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つけたし記憶装置

作者: 鯣 肴

 20世紀後半に現れ、21世紀初頭に大いに広まった記憶媒体。その名をUSBメモリーという。ある程度の容量のデータを記録するものである。ただし、パソコンなどの電子デバイス用に。つまり、そこでしか読み書きできない、デジタルのデータでしかない。


 しかし、22世紀。それに魅惑されたマッドサイエンティストが、大量の人死にを出しつつも、それをとんでもないものへと変貌させてしまった。


 そのサイエンティストの名は、(消されていて読めない)。






変遷


+USB(生物記憶増設)


 これまでのUSBメモリーの差し込み端子部分。それを生体のどこかに触れさせる。どこでもいい。すると。その部分の生体組織の構成が変化する。USB端子の差込口の形に。そこに差す。すると、増設されるのだ。脳に並ぶ、記憶装置が。


 暗記すべき情報を記録して、増設。これが最も一般的な使い方。人間専用。それ以外の生物にも差し込めるが、そうすると、暴走してUSBそのものが自壊する。






 しかし、それだけではない。このマッドサイエンティストは、まだまだ可能性を追求していたのだ。USBの可能性を。






+USB rev2.0(生体動作記憶増設)


 暗記などの記憶だけにとどまらず、動作の記憶。それを可能にした。それを差し込まれたら、その記録に沿った動きを行うことができる。例えば、日本刀の達人が竹を一刀両断する動き。通常数十年の鍛錬が必要なこの名人芸をなんと、差し込むだけでマスターでき、その理論まで理解できるのだ。最も、その動きに必要な筋肉は自前で用意しないといけないが。


 当然、手を持たない、犬などに差し込んでも、全く効果はない。同種族かつ、その動きを行うための部位と筋肉量を持たなければ使えないが。そして、動きはあくまで反射的なものであり、使おうとしたら発動する。その速度の調整や、力の強弱のつけ方は、一切自分で出力調整できない。


 だから、その動きの理論をしっかり頭に入れて(もしくは、記憶としてUSBに記録して)、それから鍛錬しないといけない。


 工場での、熟練工の動きを記録して、大量の人員での複雑な物品の自動生産によく使われる。






 いよいよ、このマッドサイエンティストが名を残した原因となる、脅威の改良がここで出てくる。大量の生物の屍に囲まれた中、彼はそれを完成させ、狂気を含んだ笑いを上げたそうだ。






+USB rev3.0(全種生体間感覚相互理解増設)


 あらゆる生物の言語を一元化し、翻訳。人間の言語として入出力できるようにしたもの。マッドサイエンティストが日本人で、日本語愛が強かったため、日本語フォーマットである。そのシステム構造はもはやブラックボックスと化しており、英語フォーマットにプログラミングしようともムリだった。この発明を期に、世界共用語は日本語になった。


 全ての生物間の、日本語でのコミュニケーションが可能となり、世界が大きく改革された。USBの差込口の形成できる大きさの生物全てが人間と同じように、知的生命体となったのだから。






 彼がここで辞めていれば、マッドなんていう不名誉な称号は付かなかっただろう。彼は、更なる可能性をUSBに求めていた。そして、これまでの流れから自身の理論に大きな自信を持っていた彼は、とんでもない暴挙に出た。そんなものが世に出てしまえば、世界がどうなるか賢い彼なら分かっただろうに。






+USB rev3.1(心中完全表現増設)


 あらゆる生物の心の内を日本語で入出力する機能。マッドサイエンティストがひっそりとUSB3.0からUSB3.1への自動強制アップデート機能を紛れさせ、実現させたもの。


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 破られており、ここから下は読めない。こんな装置が過去にあったなんて、きっと世紀の大発見になるだろう。この紙の裏側に、+USB、+USB rev2.0、+USB3.0(アップデート無効個体)がセロハンテープで貼り付けられていたんだから。


「さて、持って帰って、発表するぞ!」


 私は大きく背伸びをし、そこから立ち去ろうとする。今は23世紀。人間は一度大きく衰退した、22世紀に。その原因となる資料がこの遺跡から見つかったのだ。旧い本に書いてあった、22世紀の人間の住宅の集合。それがこの遺跡だったのだ。


 誰にも言わず、私は一人で数ヶ月に渡り、この遺跡の一軒一軒を調査していた。100年の前の建造物がこれだけ綺麗に残っているなんて、今の技術水準では考えられない。古文書によると、今の技術水準は、16世紀のヨーロッパと同程度らしい。


 埃と蜘蛛の巣が張っただけで、保存状態が一際良かったその家から出ようとして、扉へと私は向かった。


ぐぃ~、ザッ!


 その不穏な音とともに、突然視界が斜めに。足は止まり、右斜めに傾いていく。そして、私の世界が回る。


ごろんごろん、どさっ。


 地面に横たわった視界。何か、昆虫の足のようなものが見える。大きさからしてそうではないことが分かるが、そう喩えるしかない、緑色の、三本指の鍵爪足。急激な眠気が襲ってきて、それに抗えず、目を閉じていく。


「ったく。見ぬ振りしてそのまま出ていけば見逃してやったのだが。」


ずしゃっ、ずしゃっ、ずしゃっ、……。


 その人ならざる声の主は、遠ざかっていく。奇妙な足音とともに、私は意識を落とした。

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