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第13話 ギルド

 街の中には沢山の人がいた。

 多分僕の村の人全員を集めてたとしても、今目の前に見えている人よりも少ないだろう。


 この中に、もしかしたら困っている人もいるかも知れない。

 でもどうやって困っている人を見つけるんだろう?

 お兄ちゃんは見たら1発でわかるって言ってた。


 ・・・僕にはわかりそうも無い。もしかしたら誰も困ってないのかな?

 いや、それはお兄ちゃんが凄いんだ。きっとお兄ちゃんならこの中からでも困っている人を見つけ出せるだろう。

 でも僕には分からない。


 うーん、とりあえず困っている人探しは後回しにして、先にギルドに向かおう。


 ギルドの場所は門番の人から聞いている。

 僕はそこを目指して歩きだした。


「ピィ(お腹すいた)」


 ん?ピィナーがお腹を空かせているようだ。


「何か食べてくか?そうだな、あの店でいいか」


 辺りを見回すと、お肉を焼いている店があった。


「お、いらっしゃい!いい肉が入ってるよ!うちは秘伝のタレで甘辛く味付けしてあって美味いぞ!なんと!驚きの安値!一本銀貨10枚だ!どうだい?」


 銀貨10枚、パンが10個買える値段だ。でも、基本的に肉は高い。


 家畜を育ててもHPを削って殺せば、肉が手に入るかは確率になってしまうし、物理的に殺そうにも、餓死させたら痩せちゃって肉は全然取れない。

 かといって斬り殺すなんてよっぽど無理だ。


 それを考えると驚きの安値なのかもしれない。


「10本買おう」


 僕は金貨を一枚取り出して店の人に渡した。


「毎度あり!またよろしくな!」


 僕の手持ちには金貨が100枚くらいある。

 シスターが50枚くらいくれたのと、ガーナックさんに売ったグランドドラゴンの爪の値段の金貨50枚で100枚くらいだ。


 お金についてはシスターから聞いている。銅貨100枚で1銀貨、銀貨100枚で1金貨だって。


 それを考えると金貨100枚でパンが1万個も買えてしまう。


 こんな大金をくれたシスターとガーナックさんにはいつか絶対に恩返しをしよう。

 商人はたくさん物を買ってもらえれば喜んでくれるらしい。だからお金を貯めてガーナックさんからたくさん物を買おう。


 ギルドではお金も稼げるらしい。だから頑張って稼ごう。


「ピィナー、食べるか?」


「ピィ!!(食べる!!)」


 ピィナーに串を一本渡した。


「ピィ!!(美味しい!)」


 そう言えば、何の肉かを聞いてなかったな。


「その肉、もしかしたらウサギの肉かもな」


「ピ、ピィ・・・(悲しい・・・)」






 大きな建物についた。

 看板には冒険者ギルドと書いてある。


 僕はその建物に入って行った。


 中は結構広かった。


 受付、換金所、掲示板、酒場、テーブルと椅子が並んでいる場所と色々な所があった。


 僕は受付に向かった。多分ここで冒険者になれると思う。

 僕は受付の前まで来た。


 受付の女の人はピィナーをじっと見つめている。

 あれ?ここってペットの持ち込み禁止なのかな?


「か、可愛い・・・あっ、冒険者ギルドへようこそ!本日はどのようなご用件でしょうか?」


 どうやら違ったようだ、よかった。


「冒険者になりたい」


「はい、かしこまりました、では冒険者に登録する前に、まずステータスを確認させていただきます、[ディテクション]・・・え?レベル1?」


 ん?もしかしてレベル1だと冒険者になれないのだろうか?


「レベル1じゃ登録できないのか?」


「ああ、いえ、ギルド登録の規定にはレベル制限はありませんので登録は可能ですが・・・」


「ああ〜?なんだ〜?お前レベル1なのか、だぁっはっはっは!」


「レベル1の人間なんて赤子以外で初めて見たぜ!」


「だよなー!あんな歳でまだレベル1だって?笑えてくるわ!」


「「「あーっはっはっは!」」」


 後ろから大きな笑い声が聞こえて来た。

 ああ、村のバロックさんがお酒を飲んだ時がこんな感じだったな。

 酔っ払いが騒いでいるのは無視するに限るってお兄ちゃんが言っていた。巻き込まれても面倒なだけだって。だから気にしないようにしよう。


「なら登録をお願いしよう」


「おいおい、冒険者ってのはなぁ〜、常に危険が付きまとうものなんだよ〜、お前みたいなレベル1が冒険者なんて務まらねぇよ〜だぁっはっはっは〜」


「やめとけやめとけ!どうせすぐに死ぬことになるんだ!」


「俺たちは親切でいってやってるんだぜぇ?」


「「「あーっはっはっは!」」」


 受付の女の人は固まって動かない。どうしたんだろう?


「どうしたんだ?早く登録をしてほしいんだが」


「あ、あの、後ろ」


「おい、何無視してんだよ!」


「聞いてんのか!」


「レベル1風情が俺達を無視してんじゃねえぞ!」


「後ろがどうかしたのか?」


 僕は後ろに振り返っだけど、酔っ払いしかいなかった。


「後ろで登録するのか?」


「え!?いえ、あの」


「おい!無視してんじゃねぇっつってんだろ!」


 僕は肩を掴まれ振り返らされた。

 この人達はどうしたんだろう、あ、さっきの酔っ払いの人たちかな? 


 僕に用事かな?もしかしたら何か困っているのかも知れない。


「どうした?何か困っていることがあるなら、俺が助けるぞ」


「なんだテメェ、なんも聞いてねぇのか!無視するなって言ってんだろ!それに俺達は全員レベル14だ!レベル1の雑魚の助けなんていらねぇよ!」


「雑魚?俺が雑魚だと?」


「ああ、お前はレベルが1しかない雑魚だよ!」


「レベル1の雑魚のくせに俺達を無視しやがって!」


「お前は俺達の足元にも及ばない実力しかないレベル1の雑魚だ!」


 なんでそう言い切れるんだろう?僕のステータスを見たわけでもスキルを知ってるわけでも、称号を知ってるわけでもないだろうに。

 ああ、酔って気が大きくなっているだけなのかな?なら気にしなくていいか。

 酔っ払いの戯言に耳を傾けても仕方ないし。


「ピィ!!(プンプン!!)」


 ピィナーが怒っている。

 相手は酔っ払いなんだから気にしなくていいのに。


「なんだ?こんなところに兎が迷い込んでるぞ?」


「随分と小せえな、なんだこいつ?」


「なんだ?俺たちをにらんでいるのか?」


「ピィ!!(プンプン!)」


「やめろピィナー」


「ピ、ピィ、(でも)」


 ピィナーが釈然としない感じになっている。


「ああ?なんだ?その兎はお前のペットか?[ディテクション]・・・は?兎がレベル10?」


「おいおい、兎がレベル10って」


「マジかよ!それじゃあ」


「「「飼い主の方がレベル低いのかよ!あーっはっはっは!」」」


「ピ、ピィィ!(プンプン!)」


「なんだよ!ペットの方がレベルが高いって!」


「これじゃあどっちが飼い主か分からねえなぁ!」


「そして危なくなったらこう言うんだろ?助けてー兎ーってな!」


「「「あーっはっはっは!」」」


 この人達は何をそんなに笑ってるんだろう?ただレベルが低いだけなのに。

 もしかしてレベル至上主義者なのかな?レベルでしか相手を判断できない人。

 僕の村にもそう言う人がいた。まだレベル1なんだから、ってずーっと言ってくる人が。


 そんなにレベルが大事かな?レベルが低くても殺そうと思えば誰だって殺せるのに。


 あ、ピィナーから物凄い怒気が伝わってくる。我慢の限界っぽいかな?今にも爆発してあの人たちを殺してしまいそうだ。

 ピィナーはおそらく魔法陣を使おうとしている。流石にそれは止めなきゃ。


「ピ(り)」


「ピィナー!今ここで暴れたら、普通に討伐されるかみんな下敷きだ!言っただろ?生き物はむやみに殺すなって」


「ピ、ピィ、(ごめんなさい)」


 ・・・まぁでも、ピィナーは僕のために怒ったんだ、その気持ちは貰っておこう。


「その心遣いには感謝する、俺は大丈夫だ、だからここでは使うなよ」


「ピ、ピィ!!(分かった!)」


「おいおい、今の言い方、まるで止めなければ俺たちが死んでいるみたいだったじゃねえか?」


「ああ、そうだが?」


「俺が、俺たちがレベル10の兎に負けるってか?」


「さぁ?だが、今ピィナーと戦ったら、お前達は何もできずに死んでるよ」


 僕もここにいたら巻き添えで死んでるかもね。


「んだと!?テメェ、随分とその兎を信頼してるようだがな、俺たちが負けるわけないだろ!俺たちはレベル14なんだよ!」


 この人達は知らないのかもしれない。レベルだけが全てじゃないってことを。

 そのせいでいつか失敗をしてしまうかもしれない。

 なら、僕が教えて上げないと。


 これもきっと人助けだ。今は困ってないかもしれないけど、将来困ることになるかもしれないからね。


「レベルだけが全てじゃない、レベルしか見ないようではいつか足元をすくわれるぞ?」


「何わかったようなことを言ってんだ!」


「レベルだけで言ったら俺がレベル1で最弱かもしれないが、俺がお前達に負けることはない、だから認識を改めた方がいい」


「ああ!?俺たちがレベル1の雑魚のお前に負けるだって?寝言は寝て言えってんだ!」


「雑魚のくせに粋がってんじゃねえぞ!」


「テメェなんて俺達が一度攻撃したら死ぬ雑魚なんだよ!」


 この人達に僕の言葉が届かない。


 僕がお兄ちゃんほど話し上手ならきっと話し合いで理解してくれただろう。でも僕はまだまだお兄ちゃんには程遠い。話し合いで解決はできそうにない。

 仕方ない、体に教えるしかないのかな?


「ならかかってくるといい、指導してやろう」


「んだと!?じゃあ攻撃してやろうか!ああ!?」


「後悔するなら今のうちだぞ!」


「死んでも知らねえからな!」


 その時、僕と酔っ払いの間にギルドの受付の女の人が入ってきた。


「あ、あの!皆さん落ち着いてください!彼はまだレベル1で、きっと何も知らないんですよ、だからそこは大人の寛容さを見せて、許してあげてください!」


「不要だ、そこを退いてくれ」


「ダメです!ギルドで人が死ぬのを見過ごすわけにはいきません、いいですか、レベルが低い内はレベルが上がればステータスが何倍にも上がっていくんですから、レベル1と14だとステータスに大きな開きがあるんですよ!だいたい、えっと」


「同種族、同個体の場合、約136倍程度の差だ」


「え?」


「そんな事当然知っている、だがそれがどうしたんだ?戦いはレベルで決まるわけじゃない」


「いえ、でも」


「大丈夫だ、俺はあの者達を殺したりはしない、貴様達、しっかり指導してやるからどこからでもかかってこい」


 生物はむやみに殺しちゃダメ、お兄ちゃんの教えだ。


「さっきから聞いてればまるで自分の方が強いみたいに!」


「ああ、ここまで舐められて、引き下がる訳にはいかねぇ!」


「死んでも文句は言うんじゃねぇぞ!」


 この人は何を言ってるんだろう?


「死んだら話せないだろ?文句を言える訳ないじゃないか」


「「「・・・死に晒せ!!!」」」


 3人は同時に武器を抜いて襲いかかって来た。

 酔って何も判断できないんだろう、まだ僕と3人の間には受付の女の人がいるのに。


「え!?」


 巻き込む訳にはいかないから、僕は間に入っていた受付の人を引き寄せて後ろに下がらせてから、服に書いてある魔法陣を使ってスキルを発動した。


「[イモータル]」


 3人が同時に襲いかかってこようが、たとえこの人達の物理的な力が見た目以上であろうが、イモータルを発動している僕を殺すことは不可能だ。


 その3人の攻撃を僕はただ突っ立って見ていた。

 まずは分からせる、どれだけ攻撃しようと、僕を殺すことができない現実を。

 そして次にこの人達のHPを1にする。


 それできっとわかってくれると思う。レベルだけが全てじゃないって。


 だけど、3人が武器を抜いて飛びかかってきたときに、ギルドの扉が開いて、女の人が入ってきた。


「・・・[ショックウェイブ]」


 その人は、3人の攻撃が僕に当たった瞬間、杖の魔法スキル[ショックウェイブ]を使って3人を吹っ飛ばした。

 僕にもスキルが当たったが、僕は[イモータル]を発動していたから吹き飛ばなかった。


「「「・・・え?」」」


 横槍が入ってしまった。

 確かにあの3人の攻撃は僕に届いたけど、一瞬だったからあの3人は攻撃を当てたことを認識していないかもしれない。


「・・・何で?今、当たって」


「おい!邪魔する奴は誰だ!・・・げっ!」


 吹き飛ばされた3人は、女の人を見ると顔をしかめた。


「・・・何やってる?殺し?」


「ち、違うぞ、ただ俺たちは生意気な新人にお灸を据えようと思ってな?」


「・・・武器抜いてた」


「いや!俺たちは」


「・・・酔っ払い?やっていいこと、悪いことある」


「・・・ああ、すまねぇ、頭に血が上ってたんだ」


「危うく殺しちまうところだったぜ、止めてくれてありがとな」


「行くぞ、こいつの顔を見ていたらまた怒りが湧いちまう」


 あの3人組がギルドの外に向かって歩き出した。

 待ってよ!僕はまだあの3人に何も教えていないのに!


「待っむぐ!?」


 僕は後ろから受付の人に口を押さえられた。


「だ、ダメです!危ないですよ!」


 そのまま3人は外に行ってしまった。


「・・・マリー、何、あった?」


「ええっと、・・・」


 ああ、僕は全然ダメなんだ、僕は全然お兄ちゃんには程遠い、ダメだ、なんでこんなにうまくいかないんだろう?

 僕はあの人たちを助けられなかった。・・・無力だ。


 いや、諦めちゃダメだ、僕はお兄ちゃんになるって決めたんだ!頑張ってお兄ちゃんを目指すんだ、一回の失敗もしたくないけど、失敗から学んで次は同じ失敗をしないように、頑張るぞ!!


「・・・ってことがありました」


「・・・そう」


「本当にありがとうございます!もし止めて下さらなければ危うく死人が出るところでした!」


「・・・ううん、私、また間に合わなかった」


「え?何がですか?」


「・・・なんでも」


 二人の会話は途切れたかな?もう話しかけてもいいかな?


「すまないが、冒険者登録をして貰ってもいいか?」


「あ、はい、・・・え?HPが残り2しかないじゃないですか!ちょっと待っててください!」


 そう言って受付の女の人、マリーって呼ばれていたかな?その人が走り去っていった。


「ピィ?(大丈夫?)」


「ああ、大丈夫だ」


「・・・お前、なぜ、死んでない?吹き飛ばなかった?」


「ん?何の話だ?」


「・・・レベル1なのに」


 ん、この人もさっきの人と同じレベル至上主義者なのかな?

 死んでない、吹き飛ばなかったっていうのはさっきこの人が放った[ショックウェイブ]のことかな?


「レベルによって全てが決まるわけじゃない、他にもっと大切なことがある」


「・・・そんなことはない、レベルが大切、他者を寄せ付けない、圧倒的な高レベルの相手の前には、全てが無力」


「そんなことない、たとえレベル1であっても、殺そうと思えば誰だって、どれだけレベルが高い魔物だって殺すことはできる」


「・・・」


 マリーって呼ばれていた受付の女の人が戻ってきた。


「これ、ポーションです!飲んでください!」


「ん?ああ、大丈夫だ、必要ない」


「でも、危ないです!飲んでください!」


 ああ、この人は僕のHPが少ないから心配してくれているのかな。


「その心遣いには感謝する、だが俺には必要ない、それよりも早く冒険者になりたいのだが」


「やっぱりダメです!危険すぎます!せめてレベルを5までは上げてください!」


 あれ?


「先程は冒険者登録にレベル制限はないと言っていた筈だか?危険なんて100も承知だ、だが俺は冒険者にならなければならないんだ」


「何を言ってもダメです!」


 その後何を言ってもギルドの受付の女の人は頑なに認めてくれなかった。

 僕は冒険者に登録することすらできないらしい。

 本当に世の中うまくいかないことばかりだ。

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