外伝5 ミルタ・ウィンター 2
私はレイルガルフの街についた。
「止まれ、何か身分を証明できるものは持っているか?」
「・・・これ」
「拝見させてもらう、・・・!?、いや、失礼した、まさかあのジャイアントキラー殿とは、ようこそレイルガルフへ」
私は街に入り、直ぐにギルドに向かい、ギルドの中に入った。
そして受付前に来た。
「冒険者ギルドへようこそ!本日はどのようなご用件でしょうか?」
「・・・獄炎獣」
「え、あ、もしかしてミルタさんですか!?お久しぶりです!私のこと覚えてますか?」
「・・・マリー」
「そうです!あの時はありがとうございました!」
「・・・ううん」
「あ、どうぞこちらへ!」
私は奥の部屋に通された。
「最初、フード被っているから誰だかわかりませんでしたよ、もっと可愛い服を着たほうがいいんじゃないですか?」
「・・・必要ない」
「そうですか?あ、私今受付嬢になれたんですよ!」
「・・・良かったね」
「はい!あ、えっとサンガーラザの獄炎獣についての情報でしたよね、少し待ってください」
マリーは地図を広げて、ある場所を指差した。
「この辺りで目撃情報があったようです」
「・・・そう」
場所は平地のようだ。どのように戦うか。
周囲に木があるのと無いのとでは戦術に大きな隔たりがある。
「発見したのは冒険者で、ステータスを確認したところレベル30のサンガーラザの獄炎獣だったそうです。まだ距離があったため気づかれることなく街に帰ることができたと言っていました」
「・・・そう」
「あまり人通りの多い場所ではないですけど、どこに移動するかもわからない魔物ですから、討伐をお願いします」
「・・・もちろん」
「ありがとうございます!」
私は直ぐに討伐に向かおうと思ったが、一度追い詰めたとは言え、相手はレベル30の魔物。
場所も違うし、私の攻撃方法を一度見られている。
サンガーラザで戦った時よりも苦戦すると思う。
だから街の中でまず準備を整えた。
武器の手入れ、消耗品の確認、魔道具に使う魔石の魔力残量の確認、装備の変更、食事、宿の確保、その他諸々。
フードは街で騒がれることを防ぐために付けていただけで、防具としての効果はない。
だから宿屋に置いてきた。
私は街の外に向かった。
そして途中で気づいた。獄炎獣がいる場所がわからないと。
ギルドでマリーが地図を指差して教えてくれはしたが、その時はそこの地形や、獄炎獣との戦闘方法を考えていたため、街からどの方角だったか忘れてしまった。
一度ギルドに行こう。
私は目的地を変更してギルドに向かった。
ギルドの扉を開けると、中で誰かが争っていた。
争っている近くにマリーがいた。
「・・・[ショックウェイブ]」
マリーが巻き込まれるかもしれないと思った私は4人まとめて吹き飛ばそうとした。
だけど、吹き飛んだのは3人だけだった。
「「「・・・え?」」」
おかしい。確実に当てたはずなのに。
「・・・何で?今、当たって」
「おい!邪魔する奴は誰だ!・・・げっ!」
吹き飛んで言った3人は私を見て顔をしかめた。
私のことを知っているんだろう。
「・・・何やってる?殺し?」
「ち、違うぞ、ただ俺たちは生意気な新人にお灸を据えようと思ってな?」
新人、吹き飛ばなかった人だろう。
その新人に対して3人で武器を抜いて襲いかかっていた。明らかにやりすぎ。
「・・・武器抜いてた」
「いや!俺たちは」
「・・・酔っ払い?やっていいこと、悪いことある」
「・・・ああ、すまねぇ、頭に血が上ってたんだ」
「危うく殺しちまうところだったぜ、止めてくれてありがとな」
「行くぞ、こいつの顔を見ていたらまた怒りが湧いちまう」
3人は、反省した様子でギルドの外に向かって歩いていった。
でも3人が出ていくのを新人が止めようとしていた。
「待っむぐ!?」
止めようとしたのをマリーが止めた。
「だ、ダメです!危ないですよ!」
3人はギルドから出ていった。
状況がつかめない。何があったんだろう?
「・・・マリー、何、あった?」
「ええっと、・・・」
そして私はマリーから事のあらましを聞いた。
酔っ払っていた3人が新人に絡み、新人がそれを無視、挑発し、酔っ払っていた3人がヒートアップして戦闘になりかけたこと。
そして、新人のレベルが1ということを。
「・・・ってことがありました」
「・・・そう」
レベル1、ありえない。
確かに[ショックウェイブ]は吹き飛ばす、体勢を崩すことを目的とした魔法で、攻撃力はほとんどない。
それでも私の攻撃でレベル1の人が死なないなんてことはありえない。
それに確実に当たっていたのに吹き飛びもしなかった。
見た目より重たい?でも[ショックウェイブ]で揺るぎもしないなんてかなりの重量が必要だ。
だから違う。
防御系のスキルを使っているのかとも思ったけど、防御系のスキルには独特の構えがある。あんな棒立ちではスキルなんて発動していないだろう。
それに、3人から襲いかかられているのに棒立ち。
恐怖で体が縮こまっているわけでも、何かしらの原因で体が動かなくなっていたわけでもなさそうだった。
あくまで自然体で、攻撃されても問題ないような感じだった。
それにノックバックすらしていない。
「本当にありがとうございます!もし止めて下さらなければ危うく死人が出るところでした!」
死人。
「・・・ううん、私、また間に合わなかった」
あの3人の攻撃は、多分新人に当たっていた。
私が助けるつもりだったのはマリーだけ。私は新人を助けていない。
もし助けるつもりがあったとしても間に合っていなかった。
新人は自分で勝手に助かっただけ。
「え?何がですか?」
「・・・なんでも」
「すまないが、冒険者登録をして貰ってもいいか?」
「あ、はい、・・・え?HPが残り2しかないじゃないですか!ちょっと待っててください!」
HPが2?それこそありえない。
冒険者が武器を振るっておいてレベル1の新人のHPを消し飛ばす威力すら無いなんてことは無いだろう。
それに私の[ショックウェイブ]も当てている。
分からない。どういうことか分からない。
「ピィ?」
「ああ、大丈夫だ」
「・・・お前、なぜ、死んでない?吹き飛ばなかった?」
「ん?何の話だ?」
「・・・レベル1なのに」
「レベルによって全てが決まるわけじゃない、他にもっと大切なことがある」
新人はそんなことを言ってきた。
「・・・そんなことはない、レベルが大切、他者を寄せ付けない、圧倒的な高レベルの相手の前には、全てが無力」
そう、全てが無力だ。
だから私はレベルを上げている。追いつくために、殺すために。
「そんなことない、たとえレベル1であっても、殺そうと思えば誰だって、どれだけレベルが高い魔物だって殺すことはできる」
「・・・」
そんなはずはない。レベル1で殺せるわけがない。
きっと新人は圧倒的なレベルを持つ強者にあったことがないんだろう。
例えば、この最強の存在、ドラゴンなんかに。
会えばわかる。
自分がいかに無力で、弱くて、どうしようもない、抗いようもない現実があるんだってことを。
「これ、ポーションです!飲んでください!」
マリーがポーションを持ってきた。
「ん?ああ、大丈夫だ、必要ない」
だけど新人はHPが減っているのにポーションを受け取らなかった。
それどころか、自分のHPが2なのに気にもしていない様子だ。
不安にならないのだろうか。HPが2しかないなんて。
「でも、危ないです!飲んでください!」
「その心遣いには感謝する、だが俺には必要ない、それよりも早く冒険者になりたいのだが」
「やっぱりダメです!危険すぎます!せめてレベルを5までは上げてください!」
「先程は冒険者登録にレベル制限はないと言っていた筈だか?危険なんて100も承知だ、だが俺は冒険者にならなければならないんだ」
「何を言ってもダメです!」
新人は、まだ新人ですらなかったようだ。
私は初めて冒険者登録を拒まれる人を見たかもしれない。
当然冒険者は数がいてくれた方がギルドとしてはいい。
どのギルドでも、処理しきれない依頼が多数あるからだ。
たとえレベル1だろうと、いくらでも使い道はある。
安全な街の中だけの依頼だって沢山あるから。
それでも冒険者にしないのは、マリーの優しさだろう。
この新人未満は冒険者3人にケンカを売るような人だから、冒険者にすればすぐに死ぬだろうとマリーは考えていると思う。
依頼を受ける受けないは緊急依頼でもない限り本人の自由。
街の中だけの依頼じゃなく、もし魔物を倒すような依頼を受けたらマリーは止められない。
登録したてで受けられる討伐依頼はスライムやゴブリンなんて簡単なものだが、レベル1なら危ないだろうから。
それにしても、やっぱり新人未満はおかしい。
おかしいことだらけで、少し興味が湧いてきた。
何故3人に襲われながら棒立ちしていたんだろう?
何故[ショックウェイブ]で吹き飛ばなかったんだろう?
何故HPが2で残っているんだろう?
何故まだレベルが1なんだろう?
あの歳までレベル1というのは、たとえ街から出たことがなくても、レベルを上げないように気をつけていても難しい。
だから、もしかしたら私が知らない何かを知っているのかもしれない。
その何かのおかげで、3人が攻撃してきても微動だにせずただ待ち構えていて、攻撃を受けてもHPが2残って、[ショックウェイブ]で吹き飛ばなかった?
もしかしたらレベルが1なことも何か関係があるかもしれない。
その何かを知ることができれば私はさらに強くなれると思う。
勿論、全て私の勘違いの可能性もある。
でも、もっと強くなる可能性があるなら、知りたい、いや、知らなければならない。
復讐をするために。
私は私の知らないことを知っている可能性のある新人未満に興味を抱いた。
「ん?」
新人未満がこちらを振り返った。
「・・・」
なんて聞こう?素直に聞いて答えてくれるだろうか?
「どうした?」
「・・・」
私はあまり人と関わってきていないため、なんて話せばいいのか分からない。
あなたに興味がある?あなたのことが知りたい?
・・・どうしよう?
「俺のハーレムに入らないか?」
「・・・は?」
いま、何か変な言葉を聞いた気がした。ハーレムがどうのと。
気のせいかな?流石に気のせいだと思う。
だってまだ会ったばかりだ。
流石に会ったばかりの人をハーレムに誘う非常識な人なんていないと思う。
というより、付き合ってくれ、や、好きだ、とかなら一目惚れと言うものもあるから分からなくはないけど、ハーレムに入らないかなんて言うのはあり得ないか。
変な空耳をしてしまったようだ。
「俺のハーレムに入らないか?」
・・・勘違いや空耳ではないらしい。
「・・・最低」
「え?」
「・・・消えて」
何故私がハーレムに入るなんて考えたんだろう?
ああ、きっと自意識過剰で、自分が誰よりも強いとか思っている痛い人なのかも知れない。
きっと大切に育てられてきて、常識も何も知らないんだろう。
自分の思い通りにならないことがあることを知らない我儘な子供みたいだ。
だからレベルが全てじゃないとか、レベル1でも、誰だって高レベルの魔物を倒せるなんて大言壮語を吐くことができたんだろう。
「何か不快にさせてしまったか?謝ろう、すまなかった」
何故か新人未満は謝ってきた。
てっきり断られたから癇癪を起こすかとも思ったけど、そこまで子供ではないようだ。
でももう、新人未満に対する私の興味は消えた。
どうせ全て勘違い。
そんなことにかまけている暇があったら、一匹でも多くの魔物を殺そう。
復讐に近道なんてない、地道に少しづつ強くなって、いつかあのドラゴンを殺す。
それでいい。