3話 校外美化活動開始します【湊視点】
放課後、予定通り郊外美化活動の場所に移動する。
妹への連絡もしっかり済ませたので、心置きなく掃除して、さっさと帰ろうと湊は気合いを入れる。
周りを見回すと、広瀬さんが他のクラスの女子達と楽しげに話している光景が飛び込んでくる。
それにひきかえ、僕は安定の1人であることは言うまでもない。
「皆さん。本日は忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。終了時間は進み具合にもよりますが、1時間後ぐらいを予定してますので、張り切ってお掃除しちゃいましょう」
今回の活動の責任者である吉野先生から活動開始が告げられる。
本日の校外美化活動の場所は、近くの海岸。
皆、数人のグループをつくり方々に散って行く。
夏まではまだ少し時間があるが、こうして定期的に掃除をするのが習慣化している。
僕が住むこの街の海は、夏になれば遠方から多くの人が海水浴に来るほど人気のスポットだ。
シーズンオフの時からこまめに掃除して、夏を迎えるという一連の流れがずっと続いているらしい。
掃除をするのは主に地域の中学、高校の生徒というのがこの地域の伝統になっている…らしい。
「それにしても結構ゴミがあるな。これ、一時間で終わるのだろうか?」
予想以上に多いゴミについ独り言が漏れてしまう。
周りを見ると、悪ふざけをしてる人、真面目に掃除に取り組んでる人と様々だ。
少し離れた所で広瀬さんが掃除をしている姿を発見し、少しだけ見つめる。
特に理由があったわけではないのだが、友達と談笑しながら掃除をする彼女につい目がいってしまったのだ。
そんな僕の視線を感じたのか、彼女がこちらを向き僕と目が合う。
先ほどまで笑っていた彼女の顔が、あからさまに不機嫌になりこちらを睨んできた。
その視線から逃れる様に急いで掃除を再開する。
「はあ、余計な事を考えずに掃除に集中しよう」
暫くの間、掃除に集中していたら遠くから吉野先生の声が聞こえてきた。
スマホで時間を確認すると、開始から既に一時間以上が経過していた。
急いで集合場所に戻らないとな。どうやら知らず知らずのうちに遠くまで移動していたらしい。
僕が皆を待たせるのはまずい。そんな事になれば、広瀬さんにまた何か言われるかもしれない。
僕は急ぎ足で集合場所に向かう。
その道中、ふざけあってる男子二人組が目に入る。
そのうちの1人が後ろ歩きしているのだが、結構なスピードが出ていて、しかもその進行方向の先には何のイタズラか広瀬さん達がいる。
このまま行けば間違えなく広瀬さんとぶつかるだろうな。
もう1人の男子が警告してくれるだろうから問題ないだろうと考えていたが、タイミング悪くその男子は靴紐を結び直し始めた。
神様は、僕に試練を与えるのが大好きな様だ。そんな愛情は要りませんよ神様…
そうこうしている間にも、男子と彼女との距離は縮まる一方である。
「はぁ、またどうせ文句言われるんだろうな」
愚痴りながらも行動に移す。目指すは彼女の場所。柄にもなく全力で走る。
彼女の友達が、男子に気づき声を上げる。その声に男子が反応するが、車は急に止まれないという言葉がある様に、男子も急には止まれない。
あ、僕って今…結構うまいこと言ったんじゃないだろうか。
男子が彼女にぶつかる寸前、僕は彼女を引き寄せる。予想通り間に合った。彼女が先ほどまでいた場所を男子が通過して行く。
しかしですよ?よし、成功…とはならないのがこの世の中というものなんです。
どうやら少しだけ勢いよく、引き寄せてしまった様です。
というのも彼女は今、僕の腕の中にしっかりと収まっているのですから。
突然の事に呆気にとられていた彼女が、次第に置かれている状況を理解していく様を間近で見ています。
呆気に取られた顔が、少しずつ真っ赤に染まり…タコの様に真っ赤になった頃、何故か涙目になりながらこちらを睨んでくる彼女。
ご存知だろうか?善意は必ずしも報われないって事を。
え?そんな事は知ってる?
あ、うん。よくある話ですよね…
彼女は僕を突き飛ばす。この展開は…うん。予想してましたよ。とほほ。
でもね、この後の展開は予想してなかったです。
突き飛ばされて、尻餅をつくまでは予想通り。
でもね?その手をついた所に割れたビンがあるなんて思いつきますか?
そんなベタな展開…あるんだから本当にままならない世の中です。