第16話 ハーレム?
もしかしたらなんだけど、この女の人は僕のパーティに入りたいけど、話せないからずっと付いてくるのかも知れない。
一応パーティに誘ってみようかな?
でも多分ダメだと思う。
僕は冒険者じゃないしここはギルドでもないから。
それでも一応可能性はあるかもしれないから、聞くだけ聞いてみよう。
「俺のハーレムに入らないか?」
「・・・」
うーん、無反応だ。
やっぱりダメなのかな?もしくは聞き逃したのかもしれない。
もう一回だけ聞いてみよう。
それで無反応なら諦めよう。
「俺のハーレムに入らないか?」
「・・・」
無反応だ。やっぱり冒険者になってからじゃないとパーティは作れないのかな?
だけどそう僕が諦めそうになった時、女の人はゆっくりと首を縦に振った。
・・・え?今の、もしかして僕のパーティに入ってくれるってこと?
「・・・え?本当に!?やったー!」
お兄ちゃんの夢が1つ叶った!
やった!やったよ!
ハーレム達成だ!やったー!
ハーレムっていうのは自分以外が女の人のみのパーティだから、もう僕はお兄ちゃんの夢を一つ叶えられたんだ!
今日は失敗ばかりだったけど、僕は確実に夢の達成に近づいているんだ!
よし、この調子で頑張って他の夢も叶えるぞ!
「頑張るぞ!、あっ」
やばい!嬉しすぎて普通に喋ってた!
「こほん、よし、ハーレム達成だ」
「・・・」
女の人は無反応だった。もしかしたら今の僕の発言はたまたま聞こえてなかったのかもしれない。
いや、それはないか。でも今ので僕がアルターだって気づくのはこの女の人には無理なはず。
でも気をつけないと。
宿への帰り道の途中で、僕は子供の泣き声を聞いた。
「うぇぇーん!うぇぇーん!」
子供といっても見た感じは僕よりは年上かもしれないが。
でも泣いているってことは困ってるのかな?
「すまない、少し待っていてくれ」
僕は女の人に断りを入れて、泣いている子供のもとに向かった。
「どうしたんだ?何か困っているのか?」
「うぇぇーーん!」
「ほら、落ち着け」
「うぇぇーーん!」
どうしよう?困ったな、話を聞こうにも泣いているから聞き出せそうにもない。
食べ物あげたら泣き止むかな?
仕方ない。
「[アイテムボックス]」
僕は[アイテムボックス]を使用して[アイテムボックス]の魔法陣と1本10銀貨のお肉を取り出した。
「食べるか?美味しいぞ?」
「うう、え?」
子供の視線がお肉に釘付けになった。
僕はお肉を左右に振った。
子供の視線も左右に触れた。
「食べていいぞ」
「で、でも、知らない人から物を貰ったらダメだって」
そう言いながらも視線はお肉から一切離れない。
よし、こうしよう。
「俺はイーシスだ、君はなんて名前なんだ?」
「え?ぼ、僕はクロスだよ?」
「よしクロス、俺の名前はなんだ?」
「え?イーシスさん?」
「そうだ、これで俺たちはもうお互いの名前を知ってるんだ、知らない人じゃないだろ?」
「う、うん、でもいいの?」
「ああ、いいぞ、これは俺とクロスが出会った記念のプレゼントだ、受け取ってくれ」
「あ、ありがとう!イーシスさん!」
クロス君は僕から肉を受け取って食べ始めた。
「美味しいー!」
「そうか、良かった良かった」
お兄ちゃんなら、泣いている子がいたらきっと同じことをしただろう。
僕は少しでもお兄ちゃんに近づけているかな?
「美味しかった!ありがとうイーシスさん!」
あ、お兄ちゃんが感謝された!
やったー!嬉しい!さすがお兄ちゃんだ!
「ああ、それで、どうして泣いていたんだ?」
「あっ、う、うう」
「大丈夫だ、俺が力になってやるから、何があったか話してみろ」
「う、うん、あのね、お使い頼まれて、魔石を買ったんだけど、僕落としちゃって、魔石が割れちゃったんだ・・・僕のせいで、う、うう」
魔石か、あ、そういえば。
「よし、俺のでよければ持っていけ」
僕はポケットから魔石を取り出した。
あのヘルフレイムハウンドの落とした魔石だ。
「え?おっきい、何これ?」
「ん?これじゃダメか?」
「ううん、わかんない、僕が買った魔石はもっと小さかったけど、これ魔石なの?」
「ああ、魔石だ、俺が倒した魔物からドロップしたんだが、まあそんなに強い魔物じゃなかったから、きっと大した価値も無い物だけどな、これでよければクロスに譲るよ、それでダメならごめんな」
「ううん、ありがとう!イーシスさん!」
やったー!またお兄ちゃんが感謝されたー!
そして困っている人を助けて感謝された!
お兄ちゃんの夢にまた一歩近づいたよ!いぇーい!
「じゃあ今度は落とさないように気をつけてな」
「うん!バイバイ!イーシスさん!」
お兄ちゃんが褒められると嬉しい。もっと頑張らないと!
僕は女の人のところに戻っていった。
「待たせたな、じゃあ行くぞ」
「・・・」
僕は女の人を連れて宿屋に向かった。
宿屋についた。
「一人追加で頼む」
僕は宿屋のおじさんにそう伝え、一人分の追加料金を払った。
「おい、あんまり騒がしくするんじゃねぇぞ、うちの壁は薄いんだ、そういったことは他所でやれよ」
「ああ分かっている、他の客に迷惑はかけない」
他の人に迷惑をかける気は無い。
それに騒ごうにも女の人は今は話せないんだから騒ぎようなんてないけどね。
「そうかい」
「ピィ!(おかえり!)」
「ああ、ただいま」
宿屋の部屋に入るとピィナーが出迎えてきた。
「ピィ!(お腹すいた!)」
「少し待ってな」
ピィナーが僕の後ろについてきている女の人に気づいた。
「ピィ?(誰?)」
「俺のハーレムメンバーだ、そういえばまだ自己紹介がまだだったな、俺はイーシス・カイだ、それでこっちの兎がピィナーだ」
「ピィ?ピィ!(はーれむ?よろしく!)」
「・・・」
「ピィ?(?)」
女の人はピィナーしばらく見つめた後、ピィナーを抱き上げた。
「・・・」
女の人はピィナーの頭を優しく撫でている。
ピィナーが気に入ったのかな?
同じパーティになるんだから女の人の名前を確認しておいたほうがいいよね?
話してくれるなら聞いてもいいけど話せないみたいだから自分で確認しよう。
「名前を確認させてもらうぞ、[ディテクション]」
名前 イリア
種族 人間
LV 5
HP 13924/13924
MP 0/0
この女の人はイリアって言うんだ。・・・え?
あれ?人間にしてはHPが高すぎる。
うーん、MPがないからその分HPが高いのかな?いや、でも高すぎな気が。
それに人間で名前がイリアだけ?家族がいないのかな?
・・・もしかしたら、いや、違うかもしれないけど確認しておこうかな?
「ピィ(お腹すいた)」
ああ、ピィナーが食事を待ちきれない感じだ。
確認は後にして先に食事にするか。
「[アイテムボックス]」
僕は[アイテムボックス]から魔法陣を4つと食料を取り出した。
「・・・」
イリアはこちらを不思議そうに見ている。
「食べていいぞ、ピィナー」
「ピィ!(いただきます!)」
ピィナーは餌を食べ始めた。
ピィナーは本当によく食べる。その小さな体のどこに餌が入っているんだろうってくらいに。
僕も食事を食べ始めた。
イリアの分の食事も出しているけど、なぜかイリアは食事に手をつけようとしない。
「食べないのか?食べていいぞ」
「・・・」
僕がそう促すとイリアは食事を始めた。
一口食べた後は、イリアは次々とパクパク食べ始めた。お腹が空いていたのかな?
言葉は話さないけど美味しそうに食べていると思う。
みんなの食事が終わった。
よし、魔法陣スキルを発動してステータスの違和感を確認してみよう、あ!やばい!忘れてた!
僕は今まで詠唱を忘れていたことを思い出した。
魔法陣スキルを使うときは詠唱しないとって思ってたのに。
せっかく今日たくさん魔法陣スキルを使ったのに。[イモータル]とか[ワードハイド]とか[アイテムボックス]とか。
やらかした。気をつけないと。
ちゃんと詠唱しよう。僕はお兄ちゃんなんだから。
「偽りを見破り、真実を映し出せ、[トゥルーミラー]」
僕の前に鏡が現れた。
その鏡はイリアの姿を映している。
魔法陣スキル[トゥルーミラー]は、その鏡が対象を映している間、偽りが暴かれ、真実が見えるようになるスキルだ。
例えば僕が映れば、鏡に映っている間は6歳くらいの男の姿が映って、ステータスの名前もアルターになる。
僕はイリアのステータスを確認して見た。
名前 アメイリア・ランリッツェル
種族 吸血鬼
LV 5
HP 13924/13924
MP 0/0
名前はアメイリア・ランリッツェルで、種族は、え!?吸血鬼!?
やばい、吸血鬼は僕を殺し得る種族だ。
やられる前にやる?今のうちに殺しておく?
・・・落ち着け、僕はお兄ちゃんなんだ、お兄ちゃんは心が広いんだ、だからお兄ちゃんなら自分を殺し得る種族でもちゃんと受け入れる。
生き物はむやみに殺しちゃダメなんだ。
ここで殺したらそれはお兄ちゃんじゃない、アルターとしての行動になる。
それにせっかく僕のパーティに入ってくれたんだから、殺すのはダメだ。
広い心を持って受け入れないと。
「・・・」
「吸血鬼、アメイリア・ランリッツェルか」
「!?」
イリアは僕の言葉を聞いて肩を飛び跳ねさせた。
自分の名前を見られたことに驚いているのかな?
「ステータスに違和感を覚えたから確認させてもらった」
「・・・」
ステータス以外にも、よく見れば外見的にも吸血鬼の特徴がある。
お兄ちゃんから聞いた吸血鬼の姿は、髪は白か金色で赤い目に尖った犬歯、そして背中に翼があるって言ってた。
イリアは、翼はなさそうだけど、髪は白く、目は赤い、そして歯を見たら犬歯が尖っている。
とりあえずは噛まれないように気をつけておこう。
でもイリアにはMPがないから[生物感知・魔法]が効かない。
だから背後から近づかれたりすると気付けない、どうしよう。
あれ?あの種族スキルってMPを使うんだっけ?それならイリアに殺されることは無いかもしれないけど。
・・・いや、考えていても、警戒していても仕方ないか。
お兄ちゃんなら同じパーティの人を疑うなんてしないだろうから、僕も警戒はやめよう。
よし、とりあえずもう一つスキルを使おう。
言葉を話せないというのは不便だ、だからいつか困ったことになるかもしれない。いや、もしかしたら今困っているかもしれない。
だから話ができるようにしないと。
「全てを治す浄化の光[トリートメント]」
魔法陣スキル[トリートメント]は低位の状態異常を治すスキルだ。
高位の状態異常は治せない。
[サイレンス]は低位の状態異常だからこのスキルで治せるはず。
「話せるか?」
「・・・」
まだ話せないのかな?
「状態異常の[サイレンス]じゃなかったのか、すまない、君の言葉を俺は取り戻せなかった、いや」
僕はお兄ちゃんなんだ、お兄ちゃんに不可能はない、出来ないことはないんだ。
「必ずいつか話せるようにする、それまで待っていてくれ」
「・・・」
「・・・眠たくなってきたな」
流石に疲れた。もう寝ようかな。その前に体を変えておこう。今のままだと汚いし。
本当はお湯に入りたいけど、そういう場所はこの街にはなさそうだったから体を新しくする。
「新規作成、身体変化、[リメイク]」
僕は[リメイク]を発動して体を新品にした。
これで体の汚れは消えた。
お兄ちゃんは綺麗好きだから毎日綺麗にしないと。
本当は今日消費した分の魔法陣を書き足しておきたいけど、もう疲れた、眠い。
だから明日にしよう。魔法陣を書くのは時間がかかるし、それにまだまだ沢山魔法陣はあるから。
「イリアも自由に寝ていいからな、おやすみ」
「ピィ(おやすみ)」
「・・・」
僕はベッドに倒れこんですぐに眠った。