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第11話 旅立ち

 僕の目の前で、お兄ちゃんが死に続けている。

 何度も何度も何度も何度も。

 目の前でお兄ちゃんが食べられるところを僕は見続けた。


 僕は動かなかった、動けなかった。


 これは僕の罪だ。

 きっと僕に言ってるんだ、忘れるな、この日の罪を忘れるなって。


 絶対に忘れない、僕のせいでお兄ちゃんが死んだことを絶対に忘れない。


 お兄ちゃんは、死に続けた。






 僕は目が覚めた。

 窓から光が入り込んで来ている。どうやら朝のようだ。

 あれは夢だった。

 僕はお兄ちゃんが死に続ける夢を見た。


「・・・僕が悪いんだ、僕が悪いんだ」


 僕は何であの時動けなかったんだ。

 それが悔やんでも悔やみきれない。


「僕が悪いんだ、僕が悪いんだ」


 村の人はお兄ちゃんが悪いって言ってたけど、お兄ちゃんは何も悪くない、お兄ちゃんに悪いところなんてカケラも存在しないんだ。


「全部、僕が悪いんだ、僕がお兄ちゃんについて行ったから、僕がすぐに逃げなかったから、僕が震えているだけで何もしなかったから」


 だからお兄ちゃんはグランドドラゴンに食べられたんだ。僕のせいで、僕がいたから。


「お兄ちゃんが死んだのは、全部僕が悪いんだ」


 僕なんていなければ良かったのに、僕なんて生きてなければ、生まれて来なければ良かったのに。

 あそこで死んだのが、僕だったら良かったのに。

 でも、生き残ったのは僕だった。


「だから僕は、お兄ちゃんの夢を叶えるんだ、僕がお兄ちゃんになって叶えるんだ、僕は、いや、俺はイーシス・カイだ」


 僕はお兄ちゃんなんだ、お兄ちゃんに恥じない行動をしないと。僕の評判がお兄ちゃんの評判になる。僕の評価がお兄ちゃんの評価になる。


 僕の失敗はお兄ちゃんの失敗になる。僕の成功はお兄ちゃんの成功になる。


 それはとてつもない重責だ。

 きっと僕じゃお兄ちゃんのように全て完璧にうまく行くなんて出来ない。

 だから人一倍頑張って、お兄ちゃんを目指さないと。






 僕が村に戻って何週間か時間が過ぎて行った。


 この時間で僕はできるだけ魔法陣を書き溜めた。教会の紙が無くなるくらいまで。

 特に[アイテムボックス]はたくさん使うからたくさん書いた。


 そして村に来た商人のガーナックさんにグランドドラゴンの爪を売った。


 お金を持ってないと、村の外で生きるのは大変だってお兄ちゃんが言ってたから頑張って爪を剥がした。


 村では物々交換がほとんどで、商人のガーナックさんが来た時くらいしかお金は使われてないし、その時もお金はシスターが払ってくれるから僕にはほとんど馴染みがないけど、きっと村の外に行ったらお金が必要になってくるんだろう。


 死んだら脆くなるとはいえ、グランドドラゴンの爪をたった1枚剥がすのにかなり時間がかかった。


 グランドドラゴンはまだ生きているんじゃないかって思えるくらいに全身硬くて、普通に鉄のナイフじゃ歯が立たなかった。

 だからお兄ちゃんから聞いたテコの原理を使って時間をかけて何とか爪を1枚だけ剥がすことができた。


 爪以外はまだアイテムボックスの中だ。


 グランドドラゴンの爪はガーナックさんが金貨50枚で買ってくれた。金貨50枚っていうのがどれくらいか分からないけど、ガーナックさんの所持金全部って言ってたから多分たくさんだと思う。


 ガーナックさんは餞別だって言ってた。頑張って夢を叶えてねって。

 本当にガーナックさんには感謝しても仕切れない。

 多分グランドドラゴンの爪にはそれほど価値はなかったんだろう。


 だって重くて硬くて大きくて、あんなものどうやって使うんだろうってくらいだ。

 かなり使いづらいだろうからそんなに高く売れないはず。

 だけどガーナックさんは荷車の荷物をできるだけ少なくして買い取ってくれた。


 ガーナックさんの好意だろう、そのおかげで僕は旅の心配が少し減った。

 感謝しても仕切れない。

 いつか恩を返せる時にしっかり返そう。お兄ちゃんは恩知らずな人じゃないから。


 あと兎に言葉を教えた。まだ全然話せないけど、というより、まだピィしか言えないけど、なんて言ってるかわかるようになった。


 なんていうんだろう、声が二重に聞こえるみたいな感じだ。


 例えば、「ピィ!(おはよう!)」とか[ピィ?(分かんない)」とか、「ピィ(お腹すいた)」と聞こえるようになった。


 そのおかげで兎のステータスを隠すことができた。


 どうやったかというと、青兎に[リライト]の魔法陣スキルを使わせることができたんだ。


 魔法陣スキルは近くに魔法陣があることと、その魔法陣を発動することができるMPがあること、それに魔法陣の名前を言うことが出来れば誰だって発動できる。

 自分が書いた魔法陣じゃなくてもだ。


 だから僕が[リライト]の魔法陣を書いて、青兎に発動させた。


 青兎は実際にリライトといったわけじゃない。


「ピィィ(リライト)」


 と鳴いただけだ。だけど[リライト]は発動した。

 きっと青兎語でリライトって言ってるから発動したとかだと思う。


 称号の効果の意思疎通可能のおかげで、僕でも青兎に言葉を教えることができた。これはその成果かな?

 僕は青兎に[リライト]で書き換える内容の指示を出した。


 今の書き換え後の青兎のステータスを確認すると、


 名前


 種族 兎


 LV 10


 HP 2563/2563


 MP 459/459


 となっている。

 これはあくまでリライトで書き換えた内容だから、実際のHPやMP、種族とは関係ない。たとえダメージを受けて実際のHPが減っても、このステータス画面に変動はない。


 いずれそのせいで違和感を持たれるかも知れないけど、わざわざ手の内を見せびらかす必要なんてない。だからレベルを低く設定した。

 種族の妖精を兎に変えさせたのはなんとなくだ。


 これで準備は整った。今日僕は村を出て行く。


「シスター、今まで俺を育ててくれてありがとう」


「私は心配だよ、村に残るわけにはいかないのかい?」


「俺は夢を叶えに行くんだ、この村では夢を叶えられない、だから世界中を旅して夢を叶えるんだ」


「・・・アンタは簡単に騙されそうだから、本当に心配なのさ」


「大丈夫だよ、俺は騙されたりなんてしないさ」


「・・・イーシスなら心配しなくてもやっていけると思うんだけどね」


 シスターが小声で何かをつぶやいた。


「何?」


「何でもないさ、何かあったらいつでも帰って来ておいでよ、ここはアンタの家なんだから、後これを持って行きな」


そう言って、シスターは袋を渡して来た。

その袋を覗いてみると、金貨がぎっしり詰まっていた。


「いいのか?」


「私にはもうあまり使い道なんてないからね、頑張るんだよ!」


「ありがとう!じゃあ、行ってきます」


「ああ、行ってらっしゃい」


 俺は村に背を向け歩き出した。ここからお兄ちゃんの伝説がきっと始まるんだ、頑張ってお兄ちゃんの夢を叶えよう。






「どうかアルターを守ってあげておくれ」


「ピィ!」







 僕は青兎と供に村を出た。

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