第1話 グランドドラゴン
「俺は不死身だ!どーんなやつでもかかってこい!」
「お兄ちゃんはカッコいい!」
「そうだろう!今の俺なら、魔王ゴーゼリゲル・フロイグロー・リリー・アルタライドが来ても負けはしない!俺はいずれ世界最強になり人々を救い感謝され、俺だけのハーレムを作るんだ!」
「お兄ちゃんすごーい!」
「そうだろうそうだろう!俺は主人公だからな!」
「お兄ちゃん主人公ー!」
「この世界はゲームだ!それを知り尽くしている俺に不可能はない!」
「お兄ちゃんに不可能はなーい!」
「どんな魔物が来ても倒してやる!」
僕はお兄ちゃんと、近くの森に来ていた。
大人たちからは、まだ6歳でレベル1なんだから2人とも森に入っちゃダメって言われてたけど、お兄ちゃんがいくなら僕もついていく!
お兄ちゃんは称号のために、って言って1人で行きたがってたけど、魔物と戦う時は遠くに行ってるからと言って、僕は無理やり付いてきた。
今までお兄ちゃんと離れたことはなかったから。
それにお兄ちゃんはどんな奴にだって負けないだろうから、お兄ちゃんがかっこよく魔物を倒すところを近くで見たかったというのもあった。
この時の僕は知らなかった、魔物にあったことがなかった僕は、魔物っていうのがあんなにも怖いものだったなんて。
そして、僕は今日という日を一生後悔することになる。
森に入ってもう随分歩いた。
だけど今だに魔物が出てこない。
「お兄ちゃん、魔物出ないね?」
「ん?ああ、そうだな、おかしいな、もうとっくにエンカウントしていてもおかしくないのに、[ディテクション]うーん、擬態している魔物もなしか」
[ディテクション]とは、視界に捉えた生物の情報の一部を見ることができるスキルだ。このスキルにはスキルモーションも魔法陣もない。
僕とお兄ちゃんの見た目は髪の長さと眼以外は、ほとんど同じだ。
そして、僕の眼のスキル以外は、僕とお兄ちゃんは同じスキルを使えて、同じステータスで、同じ称号を持っている。
「あ、アルター、お前、[アミュレット]切ったか?」
「・・・あ、忘れてた、ごめんなさい」
[アミュレット]は、魔物の雑魚敵が寄ってこなくなる魔法陣系の魔法スキルだ。雑魚敵とは、ボスや中ボス以外の魔物のことをいうらしい。
何か魔物が本能で嫌がる奴が放たれているのか、ボスや中ボス以外が寄ってこない。
「たく、魔物を狩りに来てるのに、魔物が寄ってこないんじゃ意味ないだろ、すぐに切れよ」
「ごめんなさい」
失敗しちゃった。お兄ちゃんに怒られた。
「はーあ、今まで無駄足だったのかよ、こんなに歩いたのに、時間の無駄だぜ」
・・・ドシン、ドシン
僕が[アミュレット]を解除しようとした時、遠くから、音が聞こえて来た。
「?お兄ちゃん、なんか音がするよ?」
「あ?気のせいだろ、[アミュレット]はまだ解除してないんだろ?なら雑魚敵は寄ってこないよ」
ドシン、ドシン
その音はだんだん大きくなっていった。足音か何かだろうか?
「それに[生物感知・魔法]に何の反応もないんだ、気のせい気のせい、もし可能性があるとしたら、魔力が欠片もないボスか中ボス級の魔物だけだろ」
ドシン、ドシン!
「音大きくなってってるよ?」
「あ?大丈夫大丈夫、もしボスでもこんな最初の村の近くに出てくるボスなんだ、今の俺なら余裕余裕!」
ドシン!ドシン!!
「俺がチョチョイのチョイで倒して・・・やる・・・よ?」
でかい、すごくでかい魔物だった。
山のような体を持った、大きいドラゴンだった。
「グゥゥゥゥゥギガァァァァアアアアア!!!!」
その咆哮に、僕の体は恐怖に支配された。
体の力が抜け、恐怖で体が震え、ただ立っていることすら出来ず、尻餅をついた。
「な、なんだ、こいつ、嘘だろ、ありえない」
僕は怖くて声を出すこともできなかった。
そして、周りの声を聞く余裕も。
目の前には圧倒的な力の差がありそうな魔物がいる。
唯々、震えているしかできなかった。
ただ、なんだろう、僕の中の何かが、怖いと思うと同時に、喜んでもいた。
「ありえない、バグだ、なんかのバグに違いない、だって、だってこんなの」
そして、その魔物と目があった。
「あ、ああ、うわあぁぁぁぁあああ!!!!」
お兄ちゃんが大声を出しながら後ろに走って行った。
僕はお兄ちゃんの叫び声で我に帰った。
え?なんで、お兄ちゃん!
僕は声を出したかった、だけど恐怖で声が出なかった。
そして、体も動かなかった。ただ地面に尻餅をつき、震えているだけだった。
お兄ちゃんは、一心不乱に大声を出しながら、僕から離れて行った。
「グゥゥガァァアア!!!!!!」
目の前の強大な魔物は、僕を一瞥したあと、お兄ちゃんを追いかけて行った。
ダメ!ダメだよ、なんで逃げないの!?早く逃げてよ!
僕は悟った。僕がいるから、お兄ちゃんは、大声を出しながら僕から離れて行っているんだと。
魔物は僕を後でもいいとでも思ったのだろう。
魔物は見かけによらず俊敏で、すぐにお兄ちゃんに追いついた、そして、
お兄ちゃんが、噛みちぎられた。
上と下にお兄ちゃんが分かれ、下しか残らなかった。
「あ、ああ、・・・お、お兄、ちゃん?」
お兄ちゃんは、物言わぬ[物]になった。[生物]では、なくなってしまった。
それはつまり、お兄ちゃんは、
「お兄ちゃん、・・・あ、あああ、ああああああああああああああ!!!!!!」
そのとき、僕は激怒した。憤怒した。怒りで恐怖を忘れた。
あの魔物が、あの魔物が!アイツが!許さない許さない許さない!アイツを、許さない!必ず殺す!許さない、よくも!よくもお兄ちゃんを!許さない!ああ
ああああああ!!!!!!
・・・コロセ、コロセ、コロセ!
もしかしたら、お兄ちゃんならって、お兄ちゃんなら僕をって、思っていたのに!
許さない、許さない!
お兄ちゃんを食べた魔物は、次の獲物として僕を捉えた。さっきまで恐怖で動かなかった体が、怒りで動いた。
山のように大きい魔物が目の前にいる。
僕は、この魔物を、必ず
「殺す」