第30話 ドラゴン
「お、おお!さすがセツキ!普段は俺らの中で一番常識的なこと言ってっけど、ここぞというときは一番えげつねぇことするよな!そこに痺れる憧れるぅー!って、なんで兎なんだよ!脅しになんねぇだろうが!」
「し、仕方ないじゃないですか!だって私の実力で勝てそうな相手なんてこの兎と奴隷の女性だけなんですから!」
「ピィー(お腹すいたー)」
どれい?なんで今どれいって言葉が出てきたんだろう?それにどれいの女性?どういう意味だろう?
それとピィナーはお腹が空いたらしい。
「あー、それならー、仕方ないねー」
「奴隷なんて使い捨てられるだけ、脅しになんてなりません」
使い捨てる?お兄ちゃんが欲していたものを使い捨てになんてする気は無いけど、というよりどれいが何かわからないから使い捨てるも何もわからないんだけど。
やっぱりどれいってみんな知っていることなんだね。
「それだけじゃねぇだろ?昔の自分と」
「シンカ!それ以上言うと怒りますよ」
「ピィ!(びっくり!)」
「わ、悪りぃ悪りぃ」
「はぁ、それにこの兎はレベル10です、兎にしてはレベルが高い、基本的に食用の家畜はレベルを上げすぎると殺した後の肉が硬くなってそれほど美味しく無くなりますから、レベル10まで上げることなんてありません、つまりこの兎は愛玩用のペットということです」
へー、レベルが上がると美味しくなくなっちゃうんだ、じゃあレベル30のピィナーは美味しくなかったんだね、じゃあ、食べなくてよかった。
「お、おお、凄ぇな、よくそんな推測できるもんだ」
「そして、ジャイアントキラーのミルタさんはペットを飼っているなんて聞いたことはありません、ドラゴンがペットを飼うということも考え難い、奴隷にはペットを飼う自由などない、つまりこのペットはーーー、いいえ、イーシスさんのペットということになります」
「ピィー(おろしてー)」
「ヒュー!さっすがハーフリンク!頭いいぜ!俺にもその頭分けてくれ!」
ハーフリンク?ああ、セツキと呼ばれている人は小さいと思っていたけどハーフリンクだったんだ。
「そ」
「話さないでください!もし言葉を話したら、私は兎に攻撃します」
「ピィ!(びっくり!)」
セツキと呼ばれている人は大きな声で僕の言葉を遮ってきた。
「どうしたのー?」
「彼に言葉を話されると、また卵と同様なことが起こり得ますからね」
「あ?なんで?」
「彼は私たちの知らない何かをしてきます、だけどそれはいつも妙な言葉を紡いだ後でした、確かごく一部の地域の風習か何かに詠唱というものがあったはずです、それと似たようなものでしょう」
「ピィー(はなしてー)」
「詠唱ってなーにー?」
「私は詠唱についてあまり詳しいわけではありませんから説明は省きますが、彼が私たちの知らない何かをするためには、特定の言葉を紡がなければならないのでしょう、先程卵を奪った際も小声で何かをつぶやいていましたから」
すごい、魔法陣スキルのとこを知らなさそうだったのによくそこまでわかるね。
魔法陣スキルを発動するためにはかならずスキル名を言わないといけないから、言葉を話せなくなった場合魔法陣スキルは使えない。詠唱は関係ないけどね。
つまり相手に何も話させないというのは有効な手段だと思う。
「よく見てんな、さっすが!」
「だが、余裕が崩れない、何か策があるのか?」
「さあ、イーシスさん、この兎を返して欲しければエンシェントドラゴンから卵を奪い、私たちに渡してください、そして私たちを見逃してください」
「ピィー(お腹すいたよー)」
「ひ、卑怯者め!卵の次は兎を盾にするとは性根が腐っておるのではないか!」
「ピィ、ピィー(はなさないと、やっちゃうぞー?)」
「なんとでも言ってください、私たちは目的のためならなんだってしますから、さあ!イーシスさん!」
「断る」
「え?今何と」
「断ると言ったんだ」
「やはり、俺たちは何かを見落としている?」
「この兎がどうなってもいいのですか?」
「やりたいならやればいい」
セツキと呼ばれていた人はさっき私の実力で勝てそうな相手の中にミルタさんを含まなかった。
つまりミルタさんには勝てるかわからないということだ、そのくらいの実力ということは、ピィナーを一撃で倒すことはできないだろう。
もし仮にピィナーが1撃で死んでも対処はできる。
それに卵をツェーンから取り上げるとまたツェーンが困ってしまう。それは出来ない。
「ピィー?(いいー?)」
「ピィナー、いいぞ、でも殺さないように気をつけてな」
「ピィ?ピィ!(いいの?うん!)」
「・・・まさか!」
「ピィー!([リメイク]!)」
「な!?くっ!」
セツキと呼ばれた人は弾かれるように飛んで行った。
「とう!ナイスキャッチ俺!」
「うっ、ありがとうございます、シンカ」
そして、
「グガァァァアア!!!(つよいぞ!)」
ピィナーの姿が兎から青いグランドドラゴンに変化した。
「「「「「なっ!?」」」」」
「う、兎が、妾と同じドラゴンに、」
「で、でかーい!」
「や、ヤベェって、マジヤベェって!」
「そ、そんな」
「ガァァアアア!!(こわいぞ!)」
「・・・撤退だ!もう我々にはどうすることもできない!撤退だ!卵は諦める!」
「「「り、了解!」」」
そう言って4人は一目散に駆け出して行った。
「グガァァァアア!(でっかいぞ!)」
「・・・はぁ、もう何でもありね」
「兎がドラゴンに?ドラゴンが兎?まさか妾も兎じゃった?妾は兎?・・・あ!あの者らが逃げておるではないか!いつの間に、待たぬかー!待つのふぎゃ!」
ツェーンは4人を追おうとし、慌てて走って行こうとしたが、すぐに転んだ。
「う、うう、もう嫌じゃー!」