第38話 ダンジョン 2
洞窟の構造自体は変わっていなさそうだった。
相変わらず壁が薄く光っている。
気を引き締めていこう。ここから罠も敵もさっきまでとは桁違いになるだろうから。
早速、奥から魔物が現れた。
名前
種族 幻鬼
LV 23
HP 38707/38707
MP 75830/75830
一気にレベルが上がった。
やっぱり強い、これが子供でも老人でも誰だって攻略できる初心者のダンジョンなのか。
「・・・嘘」
正直舐めていた、他の人たちのことを。
このダンジョンを誰でも攻略できるんだ。
僕はいつの間にか、天狗になっていたのかもしれない。
特別なお兄ちゃんと同じスキル、称号、ステータスを持っていて、お兄ちゃんになりきっているから、僕は特別なんだって心のどこかでは思っていた。
でもそうだ、僕はお兄ちゃんじゃない。
お兄ちゃんは特別でも、僕は特別じゃないんだ。
僕は自分のことをそれなりに強いと思っていたけど、全然なんだ、最強の道はまだまだ遠い。
頑張らないと!
僕は最強にならなければならないんだ、初心者のダンジョンなんかにつまづくわけにはいかない。
まずはこの魔物を殺そう。
この魔物の種族は幻鬼、鬼は基本的に魔法が苦手な種族だけど、この幻鬼は魔法の方が得意な種族だ。
幻鬼は、位置を誤認させたり、幻鬼が何体にも分裂して見えるようになる幻系の種族スキルを持っている。
だから幻を使われたら、幻を破る[トゥルーミラー]を使うか、範囲攻撃で無差別に攻撃すれば良い。
あと、[生物感知・魔法]で反応するところに本体がいるから、大体の位置は把握できる。
この幻鬼はMPが減っていないからまだ幻を使っていないはず。
なら、幻を使われる前に殺そう。
僕は地面を踏みしめて土を蹴り上げた。
「[サンドボール]、[アディション][ディスアセンブル]」
[サンドボール]が敵に向かって飛んで行った。
幻鬼は少し横に動いて[サンドボール]の軌道から逃れたが、[サンドボール]が幻鬼の横を通過する時、[サンドボール]に付加した[ディスアセンブル]の効果が発動し、そこで[サンドボール]が全方位に散らばった。
全方位に散らばっているため、ヘルフレイムハウンドのように256個全てが当たったわけではないが、近くで散らばったため、16発以上は当たった。
幻鬼の体力は38707なため、1発2500ダメージのサンドボールが16発当たれば死ぬ。
幻鬼は倒れた。
「・・・なんで」
蘇生可能時間が過ぎ、死体が消えて、そこには今までよりも大きな魔石と、ツノが1本だけ残った。
初めて魔物が魔石以外の素材を落とした。
ツノ、何か使い道があるのかな。とりあえずとっとこう。
「・・・私、見極められそうにない」
ミルタさんが何かを言っていた。
「どうした?」
「・・・ううん」
何だったんだろう?まあいいか。
僕たちはダンジョンを進んでいった。
「止まれ」
しばらく進んでいると、僕のパッシブスキル、[トラップサーチ]に反応があった。
僕の正面にトラップがある。
[トラップサーチ]はトラップの位置がわかるスキルだ。位置はわかるがどのようなトラップかはわからない。
でもどんなトラップかわかっても僕は解除用の装備やアイテムを揃えていないからそんなに関係ないんだけどね。
一応トラップの先には基本的に宝箱がある。
だから解除して、もしくは罠にかかりながら進んでいけばいい装備品やアイテムを見つけられることは出来るから資金集めのためには取っておきたくはあるけど、死ぬ危険性があるから宝箱は諦める。
たとえトラップ解除用の装備を揃えても、トラップ解除に失敗するとトラップが発動してしまうから。
だから僕はトラップ解除用装備やアイテムを整えずにダンジョンに来たわけだ。
ダンジョンの攻略だけならトラップを通る必要はない。必ずトラップがない道が1つはあるから。
そうお兄ちゃんは言っていた。だから間違いない。
この先に進む必要はないかな。
「戻るぞ」
「・・・え?うん」
「ピィー(ずっとおなじでつまんないー)」
ピィナーがつまらなさそうにしている。
ピィナーはただ洞窟を歩いているだけだもんね、それはつまらないかもしれない。
あ、でもいいね!もしかしたらピィナーは次からはついて来たいって言うことが無くなるかもしれないから。
今回のダンジョンは初心者のダンジョンというだけあって敵とのエンカウント率はそれほど高くない。
でもダンジョンによっては敵が目の前からいなくなることがないほどのエンカウント率を誇るダンジョンもあるとお兄ちゃんは言っていた。
そんなところにピィナーを連れて行って範囲攻撃が出来なくなると、ちょっと面倒くさいことになりそうだから、ピィナーがダンジョン探索をつまらないと思ってくれるのは大歓迎だ。
もともとペットは家で帰りを待つものだからね。家無いけど。
このダンジョンの中ボス後の魔物は幻惑系モンスターが多かった。中ボス後の魔法陣が[スティール・アイテム]って言う、物を盗むスキルだったから幻惑系の魔物が多いのかもしれない。
幻惑系の魔物以外にもジャライネズミという害悪ネズミもいた。
それほど強く無いけど、[ウェポンスティール]と言う害悪なスキルを使ってくるネズミだ。
[ウェポンスティール]はジャライネズミの種族スキルで、装備している武器をジャライネズミが奪ってくるスキルだ。
そのスキルの発動条件はジャライネズミに武器が触れること、つまり近接系の武器を使って攻撃すると武器が盗まれる。
その盗まれた武器は[スティール・アイテム]等で盗み返さないでジャライネズミを倒してしまうと、ほとんどの確率で消滅してしまう。
装備品は装備している者が死ぬと、稀にドロップアイテムとして落ちることはあるけど、ほとんど消える。
だから盗まれると面倒臭くなるから害悪ネズミだってお兄ちゃんが言っていた。
でも、ミルタさんは杖を装備しているようだけど、僕は武器を装備していない。
そしてミルタさんは僕の後ろからついて来ているから、害悪ネズミに武器を盗まれるなんてことはなかった。
それに、一応ミルタさんの武器がとられる可能性も無くはなかったから、ジャライネズミが出てくると分かった時に、[アイテムボックス]から[スティール・アイテム]の魔法陣を取り出してバックに入れておいてある。
もし取られてもいつでも取り返せるようにね。
そうして魔物を倒しながらトラップを避け、進んでいくと、目の前に大きな扉が見えて来た。
この扉の先には、このダンジョンのボスがいる。
どんなダンジョンにも基本的に扉が存在して、扉の向こう側にはボスか中ボスがいる。
中ボスはもう倒しているから、この先にいるのはボスだ。
途中からミルタさんも戦おうとしていたが、それは僕が止めた。
「・・・何で?」
と聞かれたけど、女性は守るものだ。
ミルタさんは同じパーティじゃ無いけど、それでも僕について来ているんだ。
なら僕が守らないと。
それにジャライネズミに武器がとられたら面倒くさかったってこともある。
大規模魔法陣はできるだけ消費したくない。書くのが大変だからね。
「よし、行くか」
僕はボス部屋の扉を開けた。
中には一匹の魔物がいた。でもその魔物は幻惑系の魔物でも何かを盗んでくるような魔物でもなかった。
ガシャンガシャン!シャキーン!
中にいた魔物はロボットだった。