魔王! 陰口を叩かれる!
食卓では風呂上がりとおぼしき炎帝が半裸の肉体から蒸気を発していた。
「飯がまずくなるぞ炎帝」
雷帝が周囲の意見を代弁する。
「新しい戦い方を思いついて、早速イメージトレーニングをしているのだ」
「ほう、脳筋の炎帝が戦い方を考えるとは珍しい」
氷帝は馬鹿にするようにフッと笑った。
「うるせえ! オレは突然思いついたのだ! 防御に特化した戦いの型を!」
「というわけで四天王の皆様、陛下はしばらくあちらの町に逗留されるようです」
召使いがそっと告げた。
「オレは強い奴と戦いたいんだよ!」
「いや、待て。おれは言いたいことがある」
炎帝を無視した雷帝がハンバーグを頬張りながら言う。
「いくら陛下とはいえ、大した力も見せず遊び呆けているばかり。あんな奴におれ達は従っていてもいいのか」
雷帝は首から上だけを左右に動かして同意を求める。
「そうですよ! ワタシはもう疲れましたよ!」
風帝の姿は昨日よりも一回り縮んでいる。
「まあお待ち下さい。皆さん、最近お気づきの事はありませんか?」
一方でフォローに回ったのは氷帝だった。
「何も変化は無いぞ」
腕を上下に謎の運動をしながら炎帝が答える。
「いえ、炎帝は新しい戦い方をよく思いつくようですし、召使いの料理も明らかに上達しています。私自身も今までよりも様々なアイデアが沸いています。雷帝や風帝もそうではないですか?」
「なるほど、おれにも思い当たる節はある」
「ワタシは船になりました!」
「つまり陛下は、周囲の者の力を引き出すタイプの能力を持っているのではないでしょうか?」
氷帝は立ち上がると食卓の周りを歩き始めた。
「ということは、歴代魔王がそうであったように、陛下もまた特別な能力を持っていると言えます」
やがて食事を続ける一同に背を向けた状態になると、足を止めて天井に目を向ける。
「陛下が部屋に籠もられる時、いつも強大な魔力が渦巻いている気配を感じます」
振り返って両手を広げる。
「その陛下があの町に目を付けた、これは何かの策略があっての事と考えられます。最初に内政を我々に任せて頂いた事もその一環でしょう」
「あれは遊んでるように見えるけどなー!」
最大の被害者である風帝は素直な気持ちを述べる。
「あの入れ込みようです。あの町が我々にとって重要拠点である事は間違いないでしょう」
「本当かな! 召使いはどう思う!?」
「私から意見をすることは差し出がましいことですが、陛下はあの町を大切に思っておられるようですよ」
「やはり重視していると考えて間違いはないようですね。町への逗留も何かの布石でしょう。我々のために尽力頂いているに違いありません」
「おれ達も何か手助けをしたいところだな」
雷帝は含みを持った笑みを浮かべた。
「オレは強い奴と出会えるなら、それでいい」
炎帝は何も考えていなかった。
「陛下の期待に応え、魔王国のためになることを考えましょう」
氷帝の言葉により、魔王への不信任決議は取り下げられることとなった。
皆が食事を終えて仕事に戻る一方で、氷帝のハンバーグはすっかり冷めていた。
「そろそろ食べ頃ですね」
氷帝は猫舌だった。