第6話 ジャイアントキリング 2
あの魔物は僕に一切攻撃当たっている様子がないこと、そして僕のHPを削れないことがわかると、僕を殺すことを諦めたのか、背を向けて歩き出した。
多分住処に帰ろうとしているんだろう。
だけどそれは光の壁に阻まれた。
「グァ」
魔物は不思議そうにしている。
その後魔物は壁を頭で何度も触った。
「グガァ?」
そしてその後頭突きをし、体当たりをし、技巧スキル[アサルト]を使い光の壁に突撃したが、光の壁はビクともしない。
「ガァ?」
魔物は何度も壁に攻撃を繰り返しだが、破れる気配はない。
「ガァァァァァ」
魔物はブレスのスキルモーションに入った。
光の壁をブレスで破壊しようとしているのだろう。
「ガァ!」
そうして岩の塊が飛んでいき、光の壁を通り抜けた。
「ガァガァ!」
その後魔物はまた歩き出した。
しかし、光の壁に激突した。
「ガァ!?」
多分あの魔物の[ブレス]が光の壁を越えたから、破ったと思ったんだろう。
だけど、[フォースコンバット]はあくまであの魔物がこの光の空間の中から出られなくなるスキルのため、攻撃は素通りする。
その後、首で何度か結界を触った後、別の方向に向かって歩き出した。
だけどそこにも光の壁があった。
「グァグァ?」
魔物はその壁を頭で何度か叩き、また別場所に歩き出した。
「グガァ?ガァガァ」
しかしそこにも壁がある。
それを何度も何度も繰り返し、結界の内周を2周くらいした後に、魔物がこちらを振り返った。
「ガァ?」
魔物と目があった。
「グァ、ガァ、グガァァァアアアア!!!」
あの魔物は何かに気づいたのか、僕に向かって吠えた。
そうしてまた、僕に向かって攻撃を始めた。
きっとこの光の空間を作っているのが僕だって気づいたんだろう。
その後の攻撃も、僕は全て空中に浮きながら[円月蹴輪]でかわし続けた。
そうして、時間が過ぎていった。
夜になっても、フォースコンバットの光の空間が光っているため、暗くて見えなくなるということはなかった。
夜になってくると、あの魔物の攻撃頻度が下がっていった。
もしかしたら疲れてきたのかもしれない。
「グガァ、・・・グ、グガァ、・・・・・グァ」
その後何度か攻撃をかわし続けていると、魔物が座り込んで、目を閉じた。
疲れて眠ろうとしているんだろう。
だけどそんなことはさせない。僕は眠らなくていいから、魔物にも眠らないでもらおう。
これは別にいじめじゃない、だって僕も眠らないんだもん、魔物だけ眠るなんてズルだ。
だから寝かさない。
僕は眠気を感じないけど、これはいじめじゃない。
僕は[マーカー]で[グラビトン]の魔法陣を書いた。
「[グラビトン]」
黒い玉が、魔物に飛んでいき、当たった。
だが、よっぽど疲れていたんだろう、あの魔物はまだ寝ている。
よし、MPの回復も済んだし起こそう。
僕は右手の肘を曲げ、手はチョキの形から人差し指と中指を少し曲げ親指を広げ、手の甲が相手に向いている状態を作った。
この体勢で[ショット]が発動できる。
ここでMPを消費し、人差し指と中指の間に魔力の球が生成される。
そして、右手を前に出しながら人差し指と中指を伸ばす。指の間の魔力の球を相手に投げる感じだ。
これが魔法スキル[ショット]のスキルモーションだ。
このスキルのダメージ倍率はかなり低い。[ショット]より通常攻撃の方がダメージを与えられるくらいだ。
だけど[ショット]は遠距離攻撃ができて、スキルの出が早く、クールタイムがかなり短く、そして何よりノックバック効果がある。
魔力の玉が魔物に当たり、魔物がノックバックした。
「グガァ!?」
それにより魔物は起きた。
「ガァァアアア!グガァァア!!」
あの魔物は、睡眠を邪魔されたことを怒っている。
その後何度も攻撃をしてきたが、また疲れてきたのか攻撃頻度が落ち、また眠ろうとした。
僕はそれを[ショット]を使ってノックバックさせ続け、邪魔し続けた。
ノックバックとは、自身の最大HPの1割以上を削られるか、ノックバック効果のあるスキルで攻撃された時、強制的に体がのけ反ることをいう。
ノックバック中と終了直後、スキルモーション中、そして特定のスキル使用中はノックバックしない。
そうしてまた時間が過ぎていく。
日が昇り始めた。あの魔物は暴れまわっている。
僕に攻撃してくることもあるけど、光の空間内の物を全て破壊し、踏み潰した。
「ググガガガァァァァアアグギギガガグガァァァァアア!!!」
多分お腹が空いて、寝不足で辛いんだろう。そのイライラを周りのものにぶつけている感じだ。
そうしてまた時間が過ぎていく。
太陽が真上に登った。
あの魔物は、周りに八つ当たりするものがなくなると、落ち着いたのか、また僕に攻撃を集中した。
今度はあの魔物は[ブレス]のタイミングを少しずつ遅らせていき、最後に最速で[ブレス]を放ってきた。
多分タイミングをずらそうとしたんだろう。
おそらくあの魔物には、もう僕が縦回転している時には攻撃が効かないが、それ以外なら当たることはバレているだろう。
だからタイミングをずらして回転を間に合わせなくしようとしたのだろうが、僕には通用しない。
だってもう[ブレス]の最速発動時間は掴んでいる。だから少しずつ遅らせていっていることにも気づいていたし、あの魔物の思惑も分かっていた。
その後も魔物は工夫を凝らしながら攻撃を繰り返してきたが、僕が直撃を食らうことは一度も無かった。
夕方になった。僕が空中で透過して岩を避けた後、あの魔物は凄い勢いで横に振り返った。
「ん?どうしたんだろう」
僕はその魔物の視線を追いかけると、小さな青い兎がいた。
兎は普通、白い毛を持っているはずだけど、なぜかその兎の毛は青かった。
そしてその兎は、[フォースコンバット]の範囲内、光の空間内にいた。
「なんで!?」
動物は寄って来ないはずなのに!
「グガァァァァアアアア!!!!!!」
あの魔物はよだれを垂らしながら、青い兎の方に全力で向かっていった。
「やばい!」
僕も[ジェット]で全力で追いかけたが、少しだけあの魔物の方が早い。
「ピィ!?ピィィィィィ!?」
あの青い兎は、よだれを垂らしながら目を血走らせ直進してくる魔物の存在を認識し、ガクガク震えている。
僕は飛びながら、[ショット]を発動した。
魔物が青兎を食べようと口を開き、噛み付こうとした瞬間に[ショット]の球が当たり、ノックバックをし、ほんの少し時間を稼げた。
「ピィ?」
その瞬間に僕はなんとか追いついて、兎を抱き上げた。
だけど、あの魔物はまた青兎を、そして青兎を抱いている僕を食べようと、口を開け、噛みつこうとしてきた。
もう[ジェット]で飛んでも逃げられない。
だけど、僕は殺されるわけにはいかない!間に合え!
「[イモーバル]!」
ガチン!
魔物の口が閉ざされた。
・・・だが、僕は生きている。
魔法陣スキル[イモーバル]の発動が、ギリギリで間に合った。
「ガ、ガァ、グ、ガ、」
魔物は僕を全力で噛みちぎろうとしているが、噛みちぎることが出来ない。
次に魔物は僕に噛み付いたまま、引っ張ろうとしてくるが、それでも僕は動かない。
この魔物に噛みつかれている間は動けない。
スキルの効果が切れれば、即噛みちぎられる。
腕は動かせるが、動かしている間はそこにだけ力がかかるようになる為、腕も今動かすと腕だけ噛みちぎられる。
「ピィ?ピィィ」
青兎が、僕の腕の中でもがいている。
「ピィ!・・・ピィ?」
青兎が、僕の腕から顔を出した。
だけど周りが真っ暗で疑問に思っているようだ。
今噛みつかれているから真っ暗だ。
あの魔物が離れた。
「ピィィィィ!?ピピピピピピィ」
僕の腕の中で青兎が震えている。あの魔物を怖がっている。
「大丈夫だよ、大丈夫」
「ピィ?」
青兎はやっと僕の存在に気づいたのか、僕の方を見上げた。
「君をあの魔物に食べさせなんて絶対にしない、だから安心して」
お兄ちゃんがいっていた。怖がっている子がいたら、安心させてやるものだって。
だから僕は小さな青兎が安心できるように、優しく語りかけた。
「ピィ、ピィピィ!」
この青兎を、魔物には食べさせない。だって食べられたらその分餓死までの期間が延びるから。
別にこの青兎は死んでもいいけど、食べられるのだけはダメだ。なんとか[フォースコンバット]の範囲から逃がさないと。
逃しておけば、食べられることは絶対になくなるから。
僕が殺しておく?うーん、さっき安心させたのに、ここで殺すのはなんか違うかな?やっぱり逃がそう。
今はダメだ。今[イモーバル]を解除してもフォースコンバットの範囲から逃がせない。追いつかれて噛みつかれるだろう。
上に逃げても[ブレス]を当てられるかもしれない。
この青兎を抱えたまま、[円月蹴輪]の発動はできない。つまり[ブレス]を[ジェット]で避けなくてはならない。
よっぽど避けられるとは思うけど、もう少し待って完全に諦めてからの方がいいかな。
その時に逃がそう。
その後もあの魔物は何度も噛み付いてきた。体当たりしてきたこともあった。その度に腕の中の青い兎がピィピィ叫んでいた。
一応、この青兎がなんなのか見ておいた方がいいかな?
「開眼せよ、万物を見通す識別の魔眼!」
名前
種族 妖精
LV 1
HP 28/28
MP 46/46
称号 [生物]
「そうか、妖精なのか」
妖精は魔物でも動物でもない、だから寄ってきたんだと思う。それも多分生まれたての妖精だ。
基本的に[魔物]は高レベルで誕生することもあるが、[生物]は1レベルで誕生する。
レベル1から2までは本当にすぐに上がる。近くで[生物]や[魔物]が死ぬだけで、レベルが上がるほどだ。
だからLV1ってことは僕やお兄ちゃん以外は基本的に生まれたばかりだっていうことだ。
妖精は、個体によって姿形が千差万別だ。だから僕は毛が青いだけの兎だと思っていた。
よく見ると普通の兎とはちょっと違う。
「グガァァァァア!!!」
あの魔物は僕を全力で攻撃するようになった。
僕を噛むだけじゃなく、踏みつぶそうとしたり、[アサルト]をしてきたりした。
だけど僕はその場所を一歩たりとも動かなかった。
あの魔物に動かされることもなかった。
魔物が地団駄を踏み出した。
いや違う、[アースクウェイク]のスキルモーションだ。
不味い、いや大丈夫だ、ここで逃げよう。[アースクウェイク]が発動する一瞬前に[イモーバル]を解除して、全力で後方にジェットで飛ぶ。そしてフォースコンバットの範囲から逃す。
「後ろに飛ぶよ、気をつけて」
「ピィ?」
僕はタイミングを図った。
1回目、2回目、3回目!ここだ!
僕は[イモーバル]を解除して、[ジェット]で後ろに吹き飛んだ。
「ピィー!!!!」
「グガァ!」
青兎が驚いて叫んでいる。
そして地面が揺れた。
「ピィーー!!!!」
また青兎が驚いて叫んでいる。
僕はそれを無視して、フォースコンバットの範囲内ギリギリまできた。
地震が止み、僕は地面に降りて青兎を離した。
「行って、もうここに近寄っちゃダメだよ」
「ピィ?」
僕はジェットで上に飛んだ。
その少し後、僕のいた所には魔物がきた。
「ガァ!グガァァァアア!ガァァ!!!」
魔物は全力で光の壁にぶつかり、唯々青兎を食べようと口をガシガシさせている。
「ピ、ピィー!!!!!」
あの青兎は森の奥に逃げて行った。
「よし、良かった」
「ガァ、ガァァ、グガァァァァアアアア!!!!!」
あの魔物は、もう理性がなくなったかのように暴れ回り始めた。
目の前でご馳走に逃げられたから、心底イラついているんだろう。
別にこれもいじめじゃない、僕はただ青兎を助けただけだ。それに僕だって何も食べてないんだから、あの魔物だけ食べるのはずるい。
だからこれはいじめじゃない。
僕は空腹を感じないけど、いじめじゃないんだ。