異世界で初めての獣退治 (2)
タケルは微笑んだ。
「だって、エルロイドさんの手に負えないのなら、僕が村まで戻って助けを呼んでくる時間、この熊を抑えておけないでしょう。」
エルロイドは冷や汗が流れる引きつった顔で、
「冷静な判断はできるようだな。しかし、ふたり殺されるよりはひとりのほうがましだろう。」と声を絞り出す。
熊は、その間にも慎重に歩を進めていた。彼我の距離はおおよそ30mぐらいか。
「弱そうな相手にも油断をしない。かなり頭が良さそうな獣ですね。ふたりの方がひとりよりは生き延びられる可能性が高くなるでしょう。」
「逃げないんだな。しかたがない、じゃあ二人で戦おう。しかし、俺の弓はあの鎧のような体を貫く威力はないぞ。」
「僕は小さいころから、体の大きな相手と戦う術を学んでいます。なんとか動きを止めてみますから、僕が合図したら熊の目を射抜いてください。」
「お、おう」
(力が強くて早そうだけど、熊の攻撃手段は比較的限られてくるな。突進して覆いかぶさるか、あの長大な前脚と爪を振り抜いてくるか、動きが止まった相手を噛み付くか。動きを止めるわけにはいかないな。)
四肢を踏みしめて前進する熊の頭の位置はタケルの顔よりも高い。(一丁試してみるか。)
10m程度まで近づいてきた熊へ、ダッシュする。ここまで体格差がある無難そうな相手に襲いかかられた経験のない熊は一瞬躊躇して、前脚で叩き潰そうと体を浮かせた。
棒高跳びの要領で、体を浮かせながら2mほどの高さにある熊の頭を渾身の力で回し蹴りで攻撃した。
小山ほどもある肩の筋肉に阻まれ、インパクトは完全に吸収され、熊の右腕はそのままタケルと棒を宙でなぎ倒そうと振り抜かれる。
タケルは、棒の反動を利用し、前転してぎりぎりで攻撃を躱す。着地と同時に二回ほど前転して、熊の攻撃範囲より斜め横に移動した。
地上では最強の肉食獣である熊は、このように相手に懐に入られるのもなれていないが、タケルの回し蹴りは蚊にかまれた程度にしか感じていないようだ。
(ううむ、やっぱり蹴りも打撃も通用しそうにないな。打撃がだめなら、バランスを崩せるか。)