魔王! 異世界に転移する!
眼を開けると薄暗い広間だった。
「ここは……?」
ぼくは何故か豪華な椅子に座っていて、目の前には四人の、まるで彫像のようなマッチョな男達がひざまずいていた。
男達はその顔を伏せたまま「おお……」「ついに」などと囁いている。
いや、そもそもぼくは公園でちょっと居眠りしていただけのはずだ。それには訳があって、思い出そうとしている内に、彫像のうちの一人が立ち上がると――そいつは金剛力士像にソックリだった――こう言った。
「お待ちしておりました、魔王陛下」
ぼくは混乱した。
そしてぼくはホテルのような間取りの一室へと案内された。
広間でうろたえるぼくの様子を察したのか、ロン毛にマントを羽織った彫像が、
「陛下はお疲れのようだ」
などと言って召使いを呼び、この部屋に案内させたのだ。
鳥の頭のような仮面を被った小柄な召使いは、ぼくを部屋に案内すると、
「ご用がありましたらお申し付け下さい」
と言い、去っていった。その声や背格好からすると少年のようだ。さっきの四人のような恐ろしい魔物達が跋扈する魔王城では、ああして異様な仮面でも付けないとナメられてしまうに違いない。あるいは、彼もまた恐ろしい魔物で、その本性を隠すための仮面であるのかもしれない。
そんなことはどうでもいい。まず、現状を整理しよう。
ぼくは公園で仕事をサボッていた。その理由を思い出すと、怒鳴り散らす上司の姿が浮かんだ。試用期間は優しかったのに……。それに軽蔑したような両親の眼。たかが大学受験に失敗しただけじゃないか。恩着せがましく親戚の会社を紹介され、このざまだ。なんだかイライラしてきた。ああ、思い出すのも嫌だ。
とにかく、そんなぼくが一体どうして魔王呼ばわりされたのか。
改めて自分の身なりを確認するが、外回りのスーツのままだし、気取って買ったアンダーリムの眼鏡も変わらず掛けている。カバンもそのまま。どこにもおかしなところは無い。おかしいとすれば周囲の方だ。
この部屋だってベッドに机と、設備はホテルの一室のようだが、壁はレンガ造りで、いかにも城って感じがする。
さっきの四人のマッチョは何者だろうか。趣味のコスプレ? 何かのイベントか?
それならせめて、四人の美少女に囲まれるイベントの方が良かった。
ぼくはベッドに腰かけると、カバンからノートパソコンを取り出した。起動すると、さいわいネットワークにはつながるようで、いくつかのサイトを見ることができた。
しかし、別のいくつかのサイトは文字化けしていたり、または開くことすらできなかった。念のため、秘蔵のエロサイトリンク集も開いてみたが、ことごとくブロックされてしまった。
「陛下!」
突然ドアを叩かれたので、開けると例のロン毛マントが深刻な表情に焦りを浮かべていた。
「今、恐ろしいほどの魔力の波動を感じましたが、これは一体!?」
「余計なお世話だよ」
ドアを閉めようとすると、
「陛下、お食事の準備が出来ております。落ち着きましたら是非お越しを」
と言い残して恭しく礼をした。ぼくはドアを閉めた。
なにが魔力だ。あいつら、ぼくの通信を監視してやがったな。
その後、秘蔵のエロサイト達はゴミ箱へと消えた。