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第2話 怒り

 魔物が大きな口を開け、僕を噛み砕こうとした。


「[シャドウムーブ]」


 僕は服に書いてある魔法陣を消費し、移動系魔法陣スキル[シャドウムーブ]を発動した。


 僕の体は足元の影に溶け、あの魔物は僕を食べることができなかった。

 そして僕は魔物の背後に回った。


[シャドウムーブ]は、影の中を移動できるスキルだ。

 その移動速度は速い、ただし、自分が影にいなければ発動できず、自分に光が当てられたら強制解除され、地表から放り出される。

 幸いここは陽の光の届かない深い森の中、自由に移動できる。


 魔法陣は1度使うと、すぐになくなるものと、効果が切れるまで残るものがあるが、基本的に使えば消える。


 僕は魔物の背後に行き、少し離れたところで[シャドウムーブ]を解除した。


 全力デ滅ボス。


 僕は服に書かれた[アイテムボックス]の魔法陣を使い、スキルを発動した。


[アイテムボックス]は、物を入れたり出したりできるスキルだ。[生物]は入らない。


 僕は[アイテムボックス]から巻物を取り出した。

 巻物といっても、木の枝に布を巻いただけのものだが。

 だが、その布には攻撃系の大規模魔法陣が色々描かれている。


 今、僕が持っている最大火力で、殺す!


 僕はその布を広げ、大規模魔法陣スキルを発動した。


 この世の万物に降り注ぐ、強大なる力よ!今ここに集いて、敵を束縛し全てを押しつぶさん!


「 [グラビティ・バインド]」


 そのスキルは、あの魔物に命中した。

 大規模魔法陣スキル[グラビティ・バインド]は、術者の魔法攻撃力により範囲と拘束力が増大する。

 効果は現在のHPを半減させる、そして行動の阻害だ。効果時間は約1分。


 僕の魔法攻撃力は全然ない。だがその魔物全体に強大な重力がかかるくらいには範囲がある。

 もし魔法攻撃力がもっと高ければ、僕の村ごと、いや、町、国一つまるごと範囲に入るかもしれない。それほど強大な範囲攻撃だ。

 お兄ちゃんはフィールド全体攻撃と言っていた。


 そして行動阻害は自身の魔法攻撃力と、相手の重量が大きければ大きいほど効果が増す。

 あの魔物はかなりの大きさだ。相当重いだろう。僕の弱い魔法攻撃力でも、行動するのは不可能だ。


「ぐ、グガァァァァァァア」


 あの魔物が叫び声を上げてノックバックした。


 殺セ!


 降り注ぐは光の雨、天に昇りし光の柱、集え、集いて焼き尽くせ!全てを浄化し無に返せ!


「[シャイニング・レイン!]」


 その瞬間、魔物に対して空から無数の光が降り注いだ。


「グガアアアア!!」


 魔物が光に飲み込まれて見えなくなった。


 マダダ、


 とこしえの業火、輝く焔、来たれ、真紅に染まりし紅蓮のドラゴン、喰らい、燃やし、灰とかせ!


「[インフェルノ・ドラゴン!]」


 僕の目の前から、1匹の炎の龍が現れた。その龍は、降り注ぐ光の中に向かって行った。


「ガアアア!!」


 魔物の叫び声が聞こえる。

 降り注ぐ光が、途絶えた。


 そこには魔物と、その魔物に巻きつく炎の龍がいた。


 マダダ、


 鳴り響く雷は天の怒号、降り注ぐ落雷は天の怒り、天空の瞬光、一筋の道を作り出せ!これが天罰!これが天意!これが貴様への天の恵みだ!


「[ブレッシング・ライトニング]」


 その瞬間、魔物にめがけて、一つの巨大な雷が落ちた。


「ガァァァア!!!!!」


 魔物の体から、バチバチと音が聞こえ、光が見える。


 マダダ!


 ここは冷たく純白な停止の世界、凍てつき、氷河に沈み、閉ざされよ!永劫の氷雪による無限監獄に囚われろ!


「[ジェイル・ブリザード]」


 その瞬間、ここら一帯が、いきなり冬に変わったかのように、景色が一変した。

 雪が降り、地面には氷柱が立ち並び、魔物は巨大な氷の中に閉じ込められた。


 許サナイ、許サナイ!


 その後も、僕は怒りに身を任せ、攻撃系の大規模魔法陣魔法を打ち続けた。

 炎の竜巻が魔物を包んだり、大地が盛り上がったり、魔物を大量の水が囲い、押しつぶすように中心に圧縮されたり、光が消えて、あたり一帯に黒く淀んだ空気が蔓延したり、他にも様々な攻撃をした。


 そして、残りの大規模魔法陣はあと一つ。


 墜落せよ、獄炎の輝きで、全てを照らす、たった一つの神の星、たった一つを滅ぼすため、天空より来たりて、地上に地獄を作り出せ!


「[ソーラー・メテオ]」


 その瞬間、地上に太陽が落ちて来た。いや、太陽は空にまだある。だが、太陽のような、真っ赤に燃える灼熱の星が、魔物にめがけて降って行った。


 ドーーーン!


 その灼熱の星が、魔物にぶつかり、爆発した。


「はぁ、はぁ、」


 煙で何も見えない、魔物の姿も、周りがどうなっているのかも。


 許サナイ、憎イ、全テガ憎イ。

 滅ボセ、全テ無ニカエセ。


 怒りが、憎しみが収まる気配がない。

 今僕の心にある感情は、黒くて、暗い感情だけだった。


 そして、煙が晴れる前に、煙が黒くなった。いや、なんだ?巨大な影?


「なに、ぐぁ!?」


 煙の中から、魔物が突撃して来た。

 そしてその魔物の突撃をもろにくらい、空を舞った。


 僕は木にぶち当たりながら、木をどんどん貫通して吹き飛んでいき、10本目あたりで、勢いが止まった。


 体が痛い。

 そしてその痛みで冷静さを取り戻した。


「僕は、何をやっているんだ」


 怒りで、憎しみで我を忘れていた。

 僕は動き回って位置を変えることすらしていなかった。ただ、怒りに身を任せて、我武者羅に八つ当たり気味に攻撃していただけだった。


 今の攻撃で、僕の残りHPは2になった。

 だが僕はHPが0になって死ぬことはほとんどありえない。

 しかし、もし今あの魔物が突撃ではなく、噛み付いて来ていたら僕は物理的に死んでいただろう。


 僕は目を閉じ、口を閉じ、手足の指を閉じた。


 これじゃダメだ、僕はなんとしてでもあの魔物を殺すんだ。考えろ、考えることをやめるな。


 まずは情報収集、そして自分が死なないことだ。

 僕が死んだら誰があの魔物を殺すんだ。だから生きなきゃダメだ。

 安全の確保はできなくても、緊急離脱くらいできるようにしておかなければ。


 僕は目、口、手足の指を閉じてから5秒後、全てを一斉に開き、スキル名を言った。


「[ジェット]」


 僕の体の両足の裏、足先、膝前後、お尻、背中、お腹、肩の前後、後頭部に軽い圧力を感じる。


 魔法スキル[ジェット]は、スキルモーションのあるスキルだ。


 このスキルは、体の自由なところから、目に見えないジェットを噴射させることが出来、それによって推進力を得るスキルだ。

 背中に作れば普通に走るより早く走れるし、足の裏に作れば上に飛んでいく。

 ただし足の裏だけだとバランスがうまく取れない。


 同時に何箇所も生成は可能だが、MP消費は1箇所ごとだ。増やし過ぎればMPが足りなくなる。MPの消費は生成の際消費するだけで、それ以降はジェットの強弱を変えようがMPの消耗はない。効果時間は自分で消すか、自分が意識を失うまで続く。


 僕が生成したジェットの数は17だ。この数なら慣れているから制御は出来る。

 戦闘した事なんてないから分からないけど、多分制御しながら戦闘も出来ると思う。だけどこれ以上増やすと流石に制御が大変で余裕が無くなりそうだ。


 お兄ちゃんは20個作ってMP回復して、また20個作っても、制御なんて余裕だと言っていた。


 僕は40個なら制御することだけで精一杯だ。そのほかのことを考えられなくなるだろう、やっぱりお兄ちゃんはすごい。


 そのお兄ちゃんを、アイツは、


 ユルサナイ!


 いや、冷静にならなきゃ、でないと勝てないんだ。


 まず僕は、ジェットの出力を調節して上に飛んだ。次は情報収集だ。


 あの魔物が僕を発見した。しかし驚いているようだ。僕が空を飛んだことに驚いているのか、それともまだ生きていることに驚いているのか。

 そんなことはどうでもいい。


「開眼せよ、万物を見通す識別の魔眼!」


 この眼のスキルが、僕が持っていてお兄ちゃんが持っていない、唯一のスキルだ。

 このスキルは[ディテクション]で見ることができる名前、種族、LV、HP、MPの他に、称号とその詳細まで見ることができる。


 名前 クカア


 種族 グランドドラゴン


 LV 50


 HP 12894620/12894620


 MP 0/0


 称号 [深淵の森の守護竜] [インヴィンジブル] [クールタイム減少 極] [オートリジェネ HP 極] [魔物] ・・・・


 その下にもかなりの数の称号が続いていた。


「っ!?なんで!?」


 あの魔物のHPが1も減っていない。なんで!?

[グラビティ・バインド]でHPは半減しているはず、それにどれだけ相手の防御力や魔法防御力が高くて、こちらの攻撃力や魔法攻撃力が低くても、攻撃が当たれば特別な称号がなければ1ダメージは入る。


 ・・・[オートリジェネ HP 極]これだ、この称号を持っているからHPが減っていない、いや、回復したんだ。


 間違っていないと思うが、確認のために一度相手のHPを減らそう。


 あの魔物はこちらをただ眺めているだけだ。今がチャンス。


 僕は右手の人差し指の先に魔力を集中させた。

 するとその指の先が光った。魔法スキルの[マーカー]だ。このスキルにはスキルモーションや魔法陣は無い。

 僕はその光で空間に魔法陣を書き始めた。


[グラビティ・バインド]なんて書いている余裕はない。割合ダメージを与えられればそれでいいから、もっと下の魔法でいい。今は検証だ。

 僕は焦らず、20秒ほどかけて、一つの魔法陣を作り出した。


「[グラビトン]、[アディション][ホーミング]」


 完成した魔法陣から小さな黒い球が飛んで行った。

 あの魔物は、警戒しているのか、その黒い球を横に大きく飛び避けようとした。

 しかし、[グラビトン]に[ホーミング]を付加しているため、あの魔物めがけて、黒い球が進路を変えた。

 そして、その黒い球が魔物に当たり、その瞬間、魔物を包むように黒い球が広がった。


 この魔法陣スキルは、現在HPの3%を削る魔法だ。


 HP 12507782/12894620


 確かに、あの魔物のHPは3%ほど削れた。


 HP 12894620/12894620


 が、ものすごい勢いで回復した。

 約3秒で、元の数値に戻った。


 やっぱり[オートリジェネ HP 極]の称号の効果で、HPが回復したんだ。


[オートリジェネHP 極]は、1秒に100%の確率でHP を1%回復する効果を持つ称号だ。

 つまりこの魔物は、100秒経てばフル回復することになる。


 僕にはHPを削りきることはできないだろう。

 僕がまともなダメージを与える方法は割合ダメージしかない。そのほかの攻撃はおそらく全て1ダメージになる。


 どうしよう?考えなきゃ、なんとか殺す方法を考えなきゃ。


 お兄ちゃんなら、お兄ちゃんならこんな状況でも、きっと魔物を殺せるのに。


 そうだ、なら、お兄ちゃんの言葉を思い出そう。

 お兄ちゃんから聞いたことを思い出せば、きっとそこに活路があると思う。


 お兄ちゃんに不可能はないんだ。だからお兄ちゃんと同等のスペックを持つ僕が、倒せないはずがない。


 僕は、お兄ちゃんから聞いたことを思い出した。

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