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第一章





私はごく普通の女子高校生だと思う。私をここまで育ててくれた両親がいて、学校でできた親友がいて...。特にすごいアクションもない、そんな日常。別に嫌なわけじゃない、死にたいと自殺願望を抱いているわけでもない。ただ、『ツマラナイ』。親友と話したり、バカしたりという一瞬一瞬は楽しい。だけど何か違うのだ。私は......























朝の学校は少し寒い。秋になってからは気温が少し下がった。当たり前だけど。昼は暖かいのに、忙しい。


「ねえ君、少しいいかな」


朝一番の私以外誰もいない教室。学校の中で少ない私だけの、私独りの至福の時間。だったのが誰かによって邪魔された。

「なんですか」と振り向くと見たことのない美男子がいた。息を少しつまらせる。男の子はそんな藍を無視して答えた。


「職員室ってどこにあるか教えてくれないか」


明らかに日本人じゃない彼は流暢リュウチョウな日本語だった。金と茶色の混じった髪の毛が太陽に反射して光っている。そして漆黒の瞳にはジッと見つめている私が映っていた。


「あっ、えーと、職員室は隣の中棟の三階だよ。ちなみにここは北棟の三階。あの渡り廊下を渡れば右にあるよ」


廊下に出て渡り廊下を指さす。少し説明が分かりにくかったかもしれない。だけど美男子君は頷くと私にありがとうと言って渡り廊下を渡っていった。

一体あの美男子君は誰だったんだろう。少し、職員室まで連れて行かなかったことに後悔しながらまた自分の席に戻る。






「おはよう藍」

「あ、おはよう鈴」

「窓の外なんか見てなに黄昏てたの?好きな人でもできた?」


ニヤニヤして聞いてくる鈴はよく見てるなあ。でも、私が窓の外を見るのはいつものこと。


「そんなんじゃないって。何か美男子君に声かけられて」

「美男子?」

「そう、明らかに外人だった」


そういうと鈴は呆れた顔をした。


「それって、転校生じゃない。今日、イギリスからウチの学校に、しかもウチのクラスに来るって先生が言ってたでしょ。アンタ...聞いてなかったのね」


全く聞いて覚えがない。うん、聞いてなかったみたいだ。


「窓の外ばっかり見て何が楽しんだか。ウチには分からん」

「だってさー」

「はいはい。黄昏るのはいいけどしっかり先生の話聞いてないとだめだぞ!」

「分かってるよ...」


こりゃダメだと鈴が更に呆れる。分かってるけど、ツマラナイ先生の話は何かしたくなるのは当たり前だと思う。空を見て妄想にフケる方が何倍も楽しい。もし今、教室が爆発したらどうしよう、どうやって逃げようとかよく妄想する。


「それで、その転校生に何て声かけられたの」

「期待するよなことは何もなかったよ。職員室がどこか聞かれただけ」

「ふーん。なるほどね」

「正直、言葉で説明するんじゃなくて連れて行けばよかった」


つまりはもう少し一緒に話してみたかったということだ。


「めずらしいね。面倒事が大嫌いな藍ちゃんが」

「あ、おはよう夕。そうかな、めずらしい?」


ぞろぞろと人が教室に入って来ていた。夕も今来たみたいだ。夕は肩の長さまである髪を束ねている。


「ウチも夕が言った通りめずらしいと思った」

「ほら」

「うーん。ならそうなのかも」


人から見て、しかも親友がそういうならそうなのかもしれない。それに、私自身、重度の面倒嫌いなのは分かっていたし...。


「藍が興味を持った転校生は高確率で藍の後ろに座るだろうね」

「え?本当?」


私の席は窓側の一番後ろ。お気に入りの場所。


「だって、そういうのってもう決まり事みたいなものでしょ」


そういうものだろうか。


「でもまぁ、たとえ後ろの席でも何となく関わればいいかな」

「そこは藍ちゃんらしいかも」



そんなことを話していると担任の先生が入ってきた。あの美男子君は廊下にいるみたいだ。



「ほら、席について。今日は前から言っていた転校生が来てるぞ。ライアン、入って来て自己紹介をしてくれ」


先生の声でドアが開いた。朝の美男子君だ。周りの女子が息をのんでいるのが聞こえる。男子も何人か息をのんでいた。それくらいイケメンだということだ。美男子君はゆっくり口を開いた。


「イギリスから来ました。ライアン・マサイアシスです。よろしくお願いします」


ライアンは黒板に綺麗な筆記体で『Ryan Mathiasis』と書いた。その間に先生が机と椅子を藍の後ろに持ってくる。


「ライアンの席はここだ。出雲、ライアンのために学校案内とかよろしくな」

「は?」

「なんだ?ライアンはココのことを知らない。頼むぞ」

「分かりました...」


そういう事は前もって言ってほしかった。

ライアンは荷物を持って席まで行くと座った。無駄のない動きだ。


「えと、私は出雲いづもあいよろしく」

「朝は礼を言うよ。ありがとう」

「ちゃんと職員室にいけたみたいでよかった」

「おかげさまで。...よろしく」

「うん、よろしく」


やっぱり、人を惹きつける心地の良い声だ。そして少し落ち着く声。

だけど私は気になっている違和感があった。それは何かわからないけど、決定的な何かこう...。いや、本当に何かわからないけれど。



「今日は先生たちの研修で二時間授業だけど、そのあと学校案内っていうのでいいかな?」

「ああ、かまわないよ」

「じゃあ、放課後案内する」


学校案内って正直することないと思うけど、まあいいか。


「ということで皆、ライアンと仲良くするように!以上!」


起立、礼して朝のホームルームが終わった。




「ねえねえ!」

「ライアンくん!」」



先生が教室から出ていった瞬間、クラスの女子男子がライアンの周りに群がる。転校生の宿命である質問攻めの刑に巻き込まれないように遠くから見ている鈴と夕のもとにそっと避難する私。


「あの顔だと、そらああなるわな」

「本当にイケメンだね、あの子」

「でしょ、すごく美男子だよね」


声をとってもいいし。


「どうなの藍、やっぱり後ろの席になって嬉しい?」

「しかも藍ちゃん、先生に学校案内を任せられてたよね」


そんなにニヤニヤしなくてもわかってるクセに。



「正直に答えればいいんでしょ。後ろの席になったのは少し残念。私、一番後ろの席が好きだから。学校案内については前もって言ってほしかった。じゃないとどこを最初に回ろうとか考えれたのに」

「つまり?」

「...面倒くさい」



興味はあるにはあるけど、早く家に帰ってゴロゴロしようと思ったのに何て言えない。


「あー...やっぱり。ちょっと期待してたんだけどね」


期待なんてするほどのものでもないと思う。


「だって基本男子に興味をもたない藍ちゃんがもったもんね」

「そうそう!」


全てに無関心みたいなその言い方には悪意を感じるのは気のせいなのか...。


「私は恋に恋したいオトシゴロなの!」


ふーんと2人の目が何となく光っていた。恋愛なんてよく分かんないし、この人が好き、この人のためなら...なんて今まで無かった。だから、仕方ないと...思いたい。


「そう言えば一時間目の授業ってなんだっけ?」

「一時間目は体育だよ。マット運動」


体育...。私が結構好きな教科!しかもマットときたら特に!



残り5分となって皆動き始めた。私達も更衣室に着替えに行く。遅刻しないように、少し急いで。
























放課後になった。今日、半日美男子君を少し見てたけど色々と凄かった。イケメンでルックスもいいなんて、羨ましい。一時間目の体育なんか、『選手になれるんじゃね?』というくらい綺麗にバク転とかしてたし。バク転とか種目にいれているウチの学校はオカシイのかと思ってたけどこういう子のためにあるのかと思うと妙に納得してしまった。二時間目の古典は先生が美男子君に難しい問題を聞かせていた。あれは完璧に嫌がらせだったと思う。だけど美男子君はあの流暢な日本語で単調にスラスラと解いた。その時の先生の顔は今までで一番滑稽な顔で、日頃からその先生が嫌いな私は、ザマアミロと心の中で毒づいた。


「そろそろ学校見て回る?」


少しずつライアンの周りの女子男子がいなくなったのを見計らって声をかける。


「ああそうだね」


周りの子が私を見てたけど気にしない。美男子君のせいで私の自由の時間が奪われているっていうことをほかの子にも分かって欲しいくらいをひそかにイラだっている。


「ごめん」


突然謝られた。私の思考でも分かったのかな。いや、顔に出ていただけだろう。


「何が?」


あえて何も分かってない風に装って問い返す。


「遅れて」

「別にいいよ。というか分かってるなら早くまわろ!」



私は美男子君に同情してるからそんなに怒ってない。あんなに人が群がるとね...。


「そうだね」





まずはどこから行こうか。最後は私のお気に入りの場所、屋上に行くつもりではあるけど。













  







 

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