外伝3 アメイリア・ランリッツェル 6
その後もいろいろなことがあった。
主がピィナーちゃんと会話していたと思ったら、急に黙り込んで、そうしたらドラゴンがいきなり敵意むき出しで吠えてきたり。
主が空間魔法のようなもので取り出した紙をドラゴンに向かって投げたと思ったらいきなりドラゴンが消えてしまったり。
その後いきなり主が吹き飛んだと思ったら、少女を連れてきたり。
そしてその少女は実はさっきまでいたドラゴンだったり。
もう、訳のわからないことが多すぎる。
頭が事態に追いついていかない。
しかも、そのドラゴンの少女は相殺する審判竜と言う名前のようだ。
相殺する審判竜、本で読んだことがある。
確か、国を2つ滅ぼしたドラゴンのことだったはず。
大昔に、ドラゴンに守られていた2つの国があって、その2つの国同士が争いを始めてしまったと。
そしてドラゴンに味方になってもらおうと両方の国が動き出して、結局その両方の国をドラゴンが滅ぼしてしまったっていうのが大まかな話の流れだったはず。
まさかその話に出てくるドラゴン?本物?
「ふぎゃ!」
・・・そんなはずないか。
こんなよく転ぶようなドジっ娘と、本に出てくるドラゴンの姿が結びつかない。
多分違うドラゴンなんだろう。
とりあえず、ドラゴンのことをツェーンちゃんと呼ぶことになった。
そして主はツェーンちゃんの卵を取り返すことに協力するようだ。
本で読んだことがある。ドラゴンは卵生で、メスのドラゴンはパートナーとなるオスのドラゴンがいなくとも卵を作ることができると。
ただし、パートナーとなるオスのドラゴンがいた方が基本的に強いドラゴンが生まれてくると。
確か[バードリーのドラゴン観察記録]という本にそんなことが書いてあった気がする。
ツェーンちゃんは一人だからパートナーはいないのだろうか?それともパートナーは別のことをしているのだろうか?
その後、街から離れようとしているツェーンちゃんの卵を奪った人達を見つけた。
主は本当に卵を奪った人達なのかを確認してくると言って、消えた。
・・・主はなんでもできるのだろうか?私が知る知識ではあり得ないことばかりを行なっている。
主はすごい。
その後もいきなり黒い空間が広がったり、1度見失った卵を盗んだ人たちの場所を特定したり、卵がいきなり主の目の前に現れたりと常識知らずなことばかりが起こった。
一瞬私の常識が間違っているだけかとも思ったけど、他の人達も驚いている様子だったため、やっぱり主がすごいのだろう。
主はすごいだけではなく、優しさも持っている。
たとえドラゴンだとしても、困っていたら協力をするし、そのドラゴンの卵を盗んだ人達とも、戦ったり倒そうとしたりはせず、話し合いで解決しようとしていた。
あれだけの力を持っているのだから、大概は力押しでなんとかなりそうなものなのに。
だけど生き物を殺すことはよくないと、そう言って主は力を振るわなかった。
今思い出してみると、主はドラゴンが来ると分かった時、街の前で待機していた。
あれもドラゴンに街を荒らさせないためにあそこに待機していたのかもしれない。
だけどエルフのミルタさんがドラゴンと戦いに行ったから、街の入り口から離れてドラゴンの方に向かっていったのだろう。
・・・そんな主なら、もしかしたら、強くなりたいと主に願えば、私を強くしてくれるかもしれない。
奴隷でしかない私を。
普通レベル5の、しかも奴隷が願ったとしても強くなんてしないだろう。
でも主は優しい。今まで奴隷の私にも、他の人にも酷いことをしているところは見たことがない。
私の場合は、主が私のことを奴隷って気づいていなさそうということもあるけど。
そんな優しい主なら、言葉が話せるようになって強くなりたいと願い出ることができれば。
私は主を主に持てたことは幸運だったのかもしれない。
私は魔力を持たない欠陥品の吸血鬼だ。吸血鬼の特徴、種族スキルを一切使うことが出来ない出来損ないだ。
でも主に教えを請えば、こんな私でも強くなれるかもしれない。
かつての家の者よりも、東方の武者よりも、お父様よりも、お母様よりも、そして、お姉様よりも、私は強くなれるかもしれない。
そうなれば、そうすれば私は。
4人から主人が卵を奪い返した後、ピィナーちゃんが人質、いや兎質?にとられた。
その後、ピィナーちゃんが大きな大きな怖いドラゴンになった時は、開いた口が塞がらなかった。
主だけじゃなく、常識外れなのはピィナーちゃんも一緒のようだった。
どうしよう、あれだけ可愛かったピィナーちゃんが凶悪なドラゴンになった時は夢でも見ているかのようで、信じたくなかった。すごいショックだった。
その後4人は逃げて、ピィナーちゃんは元の兎に戻り、ツェーンちゃんはドラゴンになった。
ツェーンちゃんは卵を持って来た方向に去って行った。
ピィナーちゃんは元の兎に戻ったけど、もう気軽に触ったり撫でたりすることが出来なくなりそうだった。
撫でていてもドラゴンになった時のことを思い出して癒されなさそうだ。
あと、主は子供がコウノトリに運ばれて来るって信じているようだった。
主はどこかズレている。
その力も常識的じゃないし、私が主の奴隷ということも気づいていなさそうだし、考え方も少し違っているように思える。
でも、子供がコウノトリに運ばれて来るってことを信じているあたり、内面は見た目よりも子供なのかも知れない。
そういったところが、少し微笑ましい。
「俺はイリアと寝たが、子供は生まれなかったぞ」
!?ち、違います!確かに同じ部屋で寝ましたけど!その言い方では誤解を!誤解ですよ!
でも、私は話せないため、首を横に振ることしか出来なかった。