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5話 怪我をするよりツライ事って〜【杏視点】

後ろ歩きで迫る男の子に気づいた時にはもうぶつかる寸前だった。

これはさすがに避けられないな…と諦めムードで衝撃に備える。

ところが、そんな私の腕が力強くひっぱられる。


バフッと筋肉質な硬い胸に当たる。

察するに私は男の子の腕の中にすっぽり収まったのだろう…。誰かが助けてくれた様だ。


『心臓が止まるかと思った…』


そんな大げさな表現を使う人を、私は好ましく思わない。

だけど、本当に心臓が止まるかと思ったんだ…。



男の子から抱き寄せられた事なんて今まで一度だってなかった。

こんな間近で男の子の体に触れたのは初めてだ。



どうしてこんな事になったのだろう?思考が追いついてこない。

ドキドキが治らないまま、助けてくれた男の子にお礼を言おうと、恐る恐る顔をあげる。


げっ…なんでコイツに抱きしめられてるの!?


私を助けてくれたのは、なんとクラスメートの鷹野だった。


私はコイツの事が嫌いだ。周りはコイツの容姿からして受けつけないと言っているが、全く気にならないと言えば嘘になるけど、私はそこについてはあんまり気にしていない。


問題は、コイツの態度。オドオドしていて会話しても、すぐにドモる。

何に怯えているのか知らないけど、せめてもう少しぐらいは行動と言動に気を配れとか思う。


私の見た目は、一般的に可愛いと言われる部類に入るのだという自覚はある。

だけど私は、『弱いです、守ってください』オーラを出す感じの女の子なんかではない。

『けっこう男前な性格』とは優希の言葉である。


そんな私からしたら、コイツがとにかく気に入らない、本音を飾らずに言うのであれば、近くにいるだけで不愉快極まりない。


そんなはずだった。


でも、なぜか今は不快感よりも気恥ずかしさが上回っている。

顔から火が出る程恥ずかしい…これも私が嫌いな大げさな言い回しだけど、今の私を表すのにこれ以上の表現はないと思う。


この状況に耐えきれず、思わず彼を突き飛ばしてしまう。

彼は抵抗なくそのまま後ろに尻餅をつく。


「痛っ」


そう発した直後、一瞬顔を歪める彼を見て私は取り返しのつかない事をしてしまったと後悔する事になる。




彼が右手を確認すると、割れた瓶の破片が手のひらに刺さっている。

一箇所とかではなく、至る所から血が出ているのが見て取れる。


どうしよう…私のせいだ。


自分のしてしまった事の重大さに血の気が引いてくる。

助けてくれた彼に、私はなんて事をしてしまったのだろう。


そんな事をかんがえているうちに、怪我していない方の手をついて彼は立ち上がろうとしている。


声かけないと…。立ち上がる手伝いぐらいしないと…よね。謝らないといけないし。


「ちょっとあんた大丈夫なの!?」


彼に近づこうと歩みを進める。だけどその歩みは突如聞こえてきた声に止められてしまう。


そう!? もう、遅いじゃない。そんなところでなに尻餅ついて遊んでるのよ…掃除はまだかかりそうなの?」


耳に心地よい声が私の後ろから届く。

その声の主を確認しようと振り返り、思わず私は息を飲む。


なに…あの美人…。その人の容姿は、少し明るめの艶々した茶色の綺麗な髪、小さな顔に大きな目。

出るところは出て、スラッと伸びた手と足。

まさに『職業モデルです』と言った感じの女の子。


同性の私ですら見惚れてしまう程だ。

男の子が見たら、思わず声をかけてしまったりするんだろうな…。

とても大人びた容姿の彼女を、私が女の子と思ったのも彼女が制服を着ていたからだ。

私服ならば、彼女が学生とはおそらく分からないだろう。


「ちょっとそう!? 私の話聞いてるの!? 掃除は終わったの!? 終わってないの!?」


そんな彼女がまた言葉を発する。

彼女はどうやら彼に話しかけているみたいだ。


あの2人は知り合いなのだろうか?

月とスッポンって…今まさに目の前の光景のことを言うのだと思う。

今日は私の嫌いな、大げさな言い回しがつい口をついてしまう日のようだ。


彼は勢いよく立ち上がり、そしてあろうことか怪我した手をポケットに入れ…た。


「ちょっとあんた大丈夫なの!?」


私はびっくりして、彼に声をかけながらも再び歩みを進める。


「だ、だ、大丈夫です。す、砂に、あ、あ、足を取られて、尻餅をつ、ついただけ…です」


いやいや、尻餅をついたのは私が押したからで、大丈夫もなにも怪我してるじゃない。

心配する私を余所に、彼は美人さんと会話を始める。


盗み聞きをするつもりはなかったが、2人のやりとりが聞こえてくる。

戻る?お土産?一体何の話しているのだろう…。


その光景を見て、なんだかイラッしたのは、無視されたからだろうか?

それとも2人が親しく話しているのを見たからだろうか?


あ、待った待った。今は余計な事を考えている場合なんかじゃない。

彼は怪我をしているのだ。美人さんもどこかに行くようだから話を戻さないと。


「あんた、右手ひどい怪我なのになにしてんの?ポケットから出してすぐに綺麗に洗わないとでしょ!? 先生にも言って病院で診てもらわないと」


私が話しかけた途端、彼の顔が引き攣る。

あれ?私なんかおかしな事言ったかな?


そんな事を考えていた私に後ろから声がかかる。



「ねえ!? そこのあなた…。今なんて仰られました!?」



振り返るとそこには先程の美人さん。

こ、声…こわっ。さっきの雰囲気となんか違うんですけど!?

微笑んでいるのだけど、なんだか怖いです。


〜杏視点終わり〜

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