第15話 奴隷
商人の人は手に青い液体が入った瓶を持って部屋に帰って来た。
「お待たせいたしました」
あれ?僕はてっきり、商人さんが服を持ってくるものだと思っていたんだけど、違ったみたいだ。
なんの液体だろう。
「まずはお代ですが、金貨80枚になります」
え?服に金貨80枚!?金貨80枚ってパンが8000個も買えちゃうよ!?
奴隷っていうのはそんなに高いんだ。
そうか、お兄ちゃんが欲しいって言うものなんだ、そんな安いわけがないのか。勿論どれだけ値段が高くても買うけど。
良かったお金が足りて。
こんなにに高いんだから、きっとすごい効果なんだろうな、ちゃんと聞いておけばよかった。
今聞き直せばいいかもしれないけど、それだとさっき何も聞いてなかったことがバレちゃう。
バレちゃうとお兄ちゃんが失礼な人になっちゃう。だから聞いたらダメだ。
まぁ、実際に着て見て効果を確認すればいいか。
それにしても金貨80枚か。
「高いな」
「・・・分かりました、なら金貨70枚でどうでしょう?」
あれ?安くなっちゃった?どうしたんだろう?
なんでいきなり金貨10枚も安くなったのかな?
パンが1000個分も安くなっちゃった。
「・・・」
なんでいきなり安くなったのか、考えて見たけど僕には分からなかった。
「分かりました、金貨65枚、いや、負けに負けて金貨60枚でどうですか?」
どんどん下がっていく。
意味がまるで分からない。なんでだろう?
「そうか」
あ、分かった、きっとお兄ちゃんだから値段を下げたんだ!
やっぱりすごいよ!だっていつのまにか金貨20枚も値段が減っていたんだもん、それはきっと商人さんが僕のことをお兄ちゃんと思っているからなんだ。
お兄ちゃんは本当にすごい!
「もうこれ以上は勘弁してください、金貨60枚なんてこちらはもう仕入れ値同然なんですから」
「ああ、買おう」
「ありがとうございます!ああ、良かった!」
どうやらよっぽどそのどれいを売りたかったらしい。
ずいぶんと喜んでいる。これで商人さんの悩みも解決できたのかな?
そして僕は感謝された。
ああ、僕はやっとお兄ちゃんの夢を叶えることに一歩近づけたんだ。
これからもどんどん人助けをしてたくさん感謝されないと!
「奴隷を買うのは初めてですか?」
「ああ、初めてだ」
「ではこの後の流れを軽く説明させて頂きますね、難しいことは何もありませんよ、まず私が準備するので、準備が整ったらあなたの名前を言っていただければそれで終わりです」
???
さっぱりわけがわからない説明だった。
え?服を買うのに名前がいるの?
「そのほかのことは私が準備をするので、名前を言うだけで大丈夫ですよ」
名前?なんでだろう?
商人さんは全部説明したって言う感じの雰囲気を漂わせて、話を終わらせてしまった。
え?もしかして僕の村じゃ無かったけど、こう言う街とかだと何かを買うときは名前が必要になるんだろうか?
どうしよう?名前って本名じゃないとダメかな?多分ダメだろうな。
ここで商人さんに聞いて見てもいいけど、もし聞いた時に、
「え?こんな常識すら知らないなんて、へぇー、貴方は物知らずなんですね」
なんて言われてしまいかねない。
そうなるとお兄ちゃんの評判が落ちてしまう!
特に商人は様々な場所に行く職業だからすぐに世界中に評判が広がってしまう。
聞いたらダメだ。
でもアルターなんて名乗るわけにはいかない。
準備しないと。
「お金はすぐに払うことは可能ですか?」
「可能だが、すまない、トイレはあるだろうか」
「ありますよ、この部屋を出てすぐ右奥に見えると思います」
「感謝する」
「では、私はすぐに始められるように準備しておきますね」
「分かった」
僕はトイレで[アイテムボックス]を使い、[アイテムボックス]と、[ワードハイド]の魔法陣を取り出して、スキルを使った。
「[ワードハイド]」
このスキルは、言葉を指定して、その言葉を言った際別の言葉に聞こえるようになるスキルだ。
効果時間は解除するか、使用者が意識を失うかだ。
このスキルを使って僕はアルターと言ったらイーシスと聞こえるようにした。
部屋に戻ったら僕は金貨60枚を商人の人に渡した。
「ありがとうございます、もう準備はできていますので、あとは名前を言うだけで大丈夫です」
「アルター・カイだ」
その時、女性のお腹あたりの服が青く光った。その形はまるで何かの紋様のようなものだった
その紋様は10秒ほどで消えた。
この女の人が着ている服が光った?
この女の人が今着ている服を直接もらうのかな?
てっきり同じ物で新しいものをもらえると思っていたけど。
「これで終わりです、お買い上げありがとうございました!これでこの奴隷は貴方の物、好きにしてくださって構いませんよ、それでは入り口までお送りいたしますね」
そう言って商人さんは建物の外まで僕を連れて行った。
「またのお越しをお待ちしています!」
・・・え?僕まだ何ももらってないんだけど。
あれ?実はもう何か貰ってるとか?でも何も貰ってないと思うけど。
結局僕は何を買ったんだろう?
建物の前には商人さんと一緒に、さっきの部屋にいた女の人が立っている。見送りだろうか?
もしかしたら、どれいが服っていうのは僕の勘違いで、実はもう僕のステータスに変化があったり、姿が変化していたりするのかな?
・・・街の探索に時間をかけすぎたせいで、お腹すいてきた。
まあいいか、確かに僕はどれいを買ったんだし、商人さんも助けられた。
どれいが何かは後で考えることにしよう。
だいぶ時間が経ったしピィナーがもう起きているかもしれない。宿屋に戻ろう。
僕は宿屋に帰る道中でずっと考えてた。
うーん?
「どれいってなんだったんだろう?」
本当にわからない。落ち着いていろいろ見て見たらわかるとは思うけど、もし今日明日考えて、本当に分からなかったらまた商人さんのところに行き、恥を忍んでどれいについて聞いてみよう。
「ん?え!?」
いつの間にか僕の後ろに人がいた。
ビックリした。
足音もしてなかったし、何より[生物感知・魔法]になんの反応もなかったから、全く気づかなかった。
「・・・」
そこにはさっきの商人さんのところにいた女の人がいた。
「どうしたんだ?」
「・・・」
女の人が僕を見て首を傾げた。
あ、もしかして、僕何か忘れ物をした?実はどれいを受け取り忘れていたとか?それを届けにきてくれたのかな?
「俺は何か忘れ物をしたのか?」
「・・・」
女の人は何も話さない。
「俺は商人のところに戻ったほうがいいのか?」
「・・・」
女の人は首を傾げたまま動かない。
「話してくれないとわからないんだが」
「・・・」
「もしかして、何も話せないのか?」
「・・・」
女の人は首を縦に振った。
言葉が話せない、[サイレンス]の状態異常にかかっているのだろうか?それとも体由来の物理的なものかな?
[サイレンス]にかかっているだけなら直すことはできるけど、物理的なものなら僕には直すことはできない。
「そうか、俺に何の用だ?」
「・・・」
女の人は首を傾げた。
ダメだ、言葉を話せない人とどうやって意思疎通すればいいんだろう?
それにしても、もう日も暮れる。この女の人は帰らなくていいのかな?
「君はあの商人の所に帰らなくていいのか?」
「・・・」
首を縦に振った。
帰らなくていいのか、ああそうか、別に商人さんの所で暮らしているわけじゃないのか。
もう仕事が終わって家に帰るところで、たまたま僕と帰り道が同じだったとかかな?
僕についてきていたのかと思ったけど、別にそんなことはなかったのかな?
「話しかけてすまなかったな」
僕は歩き出した。
でも女の人は僕についてきた。
僕が同じ所をくるくる回ったら、女の人も僕の後ろについてきて、同じようにくるくる回っていた。
「どうしてついてくるんだ?」
「・・・」
女の人は首を傾げている。
「もしかして、帰る家がないのか?」
「・・・」
少し間が開いた後、ゆっくり女の人は頷いた。
この女の人は帰る家がなくて困っているのかもしれない。
なら、今日は僕の泊まる宿に連れて行こう。
「ならついて来い、いや、もうついてきてるか」
僕は女の人を宿に連れて行った。