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外伝3 アメイリア・ランリッツェル 2

 私は主に付いて歩いている間、先ほどの主の言動について考えていた。


 もしかしたら主はわかっていないのかもしれない。

 私が主の奴隷ということを。

 いやむしろ奴隷のことを何も知らないのかもしれない。


 主の発言を思い出してみると、最初、主は奴隷ってなんだろう?と言っていた。

 だから主は奴隷が何か知らないという可能性がある。


 そして私が主の奴隷ということを知らず、今まで私が付いて来ているのに気づいていなかったから、振り返って私を見たとき、驚いてどうしたんだって聞いてきたのかもしれない。


 そうだとすれば、忘れ物をしたのか、とか商人のところに戻ったほうがいいのか?の発言の意味も少しわかる気がする。


 だから、私に何も命令することなく、話せないのか?とか、何の用だ?とか、どうして付いてくる?とか聞いてきたのかもしれない。

 自分の奴隷ということに気づいていないから。


 自分の奴隷ということがわかっていればそんな発言が出てくることなんてない。


 やっぱり主は奴隷について何も知らない?

 一応、辻褄は合いそうな感じだ。


 ・・・いや、でもそれは無いか。

 だって主は私のことを奴隷商人からお金を出して買っている。

 それもそれなりに高いお金をだ。


 まさか奴隷が何かを知らずにそんな大金を払って買うなんてことはないだろう。


 じゃあ本当に何だったんだろう?


「俺のハーレムに入らないか?」


「・・・」


 ・・・え?主がまたいきなり変なことを言い出した。聞き間違いかな?今ハーレムって聞こえた気がしたけど。


「俺のハーレムに入らないか?」


「・・・」


 どうやら聞き間違いじゃ無いようだ。


 やっぱり奴隷を買うような人だ、そういう考えを持っていても不思議じゃ無い。

 ハーレムに入らないかってことはつまり主はもう多くの女性を囲っているということだろう。


 何故、[魔力抜き]が出来ない私に目をつけたんだろう?

 近くで侍らせるだけで手を出す気は無いとか?

 いや、もしかしたら何か方法があるのかもしれない。

 私を女にする方法が。


 でも、私は拒絶なんてできない。

 私は主の奴隷なんだ。

 今の発言は命令じゃ無いから断ることもできる。だけどもし断って主の機嫌を損ねたら何をされるか分からない。


 だから私は頷いた。

 頷かざるおえなかった。


 でも、ハーレムに入らないかと聞かれたとき、私は必要とされていると感じて少し嬉しかった。

 こんな自分が嫌になる。

 所詮奴隷なんだから、主の慰み者として生きて、飽きたら捨てられるのだけなのに。


「・・・え?本当に!?やったー!」


 ・・・え?

 何故そこまで喜んでいるんだろう?自分の奴隷なんだから断られることもほとんどないだろうに。


 それに今までと雰囲気が随分と違う。

 さっきまで言動は怪しかったけど、雰囲気は大人って感じだった。

 だけど今は急に子供に戻ったかのような純粋さを感じる。


 私は不覚にも、主のその純粋に喜んでいる姿を見て可愛いと感じてしまった。

 可愛いよりかっこいいという言葉が似合うような容姿なのに。


「頑張るぞ!、あっ」


 ・・・可愛い。


「こほん、よし、ハーレム達成だ」


「・・・」


 雰囲気が戻った。

 ・・・もしかしたらさっきの子供っぽいのが主の素なのかもしれない。


 そして素を出して恥ずかしくなって誤魔化そうとしているのかもしれない。


 私は少し主に好感を抱いた。






 主に付いて歩いていると、子供の泣き声が聞こえてきた。


「うぇぇーん!うぇぇーん!」


 そこには道にうずくまり、涙を流している少年の姿があった。


「すまない、少し待っていてくれ」


 主は少年のところに走っていった。知り合いか何かなのだろうか?それとも泣いている子供を放って置けなかったのかな?


 主は少年の近くでしゃがみ、優しく話しかけた。


「どうしたんだ?何か困っているのか?」


「うぇぇーーん!」


「ほら、落ち着け」


「うぇぇーーん!」


 それでも少年は主のことに気づいていないのか、涙を流し続けている。

 すると主は懐から紙を取り出した。


「[アイテムボックス]」


 ・・・え?何?いきなり主の前に変な黒い空間が現れた。

 何かのスキルだろうか?

 主は手に持っていた紙をその黒い空間にいれ、その後黒い空間から紙と串に刺さったお肉が出てきた。

 そのお肉を主は子供の前に差し出した。


 物が出てきた?・・・もしかして、伝説の空間魔法スキル?

 家の本で読んだことがある。遥か太古の昔、魔王によって世界が滅ぼされかける前には、そのような魔法スキルも存在していたのでは?と本には書いてあった。


 私のかつての家の者にも、あんなスキルを使っている者はいなかったはず。


 もしかしたら、主は思っていたよりすごい人なのかもしれない。


「食べるか?美味しいぞ?」


「うう、え?」


 少年の視線はお肉に釘付けになっている。

 主がお肉を左右に振ってもずっと見続けている。


「食べていいぞ」


「で、でも、知らない人から物を貰ったらダメだって」


 そう言いながらも少年の視線はお肉から一切離れようとしない。


「俺はイーシスだ、君はなんて名前なんだ?」


「え?ぼ、僕はクロスだよ?」


「よしクロス、俺の名前はなんだ?」


「え?イーシスさん?」


「そうだ、これで俺たちはもうお互いの名前を知ってるんだ、知らない人じゃないだろ?」


「う、うん、でもいいの?」


「ああ、いいぞ、これは俺とクロスが出会った記念のプレゼントだ、受け取ってくれ」


「あ、ありがとう!イーシスさん!」


 ・・・主は優しい人なんだ。

 2人を見ていると何故か私の心が温まるような感じがした。


「美味しいー!」


「そうか、良かった良かった」


「美味しかった!ありがとうイーシスさん!」


 少年が笑っている。さっきまで泣いていた少年を主は笑顔に変えてしまった。

 私はそれをすごいと思った。

 主は他人を笑顔にできる人なんだ。

・・・私とは全然違う。


「ああ、それで、どうして泣いていたんだ?」


「あっ、う、うう」


 少年は泣いている原因を思い出したのか、また泣き出しそうになった。

 だけど主は少年を優しく慰めた。


「大丈夫だ、俺が力になってやるから、何があったか話してみろ」


「う、うん、あのね、お使い頼まれて、魔石を買ったんだけど、僕落としちゃって、魔石が割れちゃったんだ・・・僕のせいで、う、うう」


「よし、俺のでよければ持っていけ」


 そう言って主はポケットから大きな魔石を取り出した。


 ・・・え?大きい。魔石とは思えないくらいの大きさだ。


「え?おっきい、何これ?」


 少年も同じことを思ったのか、主に聞いていた。


「ん?これじゃダメか?」


「ううん、わかんない、僕が買った魔石はもっと小さかったけど、これ魔石なの?」


「ああ、魔石だ、俺が倒した魔物からドロップしたんだが、まあそんなに強い魔物じゃなかったから、きっと大した価値も無い物だけどな、これでよければクロスに譲るよ、それでダメならごめんな」


 主が倒した?すごい。

 あの大きさだ、強い魔物じゃないなんてありえないと思う。


 魔石は魔物を倒した際にドロップする。

 魔石の大きさは、倒した魔物のレベルが高ければ高いほど大きくなる。


 私のかつての家ですら、あんな大きさの魔石は見たことなかった。


 少なくともレベル20、いや25くらいの魔物の魔石かも知れない。

 そんな高レベルの魔物は、最高位冒険者達が束になって、半分くらい犠牲になればなんとか倒せるくらいだって本には書いてあった。


「ううん、ありがとう!イーシスさん!」


「じゃあ今度は落とさないように気をつけてな」


「うん!バイバイ!イーシスさん!」


 少年は魔石を大事そうに抱えて歩き出した。


 主は泣いて困っている少年を笑顔に変えて、悩みを解決した。

 私がきっと同じ状況になっても見て見ぬ振りをするか、たとえ慰めても魔石を渡すなんてしなかっただろう。

 でも主はあんな高価な魔石を、なんでもないかのようにポンッと渡した。

 少年を気遣ってか、大した価値もない物と嘘をつきながら。


 私の主はすごい人なんだ。あんな高レベルの魔物を倒せて、困っている少年を助けるために高価な魔石を渡す。

 最初は変な言動の変な人なのかと思っていたけど、そんなことはなかった。


「待たせたな、じゃあ行くぞ」


「・・・」


 また私は主に好意を抱いた。

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