
これらのことを合わせて考えてみると、もしかしてレベル30の魔石を持つ魔物を倒した人は実はウィンターさん?
ウィンターさんは騒がれることを嫌っている人っすから、レベル30の魔石をギルドに持ち込んで騒がれることを嫌がって、それで知り合いのイーシスさんに魔石を渡した?
数多くの大物魔物を倒しているウィンターさんはお金には困ってなさそうっすからね。
そしてイーシスさんは渡された物だからその魔石の価値に気づかず、困っている様子のクロスくんにポンと渡した?
イーシスさんはレベル1ってことっすから、よっぽどの箱入り息子って考えられるっす。
どこかの国の王子様とかっすかね?
で、今まで大切に、それこそ生き物の死に一切近づかされることなく育てられて来て、それが嫌になったか、別の何かが原因で家を飛び出して来たから、自分のことを話されることを嫌っているとかどうっすか?
そうすれば魔石の価値に気づかないことも納得っすし、あの見た目でまだレベル1ってことも、自分に口止めしたことも納得できるっす。
あと箱入り息子っすから、今まで他の人に身の回りの世話をされていた人で、自分のことを自分でできないから奴隷を買ってその奴隷に身の回りの世話をさせているとかどうっすか?
奴隷は高価っすから、奴隷を買うお金を最初から持っていたってことは、やっぱりどこかの国の王子様とかで、身につけていた宝石か何かを売ったお金か、もしくは実家からお金をこっそり持ち出して逃げ出したとかって考えられるっすよね。
そのことからもイーシスさんの家はお金持ちの家ってことは想像できるっす。
考えれば考えるほど、この説が間違ってないような気がしてくるっすね。
いや、でもちょっと無理があるっすかね?
でも一つの可能性として心にとどめておくっすかね。
その日の夕方くらいっすかね、自分の店に客が来たっす。
カランカラン
何とその客は、ちょうど今日自分が考えていたイーシスさんとその奴隷のイリアさん、そしてペットの兎ともう一人、ウィンターさんだったっす。
「いやっしゃいっすー、本日はどのような要件っすか」
自分は内心の動揺をとりあえず押し殺し、定例の文句を言ったっす。
何でイーシスさんとウィンターさんが一緒にいるっすかね?
やっぱり2人は知り合い?いやむしろもっと深い関係っすか?
もしかしたらミルタさんはイーシスさんの護衛としてこの街に来たっすかね?
いや、確かミルタさんはサンガーラザの獄炎獣を追ってこの街に来たはずっすから違うっすね。
あれ?サンガーラザの獄炎獣?それって確か・・・
「あ!?」
そうっした!あの魔石、レベル30の魔石を調べた時、確かヘルフレイムハウンドって出てたっす!
レベル30っていうのが衝撃的すぎて今まで忘れていたっすけど、というより意識していなかったっすけど、ヘルフレイムハウンドって確かサンガーラザの獄炎獣の種族だったはずっす!
レベル30のヘルフレイムハウンド、ほぼ間違いなくサンガーラザの獄炎獣っすよね?
え?もう既にウィンターさんはサンガーラザの獄炎獣を討伐してるってことになるっすよね?なのに何でまだこの街に残ってるっすか?
基本的にウィンターさんはジャイアントキリングをしたらまた別の大物魔物を探しに他の街に行く人だったはずっすけど、今だにこの街を離れていないっす。
あ、それってもしかしてイーシスさんが原因っすかね?
イーシスさんが実はサンガーラザの人だったとかで、イーシスさんの実家から、ウィンターさんはイーシスさんの護衛をついでに頼まれているとか?
だから獄炎獣を討伐後もこの街に残っているっすかね?
確かイーシスさんとウィンターさんは同じくらいにこの街に来ていた気がするっすから、その可能性はあるっすよね?
「どうしたんだ?」
「あ、い、いえいえ、何でもないっすよ」
いけないっす、客の前で考え事に集中していたっす。
「そうか?」
「そうっすよ、それで、本日はどのような要件っすか?」
「ああ、魔石コレクターがどこにいるのかを知りたい」
な、何すか?魔石コレクター?どこにいる?どういうことっすかね?
「魔石コレクターに魔石を買い取って欲しいんだが、肝心の魔石コレクターがどこにいるのかがわからなくてな、一人一人確認していってもいいんだが、情報屋で聞いた方が早いと思ってな」
「え、えっと、魔石コレクターっすか?」
そんな人聞いたこともないっす。
「主、魔石コレクターとはなんですか?」
「魔石コレクターとは、街や村に必ず一人はいる魔石を買い取ってくれる人のことだ」
へー、そんな人がいるんすね。初めて知ったっす。
「その人に今日のダンジョンで得た魔石を売るために魔石コレクターを探している」
「主、魔石はギルドで買い取ってくれるはずですよ?そちらに売ればいいのではないですか?」
「悪いがギルドに売るわけにはいかない、魔石は魔石コレクターに売ると決めているんだ、ギルドに売ることは俺の矜持が許さない」
何っすかね?その矜持、そんな矜持初めて聞いたっす。
「そうですか、失礼しました、ですがこの街にはそれなりの人口がいますから、魔石コレクターを探すのに時間がかかりませんか?」
「安心しろ、だから情報屋に来たんだろう?この情報屋は何でも知っていると言っていたからな、当然魔石コレクターの居場所くらい知っているだろう」
・・・え?いや、知らないっすけど。
「え、えっと、っすね」
そういえば確かにイーシスさんが最初に自分の店に来た時、私は何でも知ってるっすからね、みたいなことを言った気はするっすけど、それを信じる人って普通いなくないっすか?単なる謳い文句みたいなものだったっすけど。
「もしかして、知らないのか?・・・俺に嘘をついたのか?」
ひぇっ、ちょっと雰囲気怖いっすよ!
これが単なるレベル1の青年だっていうのなら別に怖くも何ともないっすけど、もし本当にどこかの国の王子様とかだったら機嫌を損ねると本当にまずいことになるっすよね?
やばいっす!人生最大の危機かもしれないっす!情報屋は信用で成り立ってるっすから、もしこの王子様の信用を損ねると、もう情報屋として生きていけなくなるかもしれないっす!
ど、どうするっすか!?自分!
でも、ここは素直に謝るしかないっすよね?
ここで嘘をついて、後からバレた方が致命的っすもんね。
何でもは知らないっす、あれは単なる謳い文句っす、と言って謝るしかないっすよね。
きっと素直に謝れば許してくれると信じているっす!
「知ってるんだよな?」
ギロッ
「と、当然知ってるっすよ!当たり前じゃないっすか!」
何いってるっすか自分!?嘘ついたらまずいっすよ!
でも、本当に王子様だったらって考えると、ちょっと威圧感がやばかったっす!しかも今少し睨まれた気がしたっすもん!知らないなんて答えられないっすよ!
「なら教えてくれ」
ど、どうするっすか!?魔石コレクターなんて知らないっすよ!
ここは何とかこの場をしのいで、魔石コレクターの人を探す時間を稼ぐしかないっす!
でも時間を稼ぐ方法が浮かばないっす!
情報の値段を高くしようにも、お金をたくさん持っているであろうウィンターさんがいるっすから、意味なさそうっすし、探す時間をくれなんて言ったら知らないことをばらしているようなものっすもん!
どうするっすか!?自分!絶体絶命の危機っすよ!
「ま、魔石コレクターは」