第28話 交渉
僕は[アイソレーション]を解除して、ミルタさん、イリア、ピィナー、ツェーンと合流した。
「おお!生きておったか、どうなったのじゃ、妾の卵は、取り返して来たのじゃろう?」
ツェーンはそう詰め寄ってきた。
「いや、悪いが取り返していない」
「な、何じゃと!ならあの者らはどこじゃ!ぬぅぅ!おらぬ!おらぬぞ!どこに行ったのじゃ!」
「何か用事があるとか行ってどこかに行ったぞ?」
「な、なぜ取り返しておらぬのじゃ!先ほど言うておったじゃろう!妾を助けると!それを、うう、妾の卵ー、返すのじゃー」
ツェーンはよっぽどの卵好きなのかもしれない。
「他の卵じゃダメなのか?」
「な!?何を言うておるのじゃ!ダメに決まっておろう!」
「そうなのか」
よっぽど卵にこだわりがあるんだ。
「安心しろ、すぐに見つけられる」
「なんじゃと?」
「千里の先まで見通す瞳、[クレアボヤンス]、対象指定、[シンカ][スナイ][セツキ]・・・反応ありか」
魔法陣スキル[クレアボヤンス]は上から遠くまで周りを見ることができるようになるスキルだ。
見れる範囲は魔法攻撃力に依存しているから、僕の場合だと全然千里先なんて見れないけどね。
あと、見たい対象の名前を知っていれば、その対象が自身の効果範囲内にいるなら位置がわかる。
一応、4人組が向かって行った方向は分かっていたし、それほど時間も経ってないからすぐに見つけられると思っていたけど、呼ばれていた名前を指定したら場所がわかった。
「4人はここから西南の方向に向かっている」
「おお、そなたも勘かの?」
「いや、スキルだ」
「む?妾と同じで勘ではないのかの?」
「ツェーンの勘も正確にはスキルだから同じようなものではあるのかもしれないな」
「む?う、うむうむ、そうじゃのぅ」
「じゃあ行くか」
「・・・常識が崩れる」
「ん?どうしたミルタ」
「・・・ううん」
「ああ、ミルタは街に戻るのか?」
「・・・ううん、付いていく」
「そうか、なら俺のハーレムに入っておくか?」
「・・・それはいい」
「そうか」
ハーレムは自分以外が女の人のみのパーティだから、女の人は多分たくさんいてもいいんだよね?
でも断られた。範囲攻撃とかが当たらなくなるから絶対パーティを組んでいた方がいいと思うんだけど、何かあるのかな?まあいいか。
僕はツェーンを背負い、みんなで4人組を追いかけた。
「お!見つけたのじゃ!ついに見つけたのじゃ!今度はそなたから離れぬぞ!」
「大丈夫だ、あの4人が卵を持っていることは確認している」
「おお!ではやはり妾の勘は間違ってはおらなんだな!」
「そうだな」
それにしてもよく考えたらすごい精度だ。
いくら[ハイパーセンス]を持っていても、ここまで分かるものなんだろうか?
「ついに追いついたのじゃ!待つのじゃ!」
「ん?誰だ、またお前か、しかし今度はまた随分と人が増えているな」
「お!口下手エルフじゃねぇか!よう!マジ久しぶりだな!」
「わー、口下手エルフだー!まだ生きてるー、すごーい」
「よくドラゴンを倒せましたね、確かレベル40だったと記憶していますが」
「・・・はぁ、また貴方達?」
「なぜ妾が倒されたことになっておるのじゃ!」
「ん?何だこのちっこいの?変な角と翼が生えてるな、コスプレか?ヒュー!なかなかクールだぜ!」
「ドラゴンみたーい、セツキと同じでちっちゃーい」
「ドラゴンみたいではない!妾は正真正銘のドラゴンじゃ!それに小さい言うでない!本当の妾は大きいのじゃぞ!」
「大丈夫ですよ、貴方はきっとこれから大きくなれますよ」
「妾はそなた達より長く生きておるわ!子供扱いするでない!って違うのじゃ!妾の卵を返すのじゃ!」
「妾の卵、ですか?」
「!?みんなそいつから離れろ!」
「どうしたのー?タイチョー?」
「そいつはエンシェントドラゴンだ!」
「「「はい?・・・はい!?」」」
3人は慌ててツェーンから離れていった。
「ま、マジで!?じょ、冗談っしょ?」
「そう思うなら確認してみろ」
「[ディテクション]ー、わぁー、ほんとだー!」
「な、なぁセツキ、ドラゴンって人間になれんの?」
「そ、そんなこと知りませんよ!聞いたこともありません!」
「何でしらねぇんだ!お前セツキだろ!知っとけよ!」
「何で私が怒られているんですか!」
「お前等落ち着け!・・・エンシェントドラゴン、こちらには」
「妾のことはツェーンと呼ぶが良い」
ツェーンは隊長と呼ばれている人の話をぶった切った。
「・・・ツェーン、こちらには貴様の卵がある」
「おお!そうじゃ!早く返すのじゃ!」
ツェーンはそう言って隊長と呼ばれていた人に近寄って行こうとした。だけど次の隊長と呼ばれていた人の言葉に足を止めた。
「動くな!こちらは貴様の卵をいつでも割ることが出来る、もし貴様が何かしようとしたなら、我々は一切の躊躇なく卵を割ろう」
「な、ひ、卑怯じゃぞ!」
卵を割る?食べるってことだよね?
「もしかして、もう準備はできていると言うことか?」
卵を食べる準備が。
「当然だ」
でも、食事の準備なんてされていない。卵だけで食べるんだろうか?
「勿体無くないのか?」
せっかくの卵なんだから、他のものも一緒に食べたほうがいいと思うのに。
別に卵だけで食べることを否定しているわけじゃないけどね。でもせめて調味料か何かはあったほうが、いや、準備はできているって言ってるから持っているのかな?
「当然勿体無くはある、だが、背に腹は変えられんからな」
?背に腹は変えられない?えっと、どう言う意味だろう?背中はお腹には変わらないよってこと?
なんか違う気がする。そういえばツェーンも同じことを言っていた。
何だろう?
お腹?もしかしてお腹空いてる?
なるほど、ツェーンも隊長もお腹が空いているんだね。だから卵を奪ったのか。
「それに我々は、最悪そこのツェーンとか言うドラゴンの卵でなくともいいのだ」
え?いいの?もしかして、単にお腹が空いているだけで、食べられれば何でもいいのかも。
でもなら何で街で食べてこなかったのかな?
ああ、用事があるって言ってたっけ?急に用事が入って街で食べている暇がなかったのかな?
でも、ツェーンはその卵じゃないとダメなようだから、代わりのものを僕が用意すれば万事解決しないかな?
「それなら返してあげたらどうだ?ツェーンはその卵をずっと大切にして温めてきたと言っていた、ツェーンはその卵でないとダメなんだそうだ、だかお前達は他でも良いのだろう」
「悪いが断る、ようやく手に入れたんだ、わざわざ返す理由がない」
「理由がないじゃと?妾の卵を勝手にとって行きおって、妾がそなた等を許すと思うておるのか?」
「なら、我々を殺すか?卵もろともに」
「くっ、なんて奴らじゃ」
「ツェーン、生き物をむやみに殺してはいけない、この者たちとは会話が出来るんだ、なら殺さないで済ます道もあるだろう、殺さない道があるなら、殺さないに越したことはいのではないか?」
「そんなことそちらの都合じゃ!妾には何の関係もない!」
あ、そうだよね、ツェーンは魔物だもんね、魔物には魔物の考え方があるか。
「そうだったな、すまなかった」
「お?おお、そうじゃそうじゃ、分かれば良い!」
「だけど殺すのは無しだ、もしこの者たちを殺すと言うのなら、まずは俺が相手になる」
「な、何故じゃ!そなたは妾に協力すると申したではないか!」
「安心しろ、ツェーンの困りごとは俺が必ず解決してやるから」
「・・・なるほど」
「ん?」
「そうだったな、貴様は俺たちを殺せない、だからそこまでドラゴンから俺たちを庇うのか」
「あー、そっかー、契約だっけー?」
「もしかしてよ、さっきの蛇のやつか?」
「なるほど、あの契約のおかげで私達を殺すわけにはいかないと言うわけですね」
この人達は何を言っているんだろう?
「何の話だ?」
「何って、契約の話だ」
「契約?俺は契約なんてしていないぞ」
僕はアルターとしては契約したけど、今はお兄ちゃんなんだから契約なんてしていないのに。
「は?」
「テメェ何言ってんだ!さっきーーー!?」
「どうしたのー?シンカー?」
「は、話せねぇ、急に言葉が出てこなくなりやがった、どう言うことだ?」
「あなたは私達を殺さないのではないのですか?」
「お前たちは何を言っている?別の誰かと勘違いしているんじゃないか?」
「誰かだと?・・・まさかーーー、なるほどな、僕は殺さない、か、つまり今の貴様には何の関係もないということなんだな、やってくれる、貴様の方が一枚上手だったということか」
ん?どういうことだろう?・・・褒められたのかな?お兄ちゃんが褒められたってことだよね?きっとそうだよね!やったー!
「ありがとう」
「ちっ、ならどうするつもりだ?何故俺たちを殺さない?」
「言っているだろう、生き物はむやみに殺すべきではないと、だから殺す気はない」
「だが俺たちも引けない理由があるんでな」
「確かお前達はその卵でなくても良いのだろう?なら俺が代わりのものをくれてやる」
適当に街で買った食料が残っているからそれを渡せば万事解決だよね?
食料を渡せばこの4人の空腹も無くなって、ツェーンは卵を取り返せて困りごと解決!完璧だね!
「代わりの物だと?・・・悪いが断らせてもらう」
「何故だ?」
「単なる予感だ、また騙されそうな気がしたからな」
「何を言っている?俺は誰かを騙したことなんて1度たりともないぞ?」
ちゃんと卵を返してくれたら[アイテムボックス]の中にある食料を渡してあげるのに。
「信用できん」
「そうか」
うーん、どうしよう?