未来の痕跡
『元首の殺害に成功した!同志達は速やかに回収ヘリの方に向かえ!』
「「「了解、ボス」」」
すでに後を付けてくる政府関係者はいなかった。
同志達以外周りにはおらず、俺達は回収地点に向かっていた。
「今日はAKS74Uの調子が良かったな。」
「自分でメンテしない癖に良く言うわ。丹念にチェックしてくれたシャラシャーシカに感謝しとけよ。」
頭上をハインドの爆音が通り過ぎ去っていった。
よく見ると兵装を使いきっているように見える。
「今日は空賊達も良くやってくれたんだな。」
「...分隊長の話を聞く限りでは、スホーイは未帰還が多かったんだと。その分、政府軍の航空勢力も削れたらしいがな。」
「......俺達は一丁前に国家転覆を狙ってんだ。多少の犠牲は仕方ない。」
俺達は国を捨てた。
いや、捨てられた、と言うべきかもしれない。
たった今中枢が麻痺した、この"国だったもの"の名前は[アリスタクラーチャ民主主義連邦]。
国名がロシア語で"貴族階級"を意味する通り、この連邦において最強の権力は貴族階級に集中していた。
民主主義とは名ばかりに、貴族と貴族に選ばれた国家元首が連邦の手綱を握っていた。
そんな連邦が帝国主義、膨張主義国家へと変貌するのはもはや必然だった。
周りの国々を侵略し、合併し、吸収する。
ほんの百何十年前の産業革命で、技術面にてリードした我々の先祖は、このような事を幾度となく繰り返した。
しかし、盛者必衰に例外は無く、10年前の戦争で合衆国に大敗した我々は土地を没収、連邦も分解させられ、いまだに連邦を名乗る国家は我々のみとなった。
すると政府は責任を軍の高級将校に押し付け、戦後裁判では自分たちの命令により軍を動かしたことをひた隠しにし、「高級将校が感情的になり、兵士を煽動し、戦争を引き起こした」という戯言を叫びだした。
テロ組織などの対応に追われていた合衆国は戦後裁判にあまり時間は割けず、官僚の進言を証拠とし、高級将校、国家元首、その他大勢の将校を処刑し、裁判を一方的に閉廷した。
我々多くの一般兵が慕っていた上官も多くが処刑された。
裁判が片付くと、政府は核兵器の開発、訓練を命じた。
我々は確信した。政府は根から腐りきっている。
飢えに喘ぐ人民の声を踏みにじり、軍備拡張を推し進める事に国家予算の大半をつぎ込むこの連邦に”未来”は無いと。
そして、この状況を打破するには人民の公平なる選挙によって選ばれた国家元首が必要なのだと。
それを引き起こすのは誰か?
いないのならば、俺がやる。
幸い前の戦争より軍、政府に忠誠を誓う素振りを見せていた俺の軍での立場は相当なモノとなり、以前より培っていた体力、戦争での功績が認められ、俺は特殊部隊を任されるまでになっていた。
軍でのパイプにも自信がある。
予想通り、いやそれ以上の陸上師団、旅団、飛行隊、艦隊の協力を得られた。
革命への協力の願いをし、受理した日の翌日という無茶苦茶な日程にさえ対応してくれた。
準備は整い、革命の序章は最高の結果に終わった。
今日、我々の理想への闘いが始まった。
気高き、誇り高き我々の未来の国の痕跡を、民衆に、政府に、他の国々に知らしめるのだ。
我々の名は〔未来の痕跡〕
続かない