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外伝7 情報屋 1

「了解っす!承ったっすよ!またどうぞいらしてくださいっすー!」


 不思議な客っしたね。


 自分の情報を売らないでほしいだなんて言う人は初めて見たっす。

 何か知られたくない事でもあるんすかね?


「イーシス・カイさんっすか」


 自分がイーシス・カイさんについて知っていたことは容姿と名前、あとギルドでのことを少しくらいしか知らなかったっすけど、自分の情報を売らないでなんて言われたら気になってしまうっすよね。


 本来なら売れない情報なんて調べたって意味ないっすけど、気になったものは仕方ないっす。


 イーシス・カイさんという人物について調べてみるっすかね。






 流石に、今日1日でわかったことは少ないっすね。


 まず、ステータスは、


 名前 イーシス・カイ


 種族 人間


 LV 1


 HP 100/100


 MP 25/25


 ということ。


 この街の人間じゃないこと。

 1日前に東門からこの街にやってきたこと。


 青色の兎を連れていること。


 冒険者になる事を拒まれたこと。

 ギルドで中位冒険者パーティ、アークロンドに絡まれたこと。

 そして、アークロンドと戦闘になりかけた時、最高位冒険者、ミルタ・ウィンターによって戦闘が止められたこと。

 後ギルドの中で女性に片っ端からハーレムに入らないかと聞いて回っていたこと。


 奴隷商人の元で奴隷を買ったこと。

 その奴隷を冒険者にしようとしたが、MPが0だったためか、ギルドカードに魔力を流せず冒険者に登録できなかったこと。


 宿はマルシェの203号室に泊まっていること。


 自分の情報を隠したがっていること。

 全てのダンジョンの場所を知りたがっていること。


「とりあえずこれくらいっすかね?」


 とりあえずイーシス・カイさんがこの街に来てからのことはそれなりに調べられたっすけど、それ以前の情報が全くないっすね。


 ま、1日で調べられる情報なんてこんなもんっすよね。


 結局、何を隠したいんすかね?秘密らしい秘密なんて、この中ではレベルが1ってことくらいっすけど。


 カランカラン。


 おや、お客さんっすかね?


「いやっしゃいっすー、本日はどのような要件っすか」


 店に来たのはこの街でパン屋を経営しているお爺さんだった。


「いや、すまぬのぉ、こんな遅くに、ちょっとこれ見てくれぬか?」


「いいっすよ、ん?なんすかこれ?」


 見た目は魔石に見えるっすけど、大きすぎるんで流石にないっすよね。

 この大きさの魔石を落とす魔物なんてレベル30前後くらいっすもんね。


 流石にそんな国宝級の魔石をパン屋さんが持ってくるはずないっすよねー。


「魔石らしいのじゃが」


「え!?本当っすか!?」


「いや、正直わからぬ、儂もこの大きさの魔石など見たこともないからのぉ、じゃから主に調べて欲しいのじゃよ」


 あー、ビックリしたっす。まさか本当に魔石なのかと思ったっすよ。


「分かったっす、でも多分魔石を模して作ったオモチャか模造品か何かっすよ、これが魔石ならこの魔石を落とした魔物なんてレベル30程度っってことになるっすからね」


「まぁ、魔石じゃないじゃろう、そんなことは儂もわかっておる、じゃが孫がうるさくてのぉ、一応確認しておこうと思おてな、そうすれば孫も黙るじゃろう」


「はいはい、じゃあ、奥で調べてくるっすよ」






「ちょ!ちょっと!これどこで手に入れたっすか!」


「ん?どうしたのじゃ?もう調べ終わったのか?」


「ええ調べたっす!これ魔石っすよ!本物っす!」


「・・・はぁ、いかんのぉ、最近耳が遠くなって来おって、本物の魔石とか聞こえて来たわい、で、なんじゃって?」


「本物っす!これ!魔石っすよ!」


「・・・ふむ、いつの間にか夢を見ておったわい、何やらその魔石が本物とか聞こえて来おったのぉ、で、なんじゃって?」


「本物!本物っす!レベル30の魔物が落とした魔石っすよ!」


「・・・なんじゃとぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!?バカを申すでない!儂をからかっておるのか!?」


「からかってないっす!本当のことっすよ!こんなものどこで手に入れて来たんすか!嫁を質に入れたっすか!?」


「バカもーん!そんなはずなかろうがぁぁぁぁ!」


「そ、そうっすよね、すみません」


 パン屋のお爺さんとお婆さんはとても仲の良い夫婦っすからね。嫁を質に入れるなんて、冗談でもそんなこと言ったら当然怒るっすよね。


「婆さんにそれほどの価値があるはずなかろうが!パン1斤の価値にも満たぬわい!」


 あれ?仲のいい夫婦・・・っすよね?

 パン1斤の価値にも満たないっすか。

 ・・・後でお婆さんに売るいいネタができたっすね。

 って!


「そんなことどうでもいいっすよ!どうやって手に入れたんすか!?」


「いや、それは孫がギルドから買って来たのじゃよ」


「え?お孫さんってお金持ちなんすか?」


「そんなはずなかろう!孫が金持っておったら儂はあんなボロっちいパン屋などとっくに畳んでおるわ!」


「そ、そうっすか」


 ボロっちいパン屋っすか。

 いつも大層なことを言っていた気がするっすけど、気のせいだったんすかね?


 代々受け継がれて来たこのパン屋を儂が守り続けるのじゃ、とか、潰すことなどあり得ぬ、儂が死のうとパン屋は死なぬ!とか、儂の孫がこのパン屋を継いでくれるじゃろう、この誇りとともにのぅ!って言ってた気がするんすけどねー。


 誇りって埃のことだったんすかね?お金の前には軽く吹き飛んでしまうような。


「昨日のことじゃ、儂は孫をギルドにお使いに行かせたのじゃ、ちょうど店の魔石の魔力が切れそうだったからのぅ、それで孫が買って来たのがこの魔石じゃった」


「・・・えっと、ギルドで買った?そんな大金を渡していたっすか?」


「バカもん!そんな大金があったら、儂はパン屋を潰してそこに儂の銅像を建てておるわ!」


 誇りはやっぱり埃っすね。


「儂が渡したのは銀貨50枚程度じゃよ」


「あ、結構いい魔石を使うっすね」


「当然じゃ!儂のパン屋は世界一美味いパンを作っておるのじゃ!魔道具から設備まで超一級品ばかりじゃからのぉ!なら当然魔石にもこだわらぬとな!」


 ボロっちいパン屋なんじゃなかったんすかね?


「それに安い魔石は直ぐに魔力が尽きるじゃろう?それはめんど・・・効率が悪いからのぉ、いちいちギルドに買いに行くこともめんど・・・効率が悪いからのぉ」


「ああ、面倒くさいってことっすか」


「な!?そ、そんなはずなかろう!面倒だから孫をお使いに行かせたなどそんな事実はない!いずれ孫はパン屋を継ぐのじゃ!その為には色々知っておかねばならぬじゃろうが!儂はただ面倒だからと魔石を買いに行かせたわけではないぞ!」


「そ、そうっすねー」


 きっと面倒くさかったんすねー。


「そうじゃそうじゃ!全く、孫はどこからこんなものを持って来たのじゃ!ちょっと待っておれ!孫を呼んでくるわい!」


「あ、逃げたっすね」






「連れて来たぞい!」


 パン屋のお爺さんがお孫さんを連れて店に駆け込んで来た。


「は、早いっすね、まだ1分と経ってないっすよ」


「お、お爺ちゃん、はぁ、いきなりどうしたの?」


 お爺さん、随分元気っすね。


「この魔石はなんじゃ!大きな石ころじゃなかったのか!」


「はぁ、はぁ、やっと、僕の話を信じてくれたの?」


「これをいきなり渡されて魔石だなんて言われても信じられるはずなかろう!なんじゃこれは!」


「イーシスさんって人がくれたんだ」


「え?イーシスさんっすか?」


 イーシスさん、もしかして、というより間違いなくイーシス・カイさんのことっすよね?どういうことっすか?


「なぜその、イージーさんとやらがクロスにこんな魔石を渡したのじゃ?」


「イーシスさんだよお爺ちゃん、あのね、僕、ギルドから魔石を買った帰り道で魔石を落として割っちゃったんだ、それで困っていた時に、イーシスさんが僕にその魔石をくれたんだ」


「はい?」


 魔石を渡したっすか?え?その魔石を?


「そんな高価なものをイーシスさんはくれたっすか!?」


「え!?これって高価なの?でも、イーシスさんはそんなに強くなかったから大した価値もないだろうって言ってたよ」


「こんな大きな魔石を落とす魔物が弱いはずなかろう!」


「これ、レベル30の魔物の魔石っすよ!強くないわけないじゃないっすか!」


「レベル30?それってどれくらい強いの?えっと、僕が今6レベルだから、6たす6たす6たす6たす6で、・・・うん!30になったよ!だから僕が5人いれば倒せるってことだよね!」


「そんなに弱いはずがなかろう!たとえクロスが何人いようが倒すことなど不可能じゃよ!それほどの強さを持っておるのじゃ」


「この街で勝てるのなんて誰もいないっすよ、あ、今はミルタさんがいるっすからミルタさんなら勝てるかもしれないっすけど、ミルタさん以外だときっと歯が立たないっすよ!」


「そんなに強いの!?じゃあこの魔石って、スチームクラスターバルパンが沢山買えちゃうくらい高いのかな?」


「それって確か一個銀貨10枚とかいう特大パンっすよね?そっすね、多分10ミスリル貨はくだらないだろうっすから、1万個以上は買えるっすね、売るところによっては、きっともっと高く売れるっすよ」


「え!?あんな高いものをそんなに買えちゃうの!?ど、どうしよう、イーシスさんに返したほうがいいよね?」


「いーや、これはもう儂のものじゃ!イージス艦だかイースター島だか知らぬが誰にも渡さんぞい!返す必要などないわい!」


「え?」


「それはクロスがもらったのじゃ!そしてクロスは儂の店に渡したのじゃ、儂の店のものは儂のもの、つまりこの魔石はもう儂のものなのじゃよ、ふっふっふ、10ミスリル貨、銅貨で数えたら1000万個、儂の、儂の銅像が立つぞい!よし!パン屋を潰して銅像を建てるぞい!」


「え!?潰しちゃうの!?ダメだよ!あの店は代々受け継がれてきた大切なパン屋さんなんでしょ!?」


「そんなことどうでも良い!金じゃ!儂は大金を手に入れたんじゃ!」


「ダメだよ!お爺ちゃん!」


「うるさい!儂は大金持ちじゃ!お金があれば思う通りに暮らせるのじゃ!儂はパン屋を潰す!」


「お爺ちゃん、その魔石はお店のものなんだよ!お爺ちゃんのものじゃないんだよ!」


「儂の店のものは儂のものじゃ!」


「違うよ!それって横領って言うんだよ!悪いことなんだよ!お婆ちゃんに言いつけるからね!」


「な!?ま、待つのじゃ!婆さんに言うのだけは勘弁してくれぬか!?」


「ダメ!言うから!」


「わ、分かった、ならこの魔石の価値の半分、5ミスリル貨をクロスにやろう、だから婆さんには黙っておいてくれぬか?」


「ダメ!そうしたらお爺ちゃんパン屋潰しちゃうもん!僕はパン屋を守るんだ!誇りを持って守るんだ!」


「ぐ、ぐぬぬ、もうパン屋を守る誇りを持っておるのか、くっ、儂がしっかり教育しすぎたことが仇になったか」


 しっかり誇りは受け継がれていたんすね。

 だからもう受け継がれた後だからお爺さんの誇りは埃になってたっすねー。


「この魔石は僕が預かるから!返すにしてもお店で使わせてもらうにしても、お爺ちゃんには預けられないよ!お爺ちゃんに渡していると勝手に変なことに使っちゃいそうだから!」


 カランカラン


「クロスくん、帰っちゃったっすね」


  まだイーシスさんについて色々聞きたかったんすけど、また後日っすかね。


「ああ、儂の10ミスリルが〜、儂の銅像が〜、何故じゃぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」


「うっさいっすよ!もう夜なんすから、そんな騒がないでくださいっす!」


「何故なのじゃぁぁぁぁぁ」


 カランカラン


「はぁ、今日は驚きの一日っすね」


 イーシスさん、ますます興味が出てきたっすよ。

 これは全力を持って調べてみるしかないっすね!

 でも今日はもう遅いっすからまた明日っすかね。


「店を軽く掃除して寝るっすかね」


 今日はもう終わりっす。

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