第43話 帰還
どれいの意味がわかった。そんなものがあるなんて知らなかった。でも、知らなかったじゃあ済まされないことだ。
僕は取り返しのつかないことをしてしまった。
他者の意思によって動かされる、行動を、思考を強制されるなんて許されることじゃない。絶対にだ。
かつて、そのせいで大切な・・・ん?なんだろう?
とにかく許されることじゃない。
「本当にすまなかった」
僕は頭を下げた。お兄ちゃんの頭を下げさせてしまった。
でも、悪いことをしたら謝らないといけない。
「謝る必要など何もありませんよ」
「え?」
一瞬、僕は誰に何を言われているか分からなかった。
聞きなれない声だった。
でもすぐにイリアだとわかった。
「主は私に1度でも酷いことを命令なさいましたか?これから先、私に酷いことを命令する気があるのですか?」
「そんなことするはずがない!」
お兄ちゃんはそんなことはしない!
「そうでしょう?何もしていないのですし、これからも何もする気がないのなら、主が謝る必要などないのです」
「だが、そういう問題では」
「私は主の奴隷で良かったです、主の奴隷になることが出来なければ、私はもっと酷い目にあっていたでしょう、主は私を救ってくださったのです」
「そう、なのか?」
よく分からない。
僕はイリアを救っていない。
「ええ、ですから私はこれからも主の奴隷として、ハーレムメンバーとしてお側にいさせてください」
「いい、のか?本当に」
まだ僕のパーティメンバーでいてくれる?本当に?
「はい、これからもよろしくお願いします」
「ああ、ああ!よろしく頼む!」
「・・・えと、良かったね?」
うん、良かった、イリアが優しい人で良かった。
当人が僕のことを許してくれているからきっと大丈夫だよね?
でも、僕の命令に逆らえないというのは不安じゃないだろうか?
僕から、死ねとか、苦しめとか、嘆け、怒れ、絶望しろ、といった命令が来ないとも限らないんだから、怯えながら過ごすことにならないだろうか?
もちろん今の僕はお兄ちゃんだからそんなことはしない。
けど、イリアをどれいじゃなくせるなら無くしておいたほうがいいよね?。
あ、でもイリアが自分からどれいとして側に置いてくださいって言ってたから、いいのかな?
まあいいか。どのみち、どれいじゃなくす方法なんて僕知らないし。
今回のことで痛感した。僕は知らないことが多すぎる。なんとか誤魔化し誤魔化しやって来たけど、今回のような致命的なミスを起こしかねない。
何か対策を取らないと。
とりあえず報酬を分けたら街に戻ろう。
「イリア、受け取ってくれ」
イリアに今日のダンジョン探索での獲得物の3分の1を手渡そうとした。
ミルタさんには渡してあるから、あとはイリアに渡すだけだ。
「受け取れません」
だけどイリアは受け取ってくれなかった。
「何故だ?」
「私は主の奴隷です、つまり私の物は主のものなのです」
「イリアの物はイリアの物だ、どれいだからなんて関係ない、それに共にダンジョンに潜ったんだ、だからこれはイリアのものだ、受け取ってくれ」
「ですが、私はもう十分すぎるほど」
「受け取った後はどのようにしても構わない、だからとりあえず受け取ってくれ」
「・・・はい、分かりました」
イリアもダンジョン探索での獲得物を受け取ってくれた。
こういったことはしっかりしないとダメだから。
あまり活躍していないからとか、付いて来ていただけだから、と言って分け前を減らすのはダメなことだ。
お兄ちゃんはそんな事をする人じゃないからね。
よし、後は街に帰るだけ。
「帰るぞ」
僕たちは街に帰った。