第35話 夢 3
(俺は戦えない、だから避難誘導をしよう)
(俺は弱い、それでも街の南で戦う!)
「俺は、戦えない、なら出来ることをやろう、ギルドマスターも言っていた、戦えない奴は非戦闘員の避難でもしてろって」
「・・・」
「俺が強くなっていれば、いや、今は出来ることをやるぞ!後悔はやれること全部やった後にすればいい!グズグズするな!俺!」
「皆さん!慌てず騒がず、街の中心に向かってください!大丈夫!冒険者の皆さんが必ず魔物を倒してくれます!だから落ち着いて!」
「うう、おかあさーん!」
「大丈夫か?」
「うぅ、お母さんが」
「逸れたのか?」
「う、うん」
「みんな街の中央に避難している、お母さんもきっとそこに避難してるはずだ、だから街の中央まで行けばお母さんに会えるぞ、立てるか?」
「うん」
「よし、強い子だ、一緒に行くぞ」
「ここが街の中央の広場だ」
「あ、メル!何処に行っていたの!?」
「あ、お母さん!」
「心配したんだからね!もう!よかった、本当に良かったわ!」
「うん、あのね、あのおにーちゃんが連れてきてくれたんだ」
「そうなの?ありがとうございます、メルを連れて来てくださって」
「ありがとう!おにーちゃん!」
「いいってことよ!じゃあ俺はこれで」
「え、行っちゃうの?」
「俺にはまだ出来ることがあるはずだからな」
「頑張って!」
「おう!」
「もうだいたい避難は終わったか?街の外が騒がしい、もう戦いは始まっているのか」
「・・・」
「・・・そういえば、カレンを見てないな、もしかしてまだ避難していない?カレンは戦える人じゃない、魔物と戦っているってことはないだろうし、もしかして、魔物の襲撃に気づいていない?いや、そんなことはないか」
「・・・」
「でも、嫌な予感がする、今動かないと後悔するような、そんな予感が、どうする?」
(探しに行こう、もしかしたらってこともあるかもしれない)
(ただ俺が見つけれてないだけで、もう避難しているだろう、心配のしすぎだな、ここで待っていよう)
「探しに行こう、確かカレンはここから南のあの塔の上がお気に入りって言っていた、もしかしたらそこで寝ていてこの事態に気づいていないなんてこともあるかもしれない、いや、流石にそれはないか、でも一応探しに行こう」
「それでいい」
「ガルルル!」
「きゃー!」
「っ!?カレン!何で魔物が街の中に!?」
「ガルルル、ガァ!」
「くそ!間に合えぇぇーー!」
キィーン!!!
「間に、あった」
「え、ーーーーさん?」
「カレン!逃げろ!街の中央まで!」
「そ、そんな、ーーーーさんを置いて行くなんて!」
「っく、心配するな!俺を誰だと思ってる?俺は勇者だ!だから死にはしない!だから早く行け!逃げろ!」
「・・・どうかご無事で!」
「ガルルル」
「行かせるかぁ!」
キィーン!
「お前らの相手は、この俺だ!ここから先へは行かせない!行かせてなんてやるものかよ!」
「はぁ、はぁ、何だこの魔物たちは、魔物同士で争わない、普通の魔物じゃないのか?」
「ピャー!」
「っく!あぶねぇ!」
「ガルルル!」
「っち、俺は今死ぬわけにはいかない、せめて、カレンが逃げられる時間を稼がないと!」
「ピャー!」
「ガハッ、っ!まだ、まだだ、俺が負けるわけには、ここで俺が負けるわけにはいかないんだ!俺は今、カレンの命も背負っているんだ!それだけじゃない!他の街のみんなも、この魔物たちが向かえば危ない、俺が何としても食い止めるんだ!」
「ギィィ!」
「が、あ、あ、俺、は、負ける、わけ、に、はーーーーーー」
「・・・ここは、教会?何で・・・あ、俺は死んだのか、・・・そうだ、カレンは!無事でいてくれ!」
「な!?こ、こんなところにまで魔物が!?」
「〜〜〜♪」
「な、何だ?歌?」
「ガ、ガァァァ!?」
「ピャー!?」
「ギィィ!?」
「ま、魔物が、死んだ?なんで?・・・いや今はそんなことよりもカレンの無事を確認することの方が先だ!頼む、無事でいてくれ!」
「・・・あ、これ、俺が渡した、」
「・・・」
「それに、これ、・・・嘘、だよな、違う、よな、そんな、そんなはず!嘘だ!違う!・・・・・・・・・あ、ああ、ああああああああああ!!!!!」
「・・・」
「くそ!クソ!クソォ!!!何で!何で!何でだよ!・・・守れなかった、救えなかった!俺は、勇者だったのに!何で、何でこんなことに!俺はただ平穏な暮らしを、平和な日常を求めていただけだったのに、俺が、俺が弱かったから!俺が、負けたから!もっと、もっと強ければ!・・・何で、なんでだよ!」
「魔王の仕業だよ」
「・・・アルター、か?」
「全部、魔王が悪いんだ、この街が襲われたのも、魔物を操っていたのも、・・・君の大切な人が、死んだのも、全部魔王の仕業だよ、魔王が全て悪いんだ」
「・・・魔王、が」
「そう、これは全て魔王が行ったことだ」
「・・・なんで」
「魔王は人の悲しみを求めている、人の苦しみを求めている、絶望を、嘆きを、怒りを、憎悪をね」
「魔王」
「そう、だから君が戦うんだ、倒すんだ、仇を討つんだ、勇者である君が、魔王を殺すんだ」
(魔王を殺す?・・・そうだ、魔王が悪いんだ、魔物を操って街を襲わせた魔王が、カレンを奪った魔王が悪い!俺が必ず殺す!)
(・・・)
「・・・」
「君にしか、勇者にしか魔王は殺せない、だから、これ以上悲しむ人が出ないようにするためにも、これ以上、誰かが傷つくことを防ぐためにも、君が!」
(これ以上、誰も傷つけさせないためにも、誰も悲しむ人が出ないようにするためにも、俺が魔王を殺す!)
(・・・)
「・・・」
「魔王だ、全ての元凶は魔王だ、何もかも、魔王が悪いんだ」
(何もかも全て魔王が悪い!カレンを奪った魔王が憎い!魔王を殺す!)
(・・・いや)
「・・・いや、違うよ、アルター」
「え?」
「俺が、俺が全部悪いんだ」
「な、何を、違うよ!君は悪くない!魔王が全て悪いんだ!」
「違うよ、俺が、俺が弱かったのが悪いんだ、俺がもっと強ければ、俺が強くなっていれば、・・・アルターは言ってたよな、強くならないと後悔するよって、そう、何度も警告してくれていたよな、でも俺はそれを無視していた」
「ーーーー」
「俺はどこか平和ボケしていたんだ、こんな身近な誰かが死ぬことになるなんて、考えてもいなかった、想像すらしていなかった」
「でも魔王が!」
「たしかに、魔王が魔物を街に嗾けたのかもしれない、でも、俺が強ければ、俺が強くなっていればこんなことにはならなかったんだよ」
「それは違うよ!」
「違わないさ、魔物は南からきた、強い戦力のいなかった南からな、もし俺が強くなっていて南側を守っていたら、街に魔物が入ってくることもなかった」
「・・・」
「それに、あの魔物たちに俺が殺されなければ、倒せなくても、もっと時間を稼ぐことができていればイリアが死ぬことはなかった」
「・・・」
「全部、俺が悪いんだよ、勇者の俺がな」
「ーーーーは何も悪くないよ、魔王だよ!悪いのは全部!魔王なんだよ!」
「アルターは言ってたよな、いつか君は後悔する事になる、君に大切な人ができた時、もっと強くなっていればって、そう思う時が必ず来る、大切なものを守るためには、力がいる、君は強くならなければならない、それは勇者の宿命だ、逃れることはできないってさ」
「・・・うん」
「そうだよな、本当に、そうだよな、もっと強くなっていればって後悔してるよ、守るためには力がいる、それに、勇者の宿命」
「・・・」
「俺は逃げていたんだな、その勇者の宿命ってやつからよ、だからこんな後悔をする羽目になったんだ・・・もう、俺は逃げない、戦う、強くなる、そして、守りたいもの全てを守ってみせる、勇者って、そういうものだろ?」
「でも、魔王がいなければ、こんなことにはならなかったんだよ!魔王は殺すべきなんだよ!君にしか、ーーーーにしか魔王は殺せないんだよ!」
「確かに、そうかもしれないな」
「なら!」
「ああ、魔王は倒す、だけどそれは憎んでじゃない、復讐のためでもない、みんなの平和を守るためだ」
「・・・うん」
「アルター、俺は強くなるよ」
「うん!頑張って!」
「ああ、・・・カレン、守れなくてすまなかった、勇者だって、カッコつけたのにな・・・俺は今日という日を忘れない・・・忘れない」