剣とペンの学園
ナチは困っていた。学園生活が始まり3ヶ月が過ぎた頃、彼はようやく気がついた。ここは普通の学園ではない。
彼が思い描いていた、男女睦まじいハッピーライフとは無縁の世界だったのだ。
ーーここは剣とペンの学園。全ての喜劇はここから始まる。
第一話 剣の学園
俺が小さかった頃の話をしよう。
子供の頃、誰もが勇者や魔王に憧れる。だけどそれは別段不思議な事じゃない。誰だって強さに憧れるし、自分は特別だと思うもんだろう。
小さかった頃の俺も例には漏れず、やれ勇者だの魔王だの、ごっこ遊びに興じていたもんだ。こうやって本を読んでるとあの頃の記憶が鮮明に浮き出てくる。
俺は自分こそが勇者であり、世界を救うのだと信じて疑わなかった。
パラリとページをめくり、近くに置いてあるカップに手を延ばす。半分程まで減った林檎茶からは、今も変わらず湯気が立ち上り、先程カップに茶を注いでから、さほど時間が経過していないことを示していた。
一口だけ茶を口に含んだ俺は、現在進行形で読み進めている書物に目を落とす。その瞬間、眼前に此処とは異なる異世界が広がる。
本は自由だ。
この本に登場する日本という国では、あらゆるモノが自由に職を選べるらしい。
だが、知ってのとおり、こんな事は現実にはあり得ない。
人の職は生まれながらにして決まっているからだ。
俺の職は筆記士。
こういった故記の翻訳作業から、契約書の作成、連絡文書の作成、会議の議事録など、その作業範囲は幅広い。
今だ学園生の身分でしかない俺に、こういった仕事が任されるのも、筆記士自体珍しく、必要な文書の数よりも遥かに人の数が不足しているからだろう。