外伝5 ミルタ・ウィンター 3
私はマリーから獄炎獣についての情報を聞きなおし、目撃場所に向かった。
その場所と周囲を探し回ったが弱い魔物しか出ることはなく、獄炎獣は見つからなかった。
私はレイルガルフの街に帰り、ギルドで新しい目撃情報や何かがないか聞いた。
だけど、何もなかった。
私は宿に泊まりその日を終えた。
次の日、ギルドで新しい情報がないか聞いた後、街を出てまた獄炎獣を捜索しようとした。
ギルドには情報はなかった。
私は街を出ようとした時、街の入り口で見知った顔を見かけた。
「黒髪黒目の子供なんて通らなかったぜ」
「そう、わかったわ、ありがとう」
「・・・リリィ」
「あら、ミルタさんではありませんか、こちらに来ていたのですね」
リリィは商人だ。私はよくリリィの商店を利用する。
その関係で知り合った。
「・・・うん、なんの話」
「リリアさんが黒髪黒目の子供を探しているんだとさ」
黒髪黒目の子供、私はギルドであった新人未満のことを思い出していた。
子供というわけではなかったけど、黒髪黒目でその言動には幼さを感じたあの新人未満だ。
「・・・見たかも」
「!?ほ、本当!?どこ!?どこにいるの!?」
ものすごい勢いでリリィが私に食いかかってきた。
「・・・え、えと、昨日ギルドで」
「ギルドですね!わたしましたわ!」
「昨日ギルド?ああ、そいつは違うぜ、確かに昨日、この街に黒髪黒目の人が来てギルドの場所を聞いて来たが、そいつは20歳くらいの青年だ、まぁ、エルフにとっちゃ20歳なんて子供みたいなものかも知れないがな」
「・・・見た目じゃなくて、中身」
「ん?ああ、いや、リリアさんが探しているのは6歳くらいの子供なんだとよ、それに名前も違ったからな」
「・・・そう、なら違う、ごめん」
「いいえ、謝らならないでください」
「・・・誰かを探している?」
「ええ、アルターという黒髪黒目の6歳くらいの子供です、もし見かけたら教えてくださるかしら?」
「・・・うん」
「そうだわ、ミルタさん、もしよろしければ、ここから南にある村までついて来てくださらないかしら?」
「・・・なんで?」
「そこがアルターさんの故郷だからですわ、きっとミルタさんもこれを聞いたらアルターさんに興味を持つんじゃないかしら?」
「・・・何」
「そのアルターさんは、6歳でありながらレベル50のドラゴンを倒したそうよ」
レベル50のドラゴン・・・ドラゴン。
「・・・嘘」
「最初は私も嘘だと思いましたわ、それでも実物を見せられたら信じるしかありません」
「・・・実物?」
「ええ、そのドラゴンの爪をお父さんがアルターさんから買い取りましたの、・・・もぐらの爪と間違えて」
「・・・?」
どういうことだろう?
「ああ、いえ、それはいいの、とにかく私は実物を見て鑑定した結果、レベル50のグランドドラゴンの爪ということが分かりましたの、だからレベル50のドラゴンを倒したアルターさんに会いに行くのよ、ミルタさんも興味があるんじゃありません?」
「・・・6歳で、絶対倒せない、無理」
「ええ、私もそう思いますわ、でも実物がある以上、誰かが倒したことは確実、たとえアルターさんが倒したわけではなくとも、倒した人物の手がかりを持っているのはアルターさんしかおりませんわ」
「・・・」
「興味があるでしょう?ミルタさんなら」
リリィは商人だ、商人は情報網がすごい。
だから私の事情をある程度は知っているんだろう。
興味はある、もし、本当にレベル50のドラゴンを倒せる者がいるのなら、話を聞きたい、教えを請いたい。
そうすれば、私の復讐が達成できるかもしれないから。
でも、私は信じられない。レベル50のドラゴンを倒せる存在がいるなんて。
私はドラゴンの脅威や強さについて普通の人より詳しい自信がある。
だからこそ、私は信じることが出来ない。
「・・・いい」
「あら?そうなのですか?」
「・・・やることがある」
今私にはやることがある。
獄炎獣を倒すことだ。
もし獄炎獣が逃げた先で何かをしでかしたら、それは私の責任でもあることになるから。
逃してしまった、私の。
だから私は獄炎獣を倒す責任がある。
一度倒すと決めたなら、ちゃんと最後までやり遂げる。
「そうですか、無理強いするつもりはありませんわ、ミルタさんには伝えておいたほうがいいと思っただけですので」
「・・・うん、ありがと」
レベル50のドラゴンを倒した人がいるなんて、とても信じられる話じゃないけど、もし獄炎獣を倒した後、他に何もやることがなければ会いに行ってもいいかもしれない。
「いいえ、では私は行きますわね」
そう言ってリリィは数人の護衛を連れて歩き出した。
私は今日も獄炎獣を探し回ったけど、見つけることは出来なかった。
ギルドで何か情報がないか聞いても、最初の目撃情報以外は何も上がって来ていない。
獄炎獣に襲われた人も、見かけた人も、最近の行方不明者も誰もいないそうだ。
もうこの街の近くから離れて何処かに行ってしまったのかもしれない。
明日もう一度探して、見つけられなかったら他の街を探しに行こう。
もしかしたら、もうサンガーラザに帰っているかもしれない。
だから今日はもう宿で寝よう。