1話 校外美化活動とか面倒以外の何物でもありません【杏視点】
《一般的に運命の出会いなんて、そんな都合よく落ちていないと思われがちである。
しかしながら都合よく落ちていたりするのだから運命とは、かくも面白い…》
「そうしたら本日の校外美化活動の当番は鷹野と広瀬に決まりだ。お前ら放課後寄り道なんかせずに、まっすぐ向かえよ。くれぐれも別のクラスの生徒に、なにより吉野先生に迷惑かけるんじゃないぞ」
担任の松永の威圧的な物言いにイラっとしながらも、私は思わず溜息を漏らす。
周りから同情の眼差しを向けられている様な気がするが、これは私の勘違いという事はないのだろう。
「なんで私が…」
最後まで言葉を発する事はなんとか抑えられたが、それでもつい漏れてしまう不満の声。
だけど、私は悪くなんてない。美化活動なんて行事、誰だって面倒だと思うだろうし、何よりペアの相手が悪い。
松永が教室から出て行ったのを境に、教室が騒がしくなる。
そんな中、親友の優希が私の方に向かってくるのが目に入る。
「杏ちゃん、ついてなかったね〜」
間延びした声が私の名前を呼ぶ。私の名前は広瀬杏。優希は私を『きょうちゃん』と呼ぶ。あんちゃんだと、『兄ちゃん』を連想してしまい、なんだか響きが可愛くないと言うのが優希の持論であるのだけど、なんとも失礼な話だと思う。
「まーね。美化活動とか正直面倒。それよりも『アイツ』と一緒とかどんな罰ゲーム?私の日々の行いはそこまで悪かったでしょうか?って神様に聞きたくなるよ」
「杏ちゃんもこれに懲りて心を入れ替える様にね♪なんちって〜」
優希が人の不幸をケラケラと笑いながら茶化してくる事に多少なりともイラっとするけど、この後の憂鬱な時間の事を考えると食ってかかる気にもならない。
先程飲み込んだ本音も、呆気なくはっきりとした形で漏れてしまった。
このやりきれない気持ちは何処にぶつけたらいいのだろう…?
そんな事を考えていると、視線を感じた。その方向を見れば、件の『アイツ』がオドオドしながらこちらを見ていた。
「そ、そ、そ、その。も、も、もし良かったらぼ、ぼ、僕1人でやるので、ひ、ひ、広瀬さんは参加しないでも、だ、だ、大丈夫です」
どもりながらそんな事を言ってくるのは『アイツ』こと鷹野だ。
「流石に理由なく不参加って訳にはいかないでしょ?一応私も行くわよ。でもね?あんた気安く私に話しかけないでくれない?掃除の時間も私には近づかないでね」
硬質な声が、杏の機嫌の悪さを表現している。
この鷹野という生徒は見た目がお世辞にもいいとは言えない。
牛乳瓶の底の様なレンズの眼鏡。いつの時代の人間だ?とつい口から出てしまいそうになる。
髪はクセ毛で整えておらず、あらぬ方向に向いており、前髪は特徴的な眼鏡にかかっていて、そのせいで表情がわかりにくい。まー前髪云々というより、牛乳瓶の底の様なレンズでどのみちわかりにくいとも言えるのだけど。
そして何よりこのオドオドした態度と話し方が人を不快にさせる1番の要因なんだけどね。
《この時の杏は知らない。クラスの嫌われ者、冴えない容姿の鷹野を、自分が追いかけまわす事になるなんて…》