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神魂の異常者  作者: サニア11世
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第1話 色欲と月

夜、誰もが寝静まった頃、あるボロボロな小屋の様な場所で笑みを浮かべる者がいた。

彼は見た目高校生だが、髪は薄暗い光に反射して綺麗な銀髪、しかし、それ以外は特に印象のない男の子だ。

彼は屈強な暴力団達相手にポーカーをしているが、誰もが彼には勝てなかった。

「3枚チェンジだ。」彼は巧みな話術、ポーカーフェイス、運、全てにおいて人並みを外れていた。

暴力団の男達は自分のカードを見て苦い顔をしている。

すると相手の男が一人すごい勢いでカードを出し。

「よし!エース3枚にキング2枚のフルハウスだ!」

勝った気満々と言った顔で彼をにらみつけた。

すると、暴力団のボスらしき人間が彼に歩み寄り。

「これで、終わりだ。お前のかけた物。覚えているな?」

「ふむ。君らも自分達のかけた物。覚えているよね?」

彼は不敵な笑みで暴力団のボスらしき人間にガンを切った。

「テメぇ。何を言ってやがる。」

暴力団の人間達は小馬鹿にした様に彼を見ている。

その時、彼の手は動いた。

「2のフォアカードだよ。」

暴力団の男たちは目を疑った。

「なんで!そんな。そんなはずは。っ!!」

暴力団のボスらしき人間は声をどもらせた。

彼は笑いながら「君ら僕に最弱の2を取らせたつもりかもしれないけど、そんな最弱も数が増えれば強くなる。チリも積もればなんとやらだよ。」

彼はそう言うと立ち上がりボロボロな小屋を後にした。

男達は全員膝をついてブルブルと震えている。

彼はクスクスと笑いながら。

「君らがかけたのは——君ら全員のだよ。」

その直後、先ほどまで居たボロボロな小屋から悲痛な叫び声がこだました。

「さてと、早く帰って寝なきゃな。明日の学校に遅れちゃうよ。」彼は闇の中に消えていった。


次の日。


彼は黒い学生服を着て学校へと向かっていた。

「昨日は面白かったなぁ。もう、ポーカーが恋しいよ。」

他人からすれば、独り言を言っている危ない高校生に見えるが、彼は自分自信と話していた。

いや、彼は自分自身と言うより心にいる女の子、ではあるが、人ではない者と話していた。

(昨日のポーカーは楽しかったけど、もう、あんな無茶ダメなのですよ。私の能力にも限界があるのですから。)

「確かに。君が居なかったら、きっと僕は勝てていなかったよ。いつもありがとね。」

(もう。私の名前はヨミですよ!ちゃんと名前で呼んでください!)

心の女の子は、少し照れた様な怒った様な口調だ。

「わかってるよ。ヨミ。いつもありがとう。」

彼の笑顔とストレートな言葉にヨミは少し喜んでいる様だった。

(はい!そう言って頂けると私も嬉しいのです!でも、昨日みたいな無茶もう2度とダメなのですからね!)

「もちろんだよ。」

ヨミは小声で。

(あなたの言葉と笑顔は神でさえも落とせるでしょうね。)

「ん?ヨミ?何か言った?」

ヨミは慌てて。

(な、何も言ってないのですよ!)

彼は不思議そうな顔をしていたが、「そっか。」と言った。

学校へ到着すると待っていたのは生徒指導の先生、剛力ごうりき先生だった。

「おい!お前まだ髪を染めてないのか!黒に染めろと言っただろ!何度言ったらわかるんだ!」

彼は頭髪検査に何度もひっかかっている。

「いやぁ。何度染めてもすぐ色が落ちちゃって。」

(そーなのです!大体、髪の色なんて別にどうでもいいのです!そんな事で人の価値がわかるのなら、お天道様(おてんとさま)なんていらないのです!)

ヨミは彼を弁論するが心の声であるヨミの声は先生には通じない。

「とにかく!明日までに黒に染めてくる事!行ってよし!」

そう言われると同時に彼は校舎内へ向かった。

「ヨミ。弁論はありがたいけど、君の声は誰にも聞こえないんだよ。」

(わかっています!でも、あなたが怒られるのが許せないのです!)

彼は苦笑いで、「そ、そっか。ありがとね。」と言い、クラスへと向かった。

その時、影から学生の女の子が彼を見ていた。

「彼があの......」

彼は自分のクラスへと着くと自分の席、窓側一番後ろの席へと座った。

前の席の男の子、京人けいとが後ろを向き話しかけてくる。

「なぁなぁ。知ってるか?あの生徒指導の剛力ごうりき。女子生徒に手を出したらしいぜ?」

「信じられないね。あの先生が生徒に手を出すなんて......」

(そんなの許せないのです!あいつ、生徒指導の身でありながら、しかも、そんな奴が髪の色で指導なんて。一変ぶち殺してやるのです!)

彼の言葉をさえぎりヨミは文句を言っている。

「女の子がそんな事言っちゃダメだよ?」

ヨミは彼の言葉に(シュン......)と口にして大人しくなった。

「おいおい。また、独り言か?変人だと思われちゃうぜ?」と京人けいとの呆れた表情と声に。

「ああ。ごめんごめん。なんでもないよ。」

と彼は苦笑いでにごした。

その時。

「ちょっと、いいかしら?」

その言葉の聞こえる方へ彼は目を向けると、そこには、とても綺麗な女の子が立っていた。

整った顔立ちで腕や足は細く、その黒髪はまるで漆黒しっこくの様にキラキラと輝き、そして、その高校生とは思えないほどの大きな胸、京人は呆気にとられていたが、彼はもはや、目が合わせられないほど顔を真っ赤にして、女の子から顔を背けた。

「ねぇ?あなたに話しかけているのだけれど?」

女の子の声に彼は目を背けたまま、「う、うん。えっと。何かな?」と、照れた様に言った。

「今日少し時間を作って欲しいのだけれど、いいかしら?場所は、保健室で、きっと放課後なら誰もいないから。」

女の子は、そう言うと、自分のクラスへと帰って行った。

ヨミは気に入らないといった感じであった。

(あいつ!何なのです!もちろん、行ったりしないのですよね?)

彼は少し悩んでいたが、ニコッと笑いながら。

「まぁ、大丈夫だよ。どうせ予定もない訳だし。」

(ありえないのです!そんな事は許されないのです!)とヨミは彼が行くのを止めていた。

すると、彼は「大丈夫、大丈夫。ヨミの言いたいことはわかっているよ。あの女の子、何かあるね。」と何かを悟った様にニコニコと笑っていた。

ヨミは(むー......)とふてくされていた。


放課後。


彼は、先生に頼み事をされていたため一度理科室へより担当の先生にクラス全員分の宿題を渡した。

「ありがとう。あなたはこう言う時に頼りになるわ。遅くなってごめんなさい。早めに下校しなさい。」と先生に言われ。

「はい。では、失礼します!」

と言って帰るフリをして先生の目を盗んでアルコールランプとアルコールランプを着火する時に使うマッチをくすね取り、朝女の子と約束した通り保健室へ向かった。

保健室に着き、「よし、まだあの子は来てないな。」と言うと彼はコソコソと何かをし始めた。

数分後に女の子が保健室に入って来た。

「お待たせ。ごめんね。呼び出しちゃって。」

女の子の言葉に彼は終始照れた様に目を背けていた。

「いや、全然大丈夫だよ。で、僕に何か用なのかな?」

女の子は、身体をクネクネとさせながら、彼の肩に手を置き、誘惑の視線を送った。

「あなたに、興味があるの。ここで一線を超えてみない?ちょうど、保健室でベッドもある事だし。」

彼は、先ほどまでとはうって変わった様に、冷静な顔で、女の子を見つめる。

「ああ。いいよ。ベットに行こうか?」

女の子はニヤッとして、彼をベットへ押し倒した。

「あ。一つ聞いて置きたいんだけど、君の名前はなんていうのかな?」

彼の言葉に女の子は一度止まり、「ミクよ。」と名乗った途端、保健室の中に紫色の霧が立ち込めた。

女の子は笑いながら彼を見つめている。

「ごめんなさいねぇ。私達は人間から生気をもらわなきゃここじゃ生きていけないのよ。安心して。別に死ぬ訳じゃないわ。ただ、私の駒になるだけ。あの、生徒指導の先生みたいに。」

「へー。やっぱり、あの剛力ごうりき先生の件、君が関係してたんだね。死ぬ訳じゃないんだね。うん。安心した。」

彼はそう言うとミクを突き飛ばした。

「クッ。ちょっと、女の子に暴力は酷いんじゃない?」

その時、ミクの身体が変形し始めた。

背中からは黒いコウモリの様な羽、手には長い爪、頭からはツノが生えて来た。

「あれ?ツノと爪と羽だけ?身体は変えなくていいの?ミク......いや。堕天使だてんしさん。」

この状況に彼は全く恐れていない様だった。

それはまるで昨日のポーカー勝負の様に。

「あら。貴方こそいいの?そのままの姿じゃ私とは戦えないわよ?ねぇ?神の生まれ変わりさん。」

ミクは彼を完全に舐めていた。

「君は、堕天使だてんしアスモデウスだね。色欲の神で人間から生気を奪い生きる。これじゃ、蚊と何ら変わりないね。それから、僕は神の生まれ変わりじゃないよ。」

冷静そのものの彼の辞書には、負けの文字がない、とでも言った様な顔をしている。

「ハハッ。そう。よくわかったわね。大したものよ。でも、関係ないわ。もう、あなたは殺すことにしたわ。あなたは危険すぎる。」

ミクは少し焦っていた。

「やって、みなよ。どうせ、当たらないさ。」

彼は、両手を広げてミクを見つめた。

ミクは、プチッと何かが切れた様にその、伸びきった爪で彼の腹に一撃食らわせた。

「グハッ。」

彼は腹に大きな穴が開き、血が吹き出て崩れ落ちる様に膝から倒れ込んだ。

「ハハハハハッ!話にならないわ!何が、当たらないよ!一撃で死んだじゃない!」

彼は、腹から血を出し死んでいた。

「じゃあ、死んで間もないうちに残った生気でも、頂こうかしら。」

すると、紫の霧に混ざり白い霧が立ち込めている事にミクは気づいた。

「ん?なによこれ......グアァァッ!体が痛いっ!痛い痛い痛いっ!!」

ミクは、急に体を手で押さえながら痛がり、膝をついた。

ミクの身体は皮膚が灰の様に床へと落ち、床へ落ちたと同時にそれは、石へと変わっていった。

その時だ。

「それは、手製の香炉だよ。確か君は、これに弱かったよね。早く逃げないと......死んじゃうよ?」

それは、彼の声だった。

「痛い痛い痛いっ!!あ、あなたっ!!なぜ、生きているのよ!!香炉なんてどこにっ!!っ!!」

ミクは、ベットの下にある手製の香炉に気づいた。

「こ、これはっ!」

彼は、不敵な笑みを浮かべながら、ミクに近ずいて行き。

「さっき、理科室によってアルコールランプとマッチを拝借して来たんだよ。あとは保健室にある植物と薬品を使ってね。これ以上は企業秘密だよ。」

「クソッ!私は確かにあなたの腹に穴を開けたはずなのにっ!」

ミクはそう言いながら彼の腹を見たが、彼の腹は無傷だった。

「ああ。これか。僕は君の攻撃なんて当たってないし、僕自身あの場から全く動かなかったよ。ヨミのお陰でね。」

「ヨミ?!それって!あなた......まさか——」

「君にも堕天使だてんしの能力があるんでしょ?僕にもあるんだよ。神の能力。いや、正しく言えば、僕の中にいるヨミの能力かな。」

と、彼は、真剣な目でミクの言葉をさえぎった。

ミクは大きく口を開け額から頬へ汗が流れた。

明らかに焦っている様だ。

「わかったみたいだね。そう、ヨミは日本神話に出てくる。月読命つくよみのみことだよ。」

ミクは彼の言葉が終わると同時に立ち上がり、右手を振りかざした。

「私は、あなたを殺さなくちゃいけないのよ。最低でも、あなたの能力でも知って帰らないと他の連中に殺されるわ。死んでもらうわよ。」

そうは言ったが、ミクの身体はかなり香炉に蝕まれていて、この場に残れるのも時間の問題であった。

「僕の能力?ああ。ヨミの能力の事か。」

そう彼が言った時にはミクの振りかざした手を振り下ろし、カマイタチが彼を襲った。

そのカマイタチは彼を上半身と下半身にスパッと切り分け部屋を彼の血が飛沫の様に吹き出て部屋血で染め上げた。

下へと落ちた上半身と下半身は未だ血が出てきている。

「今度こそしっかり当たった。でも、さっきのあれは——」

ミクの後ろからまた、彼の声が聞こえる。

「ヨミの能力は、対象を狂わす能力だよ。君は、今、視覚、味覚、触覚、嗅覚、聴覚、ありとあらゆる感覚が僕の手の中で狂わせられる。つまり、君は、狂って全く違う方向へと攻撃して、面白かったよ。この能力があれば麻雀やポーカー、なんなら、本の内容や相手の能力まで狂わせれるんだよ。驚いた?」

彼は、ミクの後ろの椅子に座っていた。

ミクを見ながら彼はニヤッと笑う。

「それより、ミク。君もう限界なんじゃない?」

「何を言っているの?っ!?」

ミクは倒れ込んだ。

無残なほどにミクの身体の半分近くの皮膚が床へ落ちて石へと変わりミクの身体には穴の抜けた壁の様にボコボコだ。

「ほらね、早く行きなよ。」

ミクは悔しそうな顔をしながら、保健室の窓をぶち割りその漆黒しっこくの羽を広げ飛んで逃げて行った。

(なんで、殺さなかったのです?)

ヨミは彼に問いかけたが、彼は何も言わなかった。




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