第29話 盗み
うーん、出来れば4人の方から卵を返して欲しかったけど、話し合いでは返してくれそうにないから盗むしかないのかな?人のものを盗むことはよくないことだから極力やりたく無かったんだけど、どうしよう。
・・・あ、そうだ、きっと大丈夫だ。
今からやることは盗みじゃない、ツェーンに卵を返してあげるためにすることだ。
物を元の持ち主に返してあげるだけだから、問題ないよね?
あ、でも卵の位置がわからないや。4人のうち誰が持っているんだろう?
1度冷静になって誰が持っているか考えてみよう。
そういえば、確か最初に街で4人組と会ったとき、ピィナーは隊長と呼ばれていた人の方に向かって行って、美味しそうと言っていた。
この人達は卵しか食べ物を持っていないと思うから、つまり隊長って言う人が卵を持っている?
でも卵って匂いってするのかな?多分しないと思うけど、温めてあるなら匂いはするのかな?
うーん、でもこれだけだと根拠が薄いな、もう少し何かないか探そう。
そういえば、さっきアルターとして戦っていたとき、隊長と呼ばれている人だけ僕に攻撃してこなかった。
ほとんどあの人は動いていない。大きなリュックを背負っているから、動きにくいのかもと思ったけど、もしかして、卵を割らないために戦いに参加しなかったとかないかな?
そういえば、卵の大きさってどれくらいなんだろう?
僕は今までポケットに入る程度の大きさだと思っていたけど、ツェーンがそこまで固執して、この4人組もなかなか手放さないものなんだから、もしかしたら結構大きかったりするのかもしれない。
「ツェーン、卵はどれくらいの大きさなんだ?ポケットに入るくらいか?」
「そんなはずはなかろう、こーれくらいじゃ!」
ツェーンは大きく手を広げ大きさをアピールしていた。
思っていたよりかなり大きかった。
ずいぶん大きい卵だ。そんなに大きいなら、もう持っている可能性がある人は1人しかいないかな?
隊長と呼ばれていた人は大きなリュックを背負っている。つまりそこに卵が入っているんだろう。
[アイテムボックス]に入れていることはないだろう、だっていつでも割る準備はしているって言ってたから、[アイテムボックス]の中にあったら割るのに一手間かかってしまう。
「なるほど、卵はそのリュックの中か」
「だったら?もし何か妙な動きをしたら直ぐにでも割るからな」
「や、やめるのじゃ!」
ツェーンは卵を割られたくないようだ。
もしここで詠唱をしたら妙なことって思われそうだ。
つまり詠唱をしてはいけない。
でも大規模魔法陣スキルを使うのに詠唱をしないなんてお兄ちゃんじゃない。
どうしよう、小声でいえばいいかな?それとも心の中で?
うーん、よし、小声で唱えよう。
「これより行なうは禁じられた技、他者より奪う盗賊の秘技、我が狙うもの、貴様の元から消え去り我が前に現れん、[スティール・アイテム]」
僕は背中のバックに入っている大規模魔法陣を使い、[スティール・アイテム]を発動した。
その瞬間、僕の手の上に大きな卵が現れた。
「「「「「な!?」」」」」
「・・・はぁ、常識はずれ」
「わ、妾の卵じゃ!本物じゃ!これは間違いなく妾の卵なのじゃ!ああ、やっと、やっと帰ってきたのじゃ!」
「な、にをした!」
「貴様から卵を盗んだだけだ」
「な、」
隊長と呼ばれていた人は絶句している。
もしかして、盗まれるとは思わなかったのかな?
「貴様達も卵をツェーンから盗んだんだろう?それなら当然盗まれる覚悟もしておくべきだ」
「感謝するのじゃ!イーシス!」
あ、お兄ちゃんが感謝された!やったー!
「これで困りごとは解決か?」
「うむ!妾の困りごとは解決じゃ!さて、この者達にどう落とし前をつけさせようかのぅ」
よし、もうツェーンを殺してもいいんだよね。
困っていたから助けたけど、ツェーンは魔物だし、人じゃないしね。
あー、でも人型じゃなくてエンシェントドラゴンの姿に戻さないと。
卵を取り返したら戻してあげるって言ったしね。
「っく、」
「よくも妾の卵を盗んで、あまつさえ盾にしてくれよったな」
「た、隊長、マジヤバっすよ!どうするんすか!」
「わー、絶体絶命だー」
「絶対に許さぬぞ!」
「皆さん、こちらにご注目ください」
「ピィ、ピィ?(わー、なにー?)」
声のした方を見ると、ピィナーを抱きかかえ、ピィナーに杖を当てているセツキと呼ばれていた人がいた。
「卵をこちらに渡してください、出ないとこの兎がどうなっても知りませんよ?」