第31話 子供
「もう嫌なのじゃー!卵は取り戻せたのじゃから妾を早く元の姿に戻すのじゃー!」
ツェーンは転んだまま地面をゴロゴロと転がって、手足をバタバタさせながら駄々をこねている。
「グガァ、(お腹すいたよー)」
ドーン!ドーン!
「・・・な、なに、」
ピィナーも地面に寝転がって手足をバタバタさせている。ツェーンの真似かな?ミルタさんが驚いている。
でも体の大きさが桁違いだから、可愛げとかはまるでない。
一応少し距離を開けてからピィナーはツェーンの真似をしたから潰されることはないけど、軽く地面が揺れている。
「ピィナー、やめろ」
「グガァ(はーい)」
ピィナーはバタバタすることをやめた。
「グガァ、グガァ、ガァァ(お腹すいたー、美味しそう、食べていい?)」
バタバタすることをやめたピィナーの目線は真っ直ぐ卵に向かった。
口からはよだれが垂れており、今にも卵に食いつきそうだ。
「な!?だ、ダメじゃ!これは妾の卵なのじゃ!食べ物ではない!」
食べ物じゃない?え?卵なのに?
「食べ物じゃないのか?」
「なぜそなたが驚いておるのじゃ?」
「いや、ツェーンはその卵を早く食べたいから、取り戻そうとしていたんだろう?」
「な!?馬鹿を言うでないわ!妾が自分の子を食べるはずがなかろう!」
「自分の子?何の話だ?今は卵の話をしていただろう?」
「だから卵の話をしておるじゃろうが!」
「ん?いや、今ツェーンは子供の話をしていなかったか?」
「この卵から妾の子が生まれてくるのじゃから、卵の話は妾の子の話じゃろうが!」
「卵から、子供が生まれる?何を言っているんだ?子供はコウノトリが運んでくるものだろう?」
お兄ちゃんがそう言っていたから間違いない。
「・・・え?」
「コウノトリ?コウノトリとは何じゃ?」
「コウノトリはコウノトリだぞ?というより、ドラゴンは魔物なんだから自動で沸いてでてくるものなんじゃないのか?」
「その辺りの魔物とドラゴンを一緒にするでない!ドラゴンは卵から生まれてくるものじゃ」
そうなんだ、人と魔物とドラゴンとでは生まれ方に違いがあるんだ。
魔物は自動的に沸いて出てくるけど、ドラゴンだけは卵から生まれてくるらしい。
つまり、卵にも食べられる卵と子供が生まれる卵があるってことになるんだよね?
で、この卵は食べられない卵らしい。
「そうか、ピィナー、この卵は食べられない卵のようだ」
「グガァ?ガァァ(そうなの?おいしそうなのに)」
ピィナーは残念そうにしている。
「ふむ、それにしても、人間とは卵から生まれてくるわけではないのじゃな、コウノトリじゃったか?そ奴が子供を運んでくると」
「そうだ」
「不思議じゃのぅ」
「・・・そんなこと、信じてるの?」
「ん?何がだ?」
「・・・コウノトリ」
「信じるも何もないだろ?子供はコウノトリが運んでくるんだから」
「・・・違う、子供は男女の交わりで生まれるもの」
「男女の交わり?何だそれは?どこでそんな話を聞いたのかは知らないが、ミルタの知識は間違っているぞ」
お兄ちゃんが間違っているはずがないからね。
「・・・そんなことない」
「だいたい男女の交わりとは何だ?」
「・・・そ、それは」
ミルタさんが言いよどんでいる。
「答えられないのか?」
ミルタさんの知識は他人から聞いた間違った知識だから、詳しく答えることが出来ないってことかな?
「・・・そ、その、男女が同じ部屋で寝ること、い、一夜を共にすること」
同じ部屋で寝ること?一夜を共にすること?
やっぱりミルタさんの言っていることは違う、もしそうならイリアと同じ部屋で寝たから子供が生まれるはずだもん。
「俺はイリアと寝たが、子供は生まれなかったぞ」
「!?」
イリアは首を横に振っている。
「・・・え?」
「ん?どうしたイリア?」
「・・・」
イリアは何かを全力で否定するかのように首を横に振り続けている
どうしたんだろう?
気にはなるけど、でもイリアとは意思疎通は測れないからとりあえず置いておくしかないかな。
さっきの話に戻ろう。
「確かに自分の信じていたことが間違っていたなんてなかなか受け入れがたいものだとは思うが、事実は事実として受け止めなければならないぞ」
「・・・それ、私の言葉」
「自身の間違いを認めることが出来るのが大人というものだ」
「・・・なら貴方は子供?」
「俺ではなくミルタが子供だな」
「・・・子供」
「むぅぅー、そんなことはもうどうでも良い!早く妾を元の姿に戻すのじゃ!」
「グガァァァアア!(お腹すいたー!)」
どうやらもうツェーンとピィナーは我慢の限界のようだ。
だから[アイテムボックス]からいろいろ取り出そう。
「繋がれ、無限の空間、万物の収納箱、[アイテムボックス]」
僕は[アイテムボックス]を発動した