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外伝2 ガーナック・レイダース 1

 僕、ガーナック・レイダースには商才がない。それは僕もよくわかっている。

 僕には物を見る目がない。

[アプレイザル]というスキルすら使えない。

[アプレイザル]って言うのは[物]の詳細がわかるスキルのことだ。


 でも、僕には物を見る目は無くとも、人を見る目だけはあると思っている。

 人を見る目って言うのは[ディテクション]のことじゃない、当然人間種の僕は[ディテクション]を使えるけどそうじゃなくて、その人がいい人か悪い人か、嘘を言っているかそうじゃないかがわかるってことだ。


 だから人に騙されるって言うことはあまりない。


 これだけ聞くと僕には商才があるように見えるかもしれないけど、娘曰く僕には商人にとって一番大切なものが欠けているって言ってた。


「商人にとって一番大切なことは信用だよ」


「違うわ、商人にとって一番大切なことはお金に対する欲や執着よ、だからお父さんは全然儲けられないのよ」


 確かに僕にはお金に対する執着は少ない。

 僕が商人になったのは、こんな僕でも人の役に立てることがあるとすれば、それは商売しかないと思ったからだ。


「どこかの田舎村に殆ど儲け0で物を売ったり、なんの価値もないものに無駄にお金を注ぎ込んだりしてるから、いつまでたっても貧しいままで、お母さんにも逃げられるのよ」


「あはは、はぁ、ごめんね、本当にリリアには苦労をかけたよね」


 私の娘、リリア・レイダースには幼い頃とても苦労をかけた。妻に逃げられ、私はずっと貧しかったから、当然リリアは貧しい暮らしを余儀なくされた。

 そんな子供時代を送った為か、または僕を見て育ったからか、リリアはお金に執着するようになった。


 リリアはもう独り立ちして、とても大きな商会を持っている。

 つまりリリアには商才があるってことだ。


 商才のない僕から商才のあるリリアが生まれた。

 いや、リリアは商才のない私を見て育ったからこそ、僕のようにはならず、大きな商会を持てたのかな?


「お父さんは唯一人を見る目だけはあるんだから、あんな施しのようなことをやめればすぐにでも大商会を持てると思うのに、なんなら私の商会に欲しいくらいだわ」


「あはは、僕には小さな行商人があってるよ、さて、準備はこれくらいでいいかな」


「また行くつもりなの?そんな少量をほとんど何も売れない所に物を持って行くより、王都や冒険者の街にでも売りに行った方が儲けられるのに」


「でも、僕はお金儲けよりも人の助けになりたいからね、誰も行かないような辺鄙な所でも、そこに人がいるなら僕は色々な所の物を売ってその人たちの助けになってあげたいんだよ」


「それも、お金があればもっとできること、助けられる人は増えるわ」


「あはは、そうだよね、じゃあ行ってくるよ」


「お父さん、無駄遣いしたらダメだからね、変なものを買っちゃダメよ!せっかく今お父さんは借金が無くなってそれなりにお金が貯まって来てるんだから!」


「あはは、分かってるよ」


「絶対にわかってない!」


 娘のリリアはかなりお金を持っている。だけど、だからこそ娘の迷惑になるわけにはいかないから、お金のことは家族でもキッチリ分けている。


 今まであった借金を娘が払ってくれようとしたこともあったけど、親としてそれはいただけなかった。

 だから地道に稼いで少し前に借金を返し終えて、今は少しだけお金も溜まって来た。


 リリアには僕がいつ無駄遣いでお金を溶かすのかといつも心配されている。

 そんな心配しなくても大丈夫なのに。






 僕は荷車を引いて村に向かっている。

 他の行商人は馬とか牛とかの動物に荷車を引かせているけど、僕は基本的に自分で引いている。


 とても疲れるし時間もかかるけど、昔の僕には動物を飼う余裕なんてなかったし、今はもう重たい荷車を引くのにも慣れた。

 それに僕が向かっている場所は道が整備されていない場所だから、動物だと通れない場所があったりする。


 当然道中には魔物が出る。

 でも僕には荷車を引く力はあっても、魔物を倒す力なんてない。

 だから僕は魔物が寄ってこなくなる魔道具を使って移動する。


 この魔道具の効果は魔石の魔力がなくなるまで続く。

 そして魔石を入れ替えれば何度でも使える。


 この魔道具がなければ僕はとっくに魔物に殺されていただろう。

 だけどこの魔道具で寄ってこなくなるのは[魔物]だけだ。盗賊や動物は普通に寄ってくる。


 だから普通の行商人は冒険者を護衛に雇って街から街まで移動する。魔物を避けれても、盗賊に荷物を全て奪われれば意味がないからだ。


 でも僕がこの魔道具だけで移動するのは、ここに盗賊なんて出ないからだ。

 それにたまに動物は出るけど、刺激しなければ基本的に動物は襲ってこない。


 今僕が向かっている村は、あまり人々に知られていない村だ。

 だからそこに向かう道に人なんてほとんど通らない。

 盗賊たちも人通りがない所にいても人を襲うことができないからこんな所にはいないということだ。


 この話を娘にした時は、盗賊がいる可能性だって少しはあるし、魔石の魔力が尽きて気がつかなかったら魔物に襲われるんだから危ないわ!そんなリスクを負うくらいなら護衛を雇いなさい!と叱られてしまった。


 でも、今までも大丈夫だったからきっと大丈夫。ほら、もう村が見えてきた。


 僕は村に着いた。


 数週間ぶりに訪れた村のみんなの様子は、少し落ち込んでいた。

 何かあったのかと聞いたら、アルター君が魔物に殺されてしまったらしい。


 魔物はよっぽどのことがない限り、村や街の中には現れないけどアルター君は森の中に入ったらしい。


 僕も長く生きてきた。人が死ぬなんてよく聞くし、僕の身近な人が魔物に殺されたり盗賊に殺されたりしたこともある。

 だけど何度体験しても、知っている人が死ぬのは悲しい。

 それにアルター君はまだ子供だった。未来ある若者が命を落とす、それはとても悲しいことだ。


 教会の前までついた。

 僕は荷車を教会の前に置いて、教会を訪れた。


「シスター、いるかい?」


「ガーナックじゃないか、久しぶりだね」


「シスター、村の人から話を聞いたよ、・・・その、残念だったね」


「ああ、全く、勝手に森に踏み込んで、勝手に死んで、少しは残される者の気持ちも考えて欲しいね」


「アルター君が死んでイーシス君は落ち込んでないかい?」


「・・・ああ、落ち込んでいるさ」


 今の間は何だろう?


「イーシス!ガーナックが来たよ!」


 シスターがイーシス君を呼んだ。隣の部屋からイーシス君が出て、あれ?


「アルター君?生きていたのかい?」


「っ!?ガーナック!」


 なぜか僕はシスターに怒られた。


「・・・俺はイーシスだ、アルターは死んだ」


「え?」


 この子は今嘘をついた。

 この子はイーシス君じゃない、間違いなくアルター君だ。確かに髪の毛の長さや口調、雰囲気はイーシス君みたいだけど、僕は一度会った人を、ましてや話したことがある人を見間違えるなんてしない。でも、


「俺はイーシスだ、アルターは死んだ」


 アルター君はもう一度そう言った。

 何か事情があるのかもしれない。深くは聞かない方がいいのかな?


「そう?シスター、何か買ってくかい?」


「・・・はぁ、じゃあいつもの頼むよ、それと紙は多めにね、イーシスが使い込んじまったから今ここに紙がないんだよ」


「毎度ありがとうございます」


 そうシスターに言った後、僕はアルター君に向き直って聞いてみた。


「何か欲しいものがあるかい?」


「いや、俺は買い取って欲しいものがある」


 買い取って欲しいもの?


「ん?いいよ、何かな?」


「ついて来てくれ」


 ここじゃ見せられないものなのか、もしくは大きくて持ち運べなかったのか。


「うん、じゃあシスター、荷車は教会の前に置いてあるから、他にも欲しいものがあったら取っといていいからね」


「おい、ガーナック、客に商品全部預けるなんて、また娘にど叱られるんじゃないのかい?」


「あはは、でもシスターは信用しているから、盗んだり誤魔化したりしないでしょ」


「当たり前じゃないか」


「なら大丈夫だよ、じゃあ行こうか」


「・・・はあ、そういう問題じゃないと思うんだけどね」






 僕はアルター君について行った。

 村の人はアルター君が死んだと言っていた。だけどアルター君は生きている、イーシス君になりきって。


 ・・・つまり死んだのはイーシス君か?

 それを受け入れられなかったアルター君は自分がイーシス君になって、自分を誤魔化しているってことかな?


 ・・・良かった、アルター君は大丈夫そうだ。


 アルター君にとってイーシス君は己の全てって言うくらい大切な存在だっただろうけど、そのイーシス君が死んでも、昔のようになってない。

 それに関しては本当に良かった。


 昔、まだアルター君が本当に幼かったころ、教会で拾われた直後くらいかな、その時のアルター君を見た時、僕は恐怖に震えた。


 僕は人を見る目だけはある。嘘もみやぶれるし、その人がいい人なのか悪い人なのかっていうのもなんとなくわかる。


 子供っていうのは基本的に無垢で真っ白だ。


 けど、あの時見たアルター君は、まるで世界を滅ぼす悪魔のように思えた。唯々悪だった。


 その時のアルター君はまだ自分で動くことすらできない赤子だったのに、アルター君の泣き声を聞いただけで、アルター君が身じろぎしただけで、僕は恐怖に震えた。


 あのアルター君からは悪意しか感じ取れなかった。まるで世界を呪っているようだった。

 大人の凶悪犯罪者でもここまでの悪意を発することはないだろう。


 その悪意を感じ取ったのは、きっと僕だけだったと思う。


 でも次に村に来た時には、その悪意はすっかりなりを潜め、ただイーシス君の後を追い、イーシス君と同じことをし、イーシス君に懐いている普通の子供だった。


 だからイーシス君が死んだら、またあの時の悪意が溢れ出すんじゃないかってそう思ったけど、どうやらそれは杞憂だったようだ。良かった。


 僕はアルター君に連れられて教会の裏手まで来た。

 先程から気になっていたけど、アルター君の後ろに青い兎がついて行っている。

 新しくアルター君が飼い始めたペットかな?


「その青い兎はなんだい?」


「ああ、拾ってきた」


 拾って来た?でも確かシスターって動物が苦手だったと思うけど。


「よくシスターが許可を出したよね、シスター動物が苦手なのに」


「それは俺にもわからない」


「そっか、何か売りたいものがあるって、お金が必要なのかい?」


「ああ、俺は俺の夢を叶えるために世界を旅する、そのためにお金が必要なんだ」


 今の発言にも嘘が混ざっていたと思う、多分俺の夢ってところだ。

 それはきっとイーシス君の夢なんだろう。


 自分がイーシス君になってイーシス君の夢を叶えようとしているってところかな?


 アルター君がそう決めたのなら僕は応援してあげよう。


「それで売りたいものってなんだい?」


「これだ」


 そう言って、アルター君は地面に置いてある巨大な何かを指差した。

 随分と大きい、なんだろう、盾かな?でもこんな大きな盾、巨人族でも使えないだろうし、うーん?


「これは、何かな?」


「グランドドラゴンの爪だ」


 グランドドラゴンってなんだろう?それと、これが爪?確かに爪の形をしているような気がしなくもないけど、明らかに爪の大きさじゃない。

 でもアルター君が嘘を言っている様子はないし、うーん?


「ずいぶん大きいね、どこかに落ちてたの?」


「いや、俺が倒した」


「おお!確かまだ6歳でしょ?すごいね!」


 アルター君は嘘を言っている様子はない。

 つまり本当に倒したんだろう。

 なんの動物だろう?グランドドラゴン?

 うーん、あ、もぐらかな?もぐらって確か土竜って書くし、もぐらの種類にグランドドラゴンっていうのがいるのかも。

 そのもぐらのドロップアイテムかな?

 ずいぶん大きなもぐらだったんだなー。


 僕は爪を触ってみた。


「へー、すごい硬いね、それにかなり重たくて大きい、街まで持っていけるかな?」


「売れないのか?なら爪以外の他の部分でもいいけど、体から剥がすのに時間がかかるからな」


「いや、買い取るよ、ん?爪以外にもあるのかい?」


「ああ、全身残っているぞ」


「え?全身ってことは、HPを削って殺したわけじゃないのかい?」


「ああ、物理的に殺した、だから全身残ってる」


「すごいね!珍しい、そんな殺し方は極東の島の人くらいしかしないと思ってたよ」


「極東の人たちはしてるのか?」


「うん、何でもアダマンタイトの刀という武器を使って生物の首を飛ばすらしいよ、凄いよね」


「・・・へぇ、そうなんだ」


「おっと、話がずれたね、うーん」


 僕には物を見る目がないから、これが良いか悪いかは分からないけど、せっかくアルター君が頑張って倒した動物のドロップアイテムなんだ、それに旅をするならお金はたくさん必要だろう。


「よし、金貨50枚で買い取るよ」


「金貨50枚ってどれくらいなんだ?」


 ああ、村ではあまりお金は使わないだろうから分からないのか。


「うーん、僕の所持金全部ってところかな」


 僕は基本的にお金は全て持ち歩いている。行商の先で何かを買おうとした時、お金を街に置いて来ているとすぐに買えないからだ。


 そのことで娘にはよく叱られる。

 落としたり盗賊に奪われたらどうするの!

 リスクを分散しないと!

 お父さんは無駄遣いするんだからお金は置いていけばいいのよ!とか。


 ああ、帰ったら、また価値のないものに無駄にお金をつぎ込んで!とリリアに怒られそうだ。


 でも価値がないことはない。だってこのお金でアルター君が旅をするんだ。きっとアルター君の助けになってくれるだろう。

 だから決して無駄なんかじゃない。


「そんなにいいのか?」


「いいよ、それにこれは餞別でもあるんだ、頑張って夢を叶えてね」


「・・・ありがとう、ガーナックさん」


「うん、それにしてもこれどうやって運ぼうかな?荷車に乗せれればまだなんとか持って行けるかもしれないけど」


「俺が乗せとくよ」


「え?でも随分と重たいけど持ち運べる?」


「大丈夫、方法はあるから」


 アルター君が嘘をついている様子はない。

 多分何か方法があるんだろう。


「わかった、じゃあお願いするね、先に僕は荷車の荷物をできるだけ軽くするから、そのあとで荷車に乗せてほしいかな」


「ああ、わかった」

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