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外伝5 ミルタ・ウィンター 4

 次の日、私がギルドに来てマリーから獄炎獣についての情報が無いか聞いたとき、ギルドの入り口から慌てて誰かが入って来た。


「大変だ!ドラゴンがこの街に向かって来ている!」


「・・・え?」


「ど、どういうことですか!?」


「そのまんまの意味だよ!いや、本当にこの街に来るかはわからないし、まだ少し距離もあるが、確実にこっちに向かってる!街には入ってこないかもしれないが万が一ということもあり得る、だからギルドでも確認してくれ!」


「は、はい!」


 マリーはギルドの奥へ走り去った。


「ドラゴンは東から来ている、万が一に備えてみんなを西門に集めておいたほうがいいかもな、俺は出来るだけ街の人に声をかけながら西門に向かう」


 ・・・東から、ドラゴンが。

 ・・・ドラゴン、私が倒す、ドラゴンは私が倒す!


 無謀かもしれない、無茶かもしれない、だけどドラゴンが来ていると聞いて、私が逃げるわけにはいかない、絶対に倒す。


 私は強くなった、もう遠くからドラゴンに故郷を滅ぼされるところを見ていることしか出来なかったあのときとは違う!

 仲間を置いて、逃げないといけなかった弱い私じゃない!


 私は走り出した。






「[冒険者の皆さん!緊急依頼です!至急ギルドにお集まりください!一刻の猶予すらない可能性もあります!冒険者の皆さん!直ちにギルドへ!]」


 マリーの声が聞こえて来た。

 街中に魔道具で声を拡散させているんだろう。


 すれ違う人たちから声が聞こえて来る。


「ど、ドラゴンだ!」


「ヤバイ!逃げよう!」


「逃げるったってどこへ!」


「逃げろ!」


「東からドラゴンが来てるぞ!」


「キャー!!!」


 街の人たちも、ドラゴンの存在に気づいている。


 私が止めなきゃ、私が倒さなきゃ!






 私は街の東門まで来た。


 そこにはあの新人未満がいた。


「・・・何でここに?」


「ん?」


 新人未満はこちらを振り返った。

 さっきはドラゴンを見ていたようだ。なぜ早く逃げないのだろうか?


「・・・早く逃げて」


「・・・」


「逃げる?何からだ?」


 なんでわからないんだろう?


「・・・」


 私はドラゴンを指差した。


「ドラゴンしかいないぞ?何から逃げるんだ?」


「・・・ドラゴン」


「?何で逃げる必要がある?」


 新人未満は不思議そうにしている。まるでドラゴンを脅威に思っていないかのように。

 自分の危機に気づいていないかのように。


「・・・危ない」


 私は警告をした。


「俺は空を飛べるから大丈夫だ」


 だけどそんな素っ頓狂な返答が返ってきた。


「・・・何言ってるの?」


「ん?」


 ダメだ、まるで会話が通じていないみたいだ。

 こちらの言いたいことがまるで伝わらない。

 これは私が原因?私の伝達力が足りないのだろうか?それとも新人未満の理解力が足りないのだろうか?分からない。


 けど、こんなところで話している時間はない。


「・・・早く逃げて」


 私はそう言ってドラゴンの方に走っていこうとした。


「あ、待ってくれ!」


 私は新人未満に止められた。


「いつもここに立っている人を見なかったか?」


「・・・もう逃げた」


「え?」


「・・・じゃ」


 私は走り出した。






 私はドラゴンを見た。

 もうだいぶ近い。もしかしたらドラゴンも私の存在に気づいているかもしれない。


 私で倒せるのだろうか。心に不安がよぎった。


 その不安は、ドラゴンに近づいて行けば行くほど大きくなっていった。

 そして、過去の恐怖が蘇って来た。

 私はその恐怖で体が震え、足が止まりそうになった。


 ・・・ダメ、震えているだけの私なんて、もういらない!

 殺す!必ずドラゴンを!


 私は恐怖を憎しみで覆い隠した。

 そして心に憎悪の炎を燃やし、震える体を、止まりそうになる足を誤魔化しながら進んでいった。

 そうでもしないと、体が勝手に逃げ出してしまいそうだったから。


 殺す、必ず殺す!


「[ディテクション]!」


 私はドラゴンのステータスを確認した。


 名前 相殺する審判竜


 種族 エンシェントドラゴン


 LV 40


 HP 733942/733942


 MP 326089/326089


「!?」


 思わず、足が止まった。


「・・・レベル、40」


 無理だ。私では倒せない。

 圧倒的な実力差、レベル差を前にして、さっきまで抱いていた決意が、憎悪が、一瞬にして吹き飛ばされた。


 怖い、体が震えて私は動けなくなった。

 私は勝てない、やっぱりドラゴンには勝てないんだ。

 私は強くなった気でいた。ゆっくりだけど、少しずつだけど確実に強くなっていると思っていた。

 確かに前よりは強くなっている。


 それでも何も変わらない。

 結局私は前と同じでドラゴンを前にして震えているしか出来ない。

 私はまた惨めに逃げるしか出来ない。






 ・・・逃げる?


 本当にそれでいいの?

 ドラゴンは街に向かっているかもしれない。もし街に来て暴れ出したら、一体何人の人が死ぬだろう?


 あの街に私より強い人はいないだろう。

 私が一番強い、私が一番ドラゴンを止められる可能性がある。


 その私が逃げて、誰が町を守るんだろう?


 ・・・逃げちゃダメだ、戦うんだ、私が倒すんだ!


 何故だろう、私はずっと死に場所を探していた。それなのに実際に死にそうになると生きたいと願ってしまった。逃げ出したくなってしまった。


 でも、ここで逃げたら私はもう戦えなくなる。戦えなくなれば復讐も何も出来なくなる。

 そうなれば、私の生きる意味がなくなる。


 そんなのはダメ!


 だから立ち向かうんだ。

 敵は強大だ、レベル40のドラゴンだ。

 でもそんなことは関係ない。


 逃げた先には道はない。立ち向かった先にこそ復讐の道は続いている!


 だからこのドラゴンは、


「私が、殺す!」


 死の、ドラゴンの、過去の恐怖を乗り越え、私はドラゴンに立ち向かう勇気を心に宿した。

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