第25話 勘
ツェーンはまともに走ることが出来なかったため、僕が背負って運んでいる。
僕は[ジェット]を使っているから、ツェーンを背負って走っても全然キツくない。
今は僕と僕に運ばれるツェーンが先頭で走っていて、ピィナーを抱えたイリアがその次、その少し離れた後ろからミルタさんが走ってついてきている。
そういえば、さっき少し疑問に思ったことがあったからその疑問をツェーンに聞いてみた。
「ツェーンは何故卵を奪った者達がレイルガルフにいると分かるんだ?」
[クレアボヤンス]とか、[アイテムサーチ]とかを使っているのかな?
「レイルガルフとは、あの街のことじゃよな?勘じゃ!」
「勘?」
「そうじゃ、妾の卵を奪った盗っ人どもは今あの街におると、妾の勘が告げておるのじゃ!」
「勘なのか」
勘、うーん勘か、それって信用していいものなのかな?なんの根拠もなさそうだし。
卵を奪った者達がレイルガルフにいなかったり、むしろ全く逆の方向に向かっているって事もありえるよね?
僕は困っているツェーンを助けないとツェーンを殺せないから早く助けたいのに、間違ったところに案内されると困りごとを解決できなくなる。
僕もスキルで探したほうがいいかな?
「もしかして疑っておるのか?妾の勘はよく当たるのじゃ!百発百中、前人未到なのじゃ!」
うーん、・・・ああ、もしかしてツェーンの勘はスキルの効果なのかな。
「なるほど、ツェーンは[ハイパーセンス]を持っているんだな」
パッシブスキル[ハイパーセンス]は、通常わかるはずがないことがわかるようになるスキルだ。
例えば、後ろからの攻撃に対応されたり、普通なら絶対に見つかるはずの無い状況で気づかれたり。
残念ながら僕はこのスキルを覚えていない。
このスキルは[魔物]専用のスキルで[生物]は覚えることが出来ないからだ。
もしかして、ツェーンは[ハイパーセンス]を持っていたから、何も知らないはずなのに僕の[グラビトン]からあんなに逃げたのか。
「はいぱーせんす?なんじゃそれは?」
「ん?分からないのか?」
もしかして違った?
「わ、わかるに決まっておろうが!妾に知らなことなどない!・・・ふむ、はいぱーせんす、ハイパーなセンス?妾がそれを持っている?おお!妾のセンスはハイパーなのじゃな!ま、まあ当然じゃな!妾ほどハイパーなセンスを持つものは他にはおらぬからな!よく分かっておるではないか!」
え?
「なんの話だ?」
「む?そういえば先ほどまでなんの話をしておったかのぅ?・・・うむ、忘れた、忘れたということは大した事では無いのじゃろう」
「ん?忘れたことは大したことじゃない?なら卵のことをよく忘れるツェーンにとって、卵はそれほど大したことじゃないのか?」
「む?卵?・・・はっ!そうじゃ!忘れて・・・おらんぞ、妾は片時も卵のことを忘れてはおらぬ、忘れたたことなどありはせぬぞ?ほんとじゃぞ?」
「そうなのか?」
前に何回か忘れてたって言ってた気がしたけど、気のせいだった?聞き間違い?
「本当じゃ、妾が今まで嘘をついた事があったかの?」
「1回騙されたぞ?」
「うぐっ、き、気のせいじゃよ!気のせい!そんな昔のことは早う忘れい!妾はもう忘れたのじゃ!忘れたのだからそのような事実は無かったことになったのじゃ!」
え?
「忘れたら、事実は無かったことになるのか?」
「そうじゃそうじゃ!当然じゃ!」
・・・忘れたら、事実はなかったことになる。
もし、僕が兄ちゃんのことを忘れたら、お兄ちゃんはなかったことになるの?
僕だけじゃなくて、シスターも、村の人も、他のみんなもお兄ちゃんを忘れたら、お兄ちゃんはなかったことになっちゃうの?
ダメ、絶対ダメ!そんなことはさせない!許さない!
・・・大丈夫、僕はイーシスだ、だからお兄ちゃんは僕が忘れさせない。
僕はお兄ちゃんの素晴らしさを、偉大さを、雄大さを、全世界の生き物に知って欲しかったから、お兄ちゃんの名を世界に刻もうとしていた。
けど、新たにお兄ちゃんの名を世界に刻む理由が増えた。
お兄ちゃんを無かったことにしないためにも、頑張らないと!
「どうしたのじゃ?」
「いや、なんでもない」
「おお!もうすぐじゃ!もうすぐ街じゃ!・・・む?妾の卵が街から離れようとしておる!イーシス!あっちじゃ!あっちに妾の卵がある気がするのじゃ!早く行くのじゃ!」
「それも勘か?」
「妾の勘じゃ!」
どうしよう、いや、とりあえずはツェーンを信じよう。
もしツェーンの勘が外れたようなら僕がスキルを使って探せばいいかな。
「とりあえずはツェーンを信じよう、行くぞ」
僕たちはツェーンの指し示す場所に向かった。