第42話 帰り道
これ、この待機形態で固まったままの超剛金鐡肢マークⅣをどうしよう?
諦めないでなんとか攻略法を探す?でもパッと考えた感じだと、一切攻略法がないように思えた。
仕方ないから一度、他のダンジョンを攻略しに行こうかな?
この状態でもなんとかする方法はきっとある。お兄ちゃんに不可能はないから、お兄ちゃんと同スペックの僕に不可能なんてない。
でも今それが思い浮かばない。
こういう詰まった時は一度時間を置いてみたり、他の事をすると解決策が見つかったりするものだってお兄ちゃんは言っていた。
でもそれは一時だとしても、初心者のダンジョン攻略を諦めるって事だ。
そんなことあってはならないことだけど、僕には時間を無駄にしている暇はない。
このダンジョンを初心者のダンジョンと言うくらいだ。
世の中には強い人が溢れかえっている事だろう。
だからこそ僕はもっともっと強くならないといけない。
こんなところで立ち止まっている暇はない。
いずれ必ずリベンジする。必ずまたここに戻ってきて待機形態の超剛金鐡肢マークⅣを倒してみせる。
だからそれまで、ずっと待機形態のままで待ち続けていてね。
「帰るぞ」
「・・・え?これは?」
ミルタさんは超剛金鐡肢マークⅣをつつきながら僕に聞いてきた。
ミルタさんの目はまっすぐ僕を見つめている。
無表情で氷のようなその瞳に真っ直ぐ見つめられていると、なんだか責められているような気がしてくる。
まあ当然なのかな、僕がこの初心者のダンジョンを攻略不可能なダンジョンにしてしまったのだから。
いや、ミルタさんが僕を責めているっていうのはもしかしたら僕の勘違いで、単純に僕が後ろめたいからそう感じるだけなのかもしれないけど。
でも、本当にどうしよう?やっぱり他人の迷惑になっちゃうよね?
もう少しここで攻略法を考えようかな?
いや、帰る、さっきそう決めたんだから、帰ろう。
「それはまた後でだな」
「ピィ?(終わり?)」
「ああ、終わりだ、とりあえず街に帰るぞ」
いずれ必ず倒す。なんとしてでも。
今回のダンジョン探索の成果は、称号を獲得することはできなかったけど、魔石やドロップアイテムはそれなりに集めることができた。当面の資金の確保はできたかな?
残念ながらイリアの声を戻せるような何かはここにはなかったと思う。
ああ、そうだ、みんなにちゃんと今回の獲得物の配分をしないと。
イリアは話せないけどずっと僕についてきているし、ミルタさんもパーティじゃ無いけど、同じように冒険したから、配分しないとね。
ピィナーは・・・ペットだしいいのかな?
でも配分は安全な街の中の方がいいのかな?
いや、ダンジョンをでたら[アミュレット]を発動してパパッと分けちゃおう。
僕たちは帰り道で出てくる魔物もちゃんと倒しながらダンジョンを抜けた。
繋がれ、無限の空間、万物の収納箱、[アイテムボックス]
僕はダンジョンを出た後、アイテムボックスに入れていた魔石とドロップアイテムを取り出した。
それを3等分に分け、分けたものをまずミルタさんに渡した。
「ミルタ、受け取れ」
「・・・これ、何?」
「何って、今日得た魔石とアイテムだ」
「・・・受け取れない」
「何故だ?」
「・・・これ、あなた倒した、私、ついて行っていただけ」
遠慮しているのかな?でも受け取ってもらわないと困る。
「同じように探索したんだ、なら当然受け取る権利がある」
「・・・無い、あっても放棄する、あなたの物」
どうして受け取ってくれないんだろう?
報酬は探索した人数でしっかり分けないとダメだ。
付いてきただけだから報酬はないなんて、そんな狭量な人にお兄ちゃんをしちゃダメだから。
「付いて来ただけだからと報酬を渡さないなどという、そんな狭量な人間に俺をしないでほしい」
「・・・」
あ、そっか、所詮初心者のダンジョンだから、それほどレアなものとか、良いものじゃないから受け取る気がないって事なのかな。
要するにゴミを押し付けられているように感じるのかもしれない。
それは確かに受け取らないかも。
でもちゃんと分けないといけないから。
「別にいらないというなら捨ててもらっても構わない、だが受け取るだけは受け取ってほしい」
「・・・そこまで言うなら」
良かった、ミルタさんが優しい人で。
多分本当はいらないんだろうな。
それでも受け取ってくれた、僕の為に。
「ありがとう」
「・・・え?えと、うん」
とりあえずミルタさんには報酬を渡せた。あとはイリアに渡すだけだ。
「イリア、受け取れ」
「・・・」
イリアはミルタさんと違って素直に受け取ってくれた。多分さっきのやりとりを見ているから、本当はいらないのかもしれないけど受け取ってくれたんだろう。
「ありがとう」
「・・・」
「よし、これで報酬の分配は終わったな、さて、帰るか」
「・・・あの」
「ん?」
「・・・なんで、奴隷に報酬?」
ん?ミルタさんの口から奴隷という言葉が出て来た。
奴隷に報酬?どういう意味だろう?あ、そういえば結局まだ僕は奴隷について調べられていないんだ。
服じゃなさそうだったし、多分何かのステータスかなって思ってたけど、どうしてステータスに報酬って言葉が出て来たんだろう?
「奴隷に報酬?どういう意味だ」
あ、不味いかも、もしかしたらこの発言だと、奴隷について知らないって思われてしまうかもしれない。
「いや、当然奴隷については知っているぞ、そんな事は誰だって知っている事だからな、俺が知らないはずはないだろう?」
「・・・う、うん?」
よし、誤魔化せた。良かった。
「ただ、双方の認識が違っている可能性というものもある、だからそのことについて詳しく話してほしい」
「・・・え?」
誤魔化したと同時に今の発言について詳しく話してもらえるように頼めた。これで奴隷について何か知ることができるかもしれない。
「・・・えっと、イリア、イーシスの奴隷?違う?奴隷は主人の所有物」
ん?どういうことだろう?
そのまんま捉えると、まるでイリアのことを奴隷って言っているみたいだ。奴隷っていうのは物だって商人の人が言っていたから、それだとイリアが物ってことになってしまう。
人が物なんてあり得ない。
「何を言っているんだ?イリアが奴隷?そんなはずないだろう」
「・・・そうなの?」
「ミルタ、奴隷って言うのは物なんだ、でもイリアは人だぞ?人が物のはずないだろう?」
「・・・え?奴隷は人、物のように扱われる人」
物のように扱われる人?
「そんな人いるはずないだろう?知っているか?天は人の上に人を作らず、人の下にも人を作らずだ、人は人、全員平等なんだぞ?」
「・・・そんなことない、下も上もある」
あ、そうだ、お兄ちゃんだけは特別なんだ、だからお兄ちゃんだけは上だね。
でもそれ以外は全員平等なんだ。平等なのに人を物のように扱うなんてあり得ない。
「・・・奴隷は人を指して言う言葉、奴隷は主に絶対服従を強要される、主に逆らえない、だから物のように扱われることもある」
そんな話があるなんて信じられない。人を物のように扱う?そんな人がいるの?
・・・そういえばあのツェーンの卵を盗んだ4人組も、奴隷の話をしていた。奴隷の女性と、そして使い捨てられるだけと。
確かにその発言は、今のミルタさんの話とつながる。繋がってしまう。
街の人も僕達を見て奴隷の話をしていた。イリアが奴隷と言うことなら、確かに奴隷を持っているって一目見ただけでわかる。
・・・もしかしたら、本当にミルタさんの言っていることが正しい?いや、でも、
「・・・奴隷は奴隷紋によって逆らえない、体に奴隷紋があれば、奴隷と言うこと」
そう言ってミルタさんはイリアに近づいて行った。
「・・・奴隷紋は基本的にお腹にある、お腹見せて、ごめんね」
ミルタさんはイリアのお腹を確認している。
「・・・イリアは奴隷、奴隷紋がある、あなたの奴隷?」
イリアは体に奴隷紋というものがあったらしい。つまりイリアは奴隷だとミルタさんは言っていた。
でも、でもそんなはずは、
「確かに俺は奴隷を買ったが、それがイリアだった?奴隷とは、人のことを言っていた?そんなはずはない!俺は、俺がそんなものを求めていたはずがない!」
お兄ちゃんは奴隷を欲していた。
もし奴隷と言うのが物のように扱われる人なら、お兄ちゃんが欲するはずない。
「・・・奴隷は主人の命令、拒否できない、だから奴隷、悲惨な目にあう、奴隷を持っている人、酷い人、一般的な認識」
「そ、そんな」
お兄ちゃんが酷い人?そんなはずはない!
お兄ちゃんがそんなものを求めていたはずはない!ありえない!何かの間違いだ!
・・・何かの間違い?僕が聞き間違えた?
そうか、僕が聞き間違えたのか。
確かに僕が1歳になる前くらいだったから、聞き間違えていてもおかしくはない。
ああ、僕はなんて聞き間違いをしてしまったんだ、そのせいで、お兄ちゃんが酷い人だと思われてしまった。
僕は失敗だらけだ。
「・・・イリアが話せないのも、主人の命令がないから、多分、話せるように命令すれば、話せるようになる」
イリアが話せなかったのは僕のせいだったのか。
もし、これで本当に話せるようになったのなら、ミルタさんの話は全て真実ということになる。
「イリア、命令だ、話せるようになれ」
「はい」
初めて、イリアの声を聞いた。
イリアは、これで話せるようになったってことだ。
つまり、イリアが話せなかったのは僕が原因ってことなんだ。
「俺は、なんて事を」
「・・・え?」
「イリアは俺の命令に逆らえない、ああ、そうか、イリアが俺のハーレムに入ってくれたのも、命令に逆らえないからだったのか、当然だよな、俺はまだ冒険者じゃない、そんな奴のハーレムには入りたい奴なんていないか」
「・・・」
「すまなかった、イリア、いや、謝って済まされる問題じゃない」
僕はなんて事を、許されることじゃない、その許されることじゃない事を、お兄ちゃんの名でやってしまった。
僕はどうしてこんなにもダメなんだろうか?