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異なる世界への扉

「まもなく◇番線に電車がまいります。危ないですので黄色い線の内側まで下がってお待ちください。 まもなく◇番線に・・・・・・・・」


駅のアナウンスの声が響く。

続いてドアの入り口付近を示すテープの囲いに人が群がりだした。

通勤ラッシュの時間帯。

どこのホームを見ても同じような光景が映し出されている。


 ガタンガタン・・ゴトン!・・プシューーー


ドアが開くと同時に降りる人と乗り込む人が混ざり合う。

ホームへと乗降する階段も人口密度が高まり、ある一定の群れが作り出される。

プラットホームに降りる人、駅の改札口に向かう人、朝の通勤ラッシュだけあってざわめきと足音が絶えず駅内に響きわたる。


その階段を一人の少年がゆっくりと降りていた。

年は17歳くらいだろうか、紺のブレザーの上にコートをおおい鞄を手にしている。

髪は淡い茶色であり、駅に差し込む太陽の光によって一層色濃く照らされている。

端正な顔立ちをしているがまだどこか幼い。


しかし、どこか彼のまとっている雰囲気はおかしく感じられる。

暗い・・妖しい・・・そのような単語が似合うような雰囲気を周りに感じさせる。

それは生まれつきなのか、それとも自分で意識してそのような雰囲気を醸し出しているのか。


 トゥルルルルルル♪ 


「◇番線、ドアが閉まります。ご注意ください」


アナウンスが流れ始めた瞬間、階段から駆け下りてきた中年の男性が急いで電車に駆け込んだ。

ぎっしりと詰められたドアの付近の人達を中に無理矢理押し込むようにして。

駅員がドアが閉まるように身体を背にして押し込もうとしている。

数秒後、ドアが少しきしんだ音をたてながらしまり始めた。


(何であんなに頑張ってるんだろう?)


階段を降りながら、ぼそっと、まるで自分自身に言い聞かせるように霧生一弥は呟いた。


電車がホームから離れていく音が響きわたる。

先程の電車にほとんどの人が吸い込まれたのか、ホームにはちらちらと数人の姿しか見えなくなっていた。

電光掲示板に次の到着電車の情報が表示される、と同時にアナウンスが流れた。


「◇番線の次の電車は、8時35分、8時35分となります。整列乗車をしてお待ち下さい。」


(5分後。また、いつもの通り遅刻。間に合うよう行くつもりもないけれど。)


ため息をつく。


(僕も先程の会社員と同じなんだろうな。遅刻までして学校に行く必要があるのかな?)


彼の口に少し悲しげな笑みが広がる。


学校に行って学ぶこと・・彼は、それが何なのかいまだにわからずにいる。

いや・・わからずにいる、というより、目を背けていると言った方が正しい。


学生の本分・・すなわち、学業。

社会に必要な知識を学ぶこと。

知識だけでなく、複数の人との接し方、関わり方を学ぶ場所。

学校という囲まれた箱庭の中で行う、社会で生きるために必要な教育。


しかし、それは別の意味で密室された子供達の欲の吐けだし場所ともなる。


彼はその、異なる在りように嫌気をさしていた。

ましてや、彼はその欲の吐けだされる場所の中心にいるのだ。


性格、容姿、どれも普通であるが、周りに纏う雰囲気・・・これが周囲に嫌悪を抱かせるらしい。


(生まれつきだから仕方ないんだけどなあ・・)


自虐気味に呟く。

彼は別に、いじめを苦としているわけではなかった。

ただ、ほとほと人間の在りようにあきれてはいるが。


ふと気づくと、電車の到着を示す蛍光ランプが黄色く光り、アナウンスが流れていた。

線路が軽く振動し、電車の音が響きわたる。

ホームにはいつの間にか人が群がりだしており、彼のいる乗車口にも数人の人が並んでいた。

すると、


「君! ここは整列している場所だよ?後ろに並びなさい!」


すぐ後ろから注意する声が聞こえてきた。

彼は無表情に後ろを振り返る。

それは彼に対してかけられた言葉ではなく、どうやらすぐ後ろにいた若い男性にかけられた言葉だった。

声をかけられた、髪を金髪に染めた20代位の若者とちらっと目が合う。


「・・・・」


若者は声をかけてきた40代くらいの男性に対して軽く顔を向けた。

だが、何を言うでもなく、持っていた携帯に目を落とす。


「聞いているのか!?」


中年の男性がさらに声を張り上げる。

若者はうっとうしそうに顔を向け言葉を発した。


「整列している場所だから何?

わめいているのはおっさんだけだし、そもそもあんたには迷惑かけてないでしょ?」


確かに割り込まれた人達は、迷惑そうな顔をしているが文句を言っていない。

否、文句を言うことによるいざこざを忌避するために何も言えないでいる。


「みんな言えないだけだ。割り込まれて迷惑に思わない人がいるわけないだろう。君が同じ行為をされたらどう思うかね?」

「うるさいなぁ。俺は空いている場所に並んだだけだよ。同じ行為も何も人に割り込みされる油断をしている方が悪いんじゃない?」

「なっ・・・」


(割り込まれた前後の人が何も言わないんだし放っておけばいいのに)


今日は最前列に並んでいるから意識していないが、おそらく、自分の前後に誰かが割りこんだとしても何も言えないだろう。

わざわざ、波風を立てる必要はないし、並びの順番程度に目くじら立てたくない。

注意をしている人は正論だが、周りもおそらく自分と同じ考えなのだろう。

声を張り上げた当初は誰もが目を向けたが、今はほとんどの人が関わりたくないのか目を背けている。


電車がだんだんと近づいてきていた。


キィッ!


軽い金属音がこすれるような音が響く。

駅に止まるためのブレーキ音。

だが、まだスピードが衰える事はない。

後数秒もすればこのホームに電車が止まるだろう。

 

後方で言い合っている言葉がだんだんと乱暴になっている。

最初から乱暴ではあったが、今では若者が中年の男性の胸ぐらをつかんでいた。


電車のブレーキ音と彼達の声が反響する。

電車がすぐそこまできていた。


「ざけんじゃねえ!!」


若者が怒声と共に右腕を振り上げた。


ドガッ!!


音と共に中年の男性が殴られる。


「・・え?」


彼は無意識に声を発していた。

それもそのはず彼の身体は線路の上空に投げ出されていた。


目の前には驚愕の表情をした電車の運転手と・・勢いなくさず近づいてくる電車がまるでスローモーションのように感じる。


キィン!


突然、金属が重なり合ったような澄んだきしんだ音が響いた。

直接頭の中に入り込んでくるような音。


「な・・・何だ!?」

「キャアア!!」


線路を見つめていた人々が鳴り響いた音の衝撃を受け、頭を抱え込みうずくまる。


ただ、1人、線路に投げ出された少年だけを除いて。


刻が止まったかのように、全ての人、物がその活動を停止する。


少年を中心にして、まばゆい光が発せられた。

そしてそれは数秒の後、収束し、少年の周囲のみを包む光に変わりはじめる。


「こ・・これは・・・?」


少年の意識だけが浮遊する。

だが、身体は動かない。


「何が・・何が起こったんだ・・?」


やがて、彼の姿は、発せられた光の収束と共に消えていった。

彼の意識を飲み込んだまま。


少年が消えた後、刻が活動を開始しはじめる。


うずくまっていた人々は、電車が停止するのを確認し乗り込みはじめた。

殴られた中年の男性も起きあがり、電車の中にかき消える。


人々の脳裏には、すでに、線路に投げ出された少年の記憶は存在していなかった・・。


◇◇◇◆◆◆◆◆◆◇◇◇


涼しい風が住宅街の通りを吹き抜ける。

秋の季節を感じさせる紅葉が、太陽の光に照らされ美しく眩しくうつる。

空は澄み渡り、先日の豪雨は何一つ感じさせない。

道路にはその面影を残すかのように水たまりが点々と所々にたまっていた。


バシャ!


水たまりの一つを一台の自転車が爽快に走り抜けてゆく。

そのたびに雨水が辺りに飛び散った。


「時間がないーーーっ!!」


1人の少女が時計を気にしながら自転車を一生懸命先に進ませている。

飛び散った雨水を全く気にしていない、いや、気づいていないのだろう。

ソックスに雨水の痕跡を示す淡い染みが広がる。


少女は駅に向かっていた。

時計の秒針が刻むコチコチという音が耳に響く。


この少女、名を 永見鏡花という。歳は16,7歳といったところか。

童顔のためもあり、もう少し幼く見えなくもない。

背は低く、長めの髪を後ろで束ねている。


「鏡花ーー!」


駐輪所に自転車を止め駅に向かう鏡花を呼ぶ声が聞こえ、振り向いた。


駆け足で近づいてくる。

こちらは、背は鏡花より少し高く髪はショートカット。

カラーコンタクトを入れているのか、うすい青色の瞳が陽光に反射し煌めいている。


彼女の名前は 如月遙香。

鏡花の幼なじみでもあり、クラスメイトである。


「遙香!?」

「おはよ」

「おはよ・・でも、珍しいわね? 遙香がこんな時間にここにいるなんて」

「ちょっと寝坊しちゃってさー・・って和やかに話してる場合じゃないわね。急ぐわよ」

「あ、ちょっと待ってよ」


急いで駅に向かい歩を進める二人。

だが、時計は8時30分を回ろうとしていた。


「あーー・・・間に合わなかった・・」

「これで完全に遅刻ね・・」


改札口に辿り着く前に、電車の発車を告げるアナウンスが流れた。

改札口に人が群がりだしたため、鏡花と遙香はホームに降りる。

次の電車の到着時刻は、5分後。このたった5分の差が遅刻の明暗をわけるのだからおかしな話しだ。


二人の通う学校はそれほど遠くない。

電車で10分もすればその学校の最寄り駅に到着する。

だが、問題はそれからであり、校長の配慮ミスか、はたまた、予算が足りないのか、どちらが問題なのかはわからないが駅から学校までを運行するスクールバス、これが20分に一本しか走っていない。

しかも、学校は坂の上にあるため、歩いて向かうとすると軽く40分はかかってしまう。


一番の原因はやっぱり地元が田舎であることかなー・・と、鏡花は思う。


「今日だけでいいからバス、遅れてこないかしら・・」

「そうなったら嬉しいけどねー・・」


内心、絶対にあり得ないことを話しながらもそう思わずにはいられない。

ホームに並び、たわいもない話しが進む。

やがて、蛍光ランプが黄色く光り電車が近づいてきている事を示し出す。


(助けて・・僕を助けて・・)


「・・何?」


突然、不思議な声が鏡花の耳に響いた。

かすれていて、それでいてなんとなく人間らしさを思わせないどこか機械的な言葉。


「どうしたの?」

「今さ、何か声が聞こえなかった?」

「声? 別に何も聞こえなかったけど?」

「あれ? 私の勘違いかな?」

「大丈夫?疲れてるんじゃないの?」


笑いながら返事を返す遙香。


「そうかもしれないわね。昨日、ちょっと夜更かししたからなあ」


(僕はここにいる。僕はここに・・)


「!? また、聞こえた! え? ・・僕は・・ここに・・?・・・どうゆうこと?」

「? 大丈夫?鏡花?」


鏡花は頭を抱えて周囲に目を配る。


聞こえる・・というより、頭の方で響くような感じ・・何だろう?

耳を塞いでも聞こえてくる声。

でも、何故か恐怖は感じない。


(・・貴女とは・・違・・)


だんだんとか細く小さくなっていく。聞こえづらい。


「違う・・・? どういう事?」


ふと顔をあげる。


その時、1人の少年が線路に投げ出される光景が視界に入った。

その状況に誰もが気づき、誰ともなく悲鳴や騒ぐ声が響く。


「危ない!!」

「鏡花! 何してるのよ!? 危ない!!」


遙香の言葉が背に響く。

鏡花は自分でも気づかぬうちに少年と同じように線路に身を投げ出していた。


遙香の差し出した手が宙を舞う。


キイン!


そして、金属が重なり合ったような澄んだきしんだ音が辺りに響く。


「何で・・私・・?」


鏡花は、線路に飛び込んでいた。

鏡花自身が意識してしたことではない。


そう、何かに、吸い込まれたような・・。


ふと、目の前の少年の身体がみるみる淡い光に包まれていく光景が映る。

鏡花自身も余波により全身に光を帯びているのだが気づいてはいない。

周りを見渡すと、人も物も全てが刻の運動を止めたのごとく静止していることに気づく。


「遙香・・遙香は!?」


鏡花の心配をよそに、辺りが眩しく煌めき鏡花と少年を包んだ光が収束し消えはじめた。

そして光の消失とともに、二人の姿が消えうせる。


数秒後、刻が活動を開始する。

人々は電車が停止するのを確認し、乗り込みはじめた。


そんな中、遙香は目の前に起こった惨状を理解できず呆然としていた。

鏡花とある少年が光に包まれ消えてしまった光景を反芻しながら。


◇◇◇◆◆◆◆◆◆◇◇◇


あるビルの屋上。

二人の少年と少女がそこに佇んでいる。


「イレギュラーがあったな」

「ええ。でも、対して影響はないのでは?」

「それもそうだな」


影響をなすようであってもいかようにできるか・・。

少年の口元に不適な笑みが浮かぶ。


「私たちも参りましょう。これは始まり、まだ、始まったばかりなのですから」

「そうだな。これは始まりにすぎない」

「では」


少年が同意するのを確認し、少女はある言語の詠唱を口走りはじめる。

そして、先程駅構内で生じた淡い光を互いに纏わせ姿を消した。


初めて投稿します。

拙い文章ですが、読んで頂けたら嬉しいです。

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