外伝3 アメイリア・ランリッツェル 4
主に買われた次の日、冒険者ギルドに行くことになった。
ギルドのことは本で読んだことがあるから知識としては知っているけど、実際に行くのは初めてだ。
少しだけ興味もあったから期待もしていた。
でも、中に入ったら雰囲気はかなり悪かった。
周りの視線が冷たい。
奴隷、奴隷と声が聞こえてきた。間違いなく私のことを言っているんだろう。
私は買われた時の格好のままだ。
奴隷の服に奴隷の鎖、どこからどう見ても奴隷の格好をしているから、みんな私が奴隷と言うことがわかるのだろう。
やっぱり奴隷は受け入れられないのだろうか。
私は主に言われたように冒険者になるため、ギルドの受付を訪れた。
そこで受付嬢から冒険者について説明された後、冒険者になるためにギルドカードを渡された。
だけどMPを持たない私には、ギルドカードに魔力を流すなんて訳のわからないことができるはずがなかった。
つまり私は冒険者になれなかった、主の言いつけを守れなかった。
主に失望されたかもしれない。
そう思ったけど、主はあまり気にしていなさそうだった、良かった。
主は私を冒険者にすることは諦めるようだ。
ギルドでの出来事で一つだけ気になったことがあった。
受付嬢は主が冒険者になることを拒んでいて、そして今もうレベル5になったのかと聞いていたことだ。
冒険者は基本的に誰だってなれるものだって書いてあった。拒まれる人なんていないと思っていた。
でも主は拒まれていた。何故なんだろう?
そして、レベルって聞くとやっぱりステータスに記されているレベルのことのように思うけど、主がレベル5以下ならあの巨大な魔石の魔物を倒したなんてありえないだろうし、なんなんだろう?よく分からなかった。
その後、主は情報屋に行った。
その情報屋では、主は情報屋に対して主の情報の口止めと、ダンジョンの場所を聞いていた。
自分の情報を口止め、よく分からない、何か知られたくないことがあるのだろうか?
そしてダンジョンの場所はこの街から東側の森の中にあるようだ。
その後は食事をして、主はバックを買ってら宿に帰っただけだった。それでその日はだいたい終わり。
あとは宿で主が紙に何か変な模様を沢山書いていたくらいだろうか。そしてその紙と、空間魔法のようなものから取り出した紙を買ったバックに詰めていた。
あれは何をしていたんだろう?
次の日になった。
主はダンジョンに向かうとのことだった。
最初はピィナーちゃんはお留守番と言っていたが、途中で主が根負けしたのか、ピィナーちゃんもついてくることになった。
やっぱり主はピィナーちゃんと会話ができるのかな。
そんなことを考えていたら、いきなり主が私に触れて来た。
前触れも無かったから一瞬びっくりしたけど、その後頭の中に文字が浮かんで来て、更にびっくりした。
その文字は、
パーティを組みますか?はい/いいえ
という文字だった。
これは、確か本で読んだことがあった気がする。パーティ編成のスキルだ。
確か、パーティを組んだ人の名前とHPとMPが視界の端に表示されるようになるだけのスキルだったと思う。
私はパーティを組むことを了承した。そうして、主人の名前とHP、MPが視界の端に表示された。
イーシス・カイ HP 100 MP 24
「!?」
HP100、MP24!?
私の視界の端にはそのように表示された。
先ほどまで眠っていたのだから、HPは最大まで回復しているはず。つまり主の最大HPは100ということになる。
それだと、まるで主のレベルは1みたいだ。
そうだ、受付の人も言っていた、レベル5になったらって、もしかして主は本当にレベル1?
でもそんなことあり得るの?見た目は20歳前後くらいかな?そんな歳までどうやったらレベルを上げずに済むんだろう?よっぽど無理だ。
それに主は大きな魔石の魔物を倒したと言っていた。
でもそれは嘘だった?
いや、でもあんな魔石を見知らぬ子供にポンと渡せるくらいだから、どうなんだろう?
そんなことを考えていたら、主はダンジョンに向かうらしい。当然私もついていかなければならない。大丈夫なのだろうか?不安だ。
先ほどまでは主はかなり強い方だと思っていたから尚更だ。
私、今日ダンジョンで死ぬのかもしれない。
主は街の入り口で、兵士の方と話を始めた。
その兵士の方の話では、今から向かうダンジョンは初心者のダンジョンと呼ばれるほど簡単なダンジョンだと言っていた。
良かった、そんなダンジョンなら死ぬこともないかもしれない。
でも主はレベル1だ、そう主が言っていた。
なら、死んでしまうかもしれない。やっぱりダンジョンに私達だけで向かうのは反対だ。だってレベル1と5と兎さんしかいないから。
そんなことを考えていたらこの街にドラゴンが向かって来ていた。
・・・訳がわからない。基本的に魔物は街を襲うことはないと本には書いてあった。
それなのにあのドラゴンはまっすぐこっちに向かって来ている。
ドラゴンは最強の魔物って言われている。ドラゴンを討伐するには、国が総力を挙げても難しいと書いてあった。
そんなドラゴンがこの街に向かって来ている。この街は今日滅んでしまうかもしれない。
兵士の人はギルドにこのことを伝えてくると言い、街の中に入って行った。
もし、ドラゴンが本当にこの街を襲いに来ているんだったら早く逃げないと!
「ここでしばらく待つか」
え!?なんで!?ダメ!ダメですよ!ドラゴンが来ているんですよ!早く逃げないと!待つなんてダメです!
私は首を横に振った。
「どうしたんだ?イリア」
お願いです、伝わってください!早く逃げないと!
「もしかして、早くダンジョンに行きたいのか?」
違います!そうじゃないです!ダンジョンも行きたくありません!
「何か用事を思い出したのか?行ってもいいぞ?」
私は主の奴隷なんですから、用事なんてありませんよ!それに私は主人から離れられないんですから、たとえ用事があったって無理ですよ!
あと、行ってもいいぞ、だと命令にならないです!
違うんです!私が言いたいことは!早く逃げようってことで!
でも、主に私の意思が伝わることはなかった。
ドラゴンはどんどん迫って来ている。時間がないのに。
「[冒険者の皆さん!緊急依頼です!至急ギルドにお集まりください!一刻の猶予すらない可能性もあります!冒険者の皆さん!直ちにギルドへ!]」
街の方から大きな音が聞こえて来た。先程の兵士の人がギルドにドラゴンのことを伝えたんだろう。
主はこの場所を動こうとしなかった。
主はドラゴンを見ている。それなのに顔に恐怖が浮かぶことも、焦ったりしている様子もない。
リラッスクしているかのようだ。いつも通り、そんな感じだ。
ドラゴンが向かって来ているのに、まるでなんともないかのように。
なんでそんなに落ち着いていられるんだろう?