6話 読者の皆様に愛を込めてネタバレを…【湊視点】
話が進んでるのか進んでないのかいまいちだったので、散々悩んでこの形に。満足いただけないかもですが許して下さい。
湊の秘密を特に重視しておらず引っ張りたくないので、今回は遊び心を込めて書いてます。
声をかけられた広瀬さんの可愛らしいお顔が、絶賛引き攣っております。
うん、分かりますよ。音羽って無駄に目力あるから…。あの目で見つめられると…そうなりますよね。
「えっ…えっと。彼、右手を怪我してるの。実は私が驚いて突…」
「ひ、ひ、広瀬さん!!」
彼女がとんでもない事を、正確には事実を話そうとしただけなのだが、僕は慌てて言葉を被せる。
この子…何言い出してるんですか。僕がつい先ほどついた嘘を全力で否定してきましたよ。
知ってますか?正直者は救われない世の中なんですよ。
広瀬さん…現実を正しく理解してください。そうじゃないと僕の頭痛が激しくなる一方です。
あ、音羽が訝しげな顔をしている。
さて、どうしたものかな…。
この後、払うであろう代償を考えると頭が痛いが、広瀬さんを危険に晒すわけにはいかない。
あっ!?今こいつ何言ってるんだって思われましたよね!?
でも、これ冗談でもなんでもないんです。
実は、僕の妹…僕が言うのもアレですけど、少しだけ変わってるんです。
お恥ずかしいのですが、ブラコンの気があると言いますか…
いや、妹だけじゃないな。残念ながら母親も変わってました。
自分で言っててちょっぴり泣けてきました。
このままという訳にもいかないし、目立つ事も出来れば避けたい。
広瀬さんを巻き込むのも嫌なので、ここは一つ僕がこの場をうまく納めてみせますかね…。
そうと決まれば早速行動開始。
まずは、音羽と話しをしよう。演技するのもしんどいので、広瀬さんからまずは離れる事にする。
「お、音羽。ちゃ、ちゃんと説明したいから、す、少しだけい、移動しよ」
こちらの意図を理解して、音羽がしぶしぶ首を縦に振る。
「ひ、広瀬さん。ぼ、僕、さ、さ、先に帰るから、吉野せ、先生に言って、おいてくれるとた、助かります。よ、宜しくお願いします」
何か言おうとする、彼女をその場に置き去りにして、僕と音羽は移動を開始する。
広瀬さんと距離が離れたのを確認して、立ち止まる。
「さて、もう十分だな。音羽悪ぃ。実は不注意で怪我しちまった」
淡々と事実だけを伝える。
え!?何ですか!?
おい、普通に話してるって?
雰囲気も違う?
そりゃそうですよ。僕だって…普通に話すぐらい出来ますよ。
あー、右手の痛みが酷くなってる様です。
この話し方も疲れたし、痛くて余裕がなくなってきてるので、皆様に対しても少しだけ昔の僕に戻ります。
気分悪くしないでくださいね。
あと幻滅しないでくださいよ!?先に釘さしましたからね、約束は必ず守ってください。
男と男の約束…ん?女もいるって?
しかも、約束する前から既に戻ってたですか…。
細かい事を言うのって人として良くないと思いますよ?
では、気を取り直して…
「湊、あなた…約束覚えてるわよね?事と次第によってはお母さんに言うわよ」
音羽の声のトーンが明らかに下がっている。まぁ、機嫌が悪そうなのは分かってたから仕方ないか。
思わず苦笑が漏れる。
「とりあえず、お袋に話すのは無しで頼む。あの人の事だから、おそらくすっ飛んでくるだろうし、強制帰還とかにでもなったら洒落にならん」
「で、でも私だって、家族に隠し事をするのは嫌よ」
音羽が予想通りの言葉を返してくる。
こいつは家族大好き、しかも変に融通が利かない性格だからな。
そんな所が家族として誇らしいと思う反面、自分に不利益な事態(正に今の状況)となるとかなり面倒だとも思う。
ん!?なぜ母親に言われると面倒かって?
あー、まだ言ってなかったな。簡単に説明するな。
気づいてたかは知らないが、俺は一人暮らしをしている。その理由はおいおい分かると思うので今は省く。
大事なのはここから。
家を出る際に家族と約束をした。
お袋との約束は、『怪我や病気には気をつける』
自己管理が出来ていないと判断されたら実家に帰るか、それともお袋がこっちに来て一緒に生活するかのどちらかになる。
一人暮らしにもようやく慣れてきたのに、その様な事態は避けたいと思うのは当然だろ?
親父は、結構まともな性格をしている。約束事もまともで『他人様に迷惑をかけない』
ただ、親父に最近言われていることがある。
俺がいなくなって、親父はお袋と音羽と結構仲良くやってるらしい。
なので俺が問題を起こして実家に戻ってきても歓迎はしない。
お袋との約束を破って、お袋が俺と一緒に住む様な事態になったら、その時はどうなるか分かってるか?
だそうだ。
あれ?今気づいたけど、脅しかけられてないか俺?
親父もまともじゃないのかもしれない…
最後に音羽との約束は、『昔の俺を人に見せない』
これがおそらく1番簡単だろうと思う。
この街に住み始めて1年が経った。
自分で言うのもなんだが、結構上手くやれてると思うし、前みたい事はごめんだ。言われなくても見せる気はない。
さて、話を戻そう。音羽をまずはやり込める為に、一撃必中の決め台詞を放とう。
「音羽の飯が久々に食いたい。今日泊まってくか?無理にとは言わないが実家じゃなければこうして2人の時間取れたりするんだよな。今日も、そしてこれからも…。ま、音羽が黙っててくれたらの話だけどな」
どうだ?その顔は、結構揺れてるだろ?よし、もらっ…
「まぁ、私も湊の意見は尊重したいけど、流石にそれは無理よ」
ぐっ…。敵はなかなかの強敵らしい。
この次を出さざるを得ないとは…。
「明日休みだろ?一緒に出かけようとも思ってたが。そっか…音羽帰…」
「待って、明日買い物でもいいの?本当につきあってくれるの?」
「ああ…もちろんだ。音羽が黙っててくれるならだけどな」
「え?黙るってなんのこと?湊なんかあったの?やった、久々の湊とデートだ…」
最後の方が聞き取れなかったが、おそらくロクでもない事を考えているのだろうな。
そして、見なかったことにするらしい。音羽よ…お前の家族愛はそれでいいのか…
助かった事を喜ぶべきなのか?それとも現金な妹に何か言うべきなのだろうか?
病院行きたいので、考えるのはやめよう。
「じゃ、俺は少し寄るところがあるから先に帰って飯の用意頼むわ」
「分かった。それじゃまた後でね」
ご機嫌な様子で足早に去っていく音羽を見送り、急いで病院に向かう事にした。
もしも、杏のせいで湊が怪我した事がバレたら、この場面は修羅場となってました。
湊を傷つけた人に対して、音羽は容赦ありません。
という設定のお話です。