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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕をそんな目で見てくれ

作者: 雅野キュウ

 死ねばいいと思った。だから、殺した。


 世間・一般常識……それらから見れば、到底許されることではない。


 俺の足元には既に息絶えた遺体が転がっていた。あれほど脇腹から溢れ出ていた血潮は、もう枯れている。そこに生命があった証拠だ。どくどくと広がっていたそれと同じ色をした足跡もまた、憎しみと言うにふさわしい。


 所詮人間は蛋白質の塊。それなのに人類というものは、あまりに自惚れ過ぎている。水風船のように、割れたときには体液も詰まっていた内臓も弾けてしまう。なんて醜い体……。自分も“そう”だなんて、考えただけで吐き気がする。この感情をなんて形容しよう? 死神? 処刑人? 否、否。


『……急ごう』


 俺はその肉塊を置いてその場を離れた。こんなものに付き合っている暇なんてない。

 自然と笑いが込み上げてくる。快挙だ、快挙。今のところ“成功”、そして目的は“完遂”。ああ楽しみで仕方ない。これから俺は生まれ変わるんだ!


 警察が来る気配もない。……ああ、ああ、何をしてるんだ日本のポリ公は。でもそれでいい、それがいい! せいぜい頑張って探してくれよ、俺はその先を行く!

 急ごうと思ったが、まだ時間はありそうだ。だったら……


『時間潰しでもするか』



 昔よく行ったゲームセンターへ足を運んでみた。最近よく聞く話題のポップス、メダルとメダルがぶつかる金属音、耳に刺さるくらい声を作った女の音声のあとにカメラのシャッター音。騒音で飽和されていたそこは、俺を迎えてはくれなかった。こんな場所でさえ不釣り合いなんだ、俺は。


 テレビのCMで嫌というほど名前を聞いた有名チェーン店に入る。ありがちな店で、ありがちなハンバーガーを注文する。――ああ、はい、店内でお召し上がりです。


 雑なのか丁寧なのかわからないが、ラッピングされたそれはほのかな温もりがあった。なんだ、まだ俺にはちゃんと触覚があるんだな。そうだよな、殺せても手ごたえがなきゃ意味がないよな。妙に納得しながら、テープを剥がす。どこにでもありそうなジャンクフードだ。噛みしめるごとに、体内が侵食されていくような感覚に陥った。汚染か、はたまた浄化か。いやいや、そんな訳。


 ……こいつが俺を構築するんだな。うんうん、俺によく似合っている。俺はこのジャンクフードだ、安っぽさを極めた不健康の象徴。――なんて。少なくとも、スイーツではないよなあ。


 大学生のとき、初めて自分用のPCを買うときにお世話になった電器屋に行った。ここも何かと騒がしい。テレビは全部同じチャンネル、同じ音量ボリューム。羽根のない扇風機には細長い紙が貼られ、ひらひらと空中を漂っていた。こいつの正式名称はなんなんだ。「ピロピロ」でいいかな、いいよね。

 エアコン、掃除機、食洗器……、全てが生活感に溢れている。“人間”の。


 ……ああ、なんだか悲しくなってきた。なんでこんなことになったんだろう、もう俺は“人間”じゃない。ただの、殺意にまみれた、異端なのか?

 なんで、なんで……



 ――――……俺は殺されたんだ?


 ああ、もう急ごう、奴のところへ向かってしまおう。サイレンは聞こえない。まだ俺を見つけていないんだ、死体になった俺を!


 奴に殺されたあと、束の間の浮遊感に包まれた。「ああ、これが成仏っていうのかな」って、ちょっとだけ思った。だが、違った。俺はまだ成仏はしていない。でなければ、今俺が幽霊になってる理由が説明つかねえ。


 奴はビジネスホテルにいた。窓から覗くと、小さなデスクと小さなベッド。そこには鋭利な刃物もあった。乾く前に拭き取ったのだろう、俺の血液を。

部屋の中へ入った。鍵なんて必要ない、ましてやドアから入る必要もない。……俺は幽霊なのだから。


 椅子に座る奴を確認した。まあ、そろそろ姿を見せてやってもいいだろう。楽しみだ、楽しみだなあ。


『……よお』


 

「…………………エ、?」


 恐ろしいものを見る目だ。白目が大きく、黒めが小さく。顔がどんどん青くなっていく。血の気が引いたんだろうな、ああ、唇まで。

 なんで、と言いたそうにこちらを見る。手が震えている。うんうん、そうだよな、それで正解だ。自分が殺したんだもんな!


 いい顔だ、本当にいい顔だ、もっと見せてくれよ。その後すぐ“こちら側”に迎え入れてやるから。それまで俺をじっと見て、怯えて、死んでくれ。そうそう…………


 ――そんな目で見てくれ。

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