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鬱な少年は走り出す

「ただいまー」


「お、おかえり」


「兄、帰ってたんだ」


「そろそろその名称はやめにしないか? 剣」


 僕は基本、妹は妹。兄は兄と呼ぶ。

 理由は? と聞かれれば、そんなものはない。と答えるしかない。


「もう口がこの呼び方に慣れたんだ。いいだろ、困るもんじゃない」


「そうなんだが、距離を感じてな……」


「むー」


 そう言われると心が痛いな。

 世話になってる家族。

 名称が嫌だと言われるなら、それを変えるくらいいいかもしれない。

 別に拘りも無いしな。


「じゃあお兄ちゃん」


「ダメだ。それは妹限定だ」


 真顔で言われた。

 ダメだこの変態。


「じゃあ兄貴」


「似合わない」


「おにぃ」


「妹限定だ」


「兄ちゃん」


「微妙」


「兄さん」


「キャラと合わんな」


 僕のキャラの何がわかると言うのだろうか。

 というか、何がいいのか教えて欲しい。

 僕だって、そこまでたくさんの名称は知らないんだ」


「あんちゃん」


「もう一声」


「にいに」


「妹限定だ」


「兄上」


「時代劇か」


「おい」


「なんだ」


「新しい名称は“おい”でいいのか?」


「ダメだろ。というか名前を付けるという選択肢は無いのか」


「いや、ほらあるじゃん。立ち位置っていうか、ポジションっていうか、“刃山 剣の家族は名前不明キャラ”みたいな印象が付いてるかもじゃん?」


「まだ十話もいってないだろ! 修正が効くって!」


「ならあえてこの路線で行かない?」


「……もういいやそれで」


 ふっ。諦めたか。


「いい笑顔だなぁ、おい!」


「僕は“おい”じゃなくて“剣”ね」


「俺の名前を呼べええええ!」


 僕は無視して自室へと向かう。


「剣」


 ふと、兄から声がかかる。


「悩みがあるなら言えよ」


「……頼りにしてるよ。お兄ちゃん」


「それは妹限定だ」


 本当に、恵まれてるな。僕は。


<loading>


「……はぁ」


 制服から着替えラフな格好でベッドに倒れるように寝る。


「……どうしようかな」


 緋色 炎火。

 どうやら彼女は、想像以上に学校から危険視されているらしい。

 やはり、炎火が元・不良というのは確定的なようだ。

 盛る女。

 “燃え”盛る女。

 炎のように熱く、情熱的な緋色。

 どこまでも熱い思いを秘めた熱い瞳。

 燃えたぎるようなまっすぐな態度。

 炎火。激しく燃え上がる火。


「……触れたら火傷しそうだ」


 なのに、自ら火中の栗を拾うような事をしなければならないなんて。

 ついでに、この場合の他人は学校側だ。

 いいように動かされている気がしてならない。


「そもそもあの先生も胡散臭い」


 暗道 閨。

 わざわざ自分のクラスの問題児をぼっちに預けるなんてどうかしてる。

 あの時、先生は


『緋色 炎火は学校側からはかなり危険視されている。本人にその気が無い以上、私は大丈夫だと思うのだが、学校側はそうもいかない。だから、万が一のコントロール役が必要なのだ。そこで、唯一まともにコミュニケーションを取れた君に任せたい』


 たしかにそう言った。

 まるで、炎火と何度か話した事があるように。……いや、実際あるのかもしれない。

 だが、それなら炎火の猪突猛進ぶりはわかるはずだ。僕なんかにコントロールできるわけがない。

 ……だけど。

 炎火に関わりたいと思っている自分がいるのもたしかだ。

 他と浮いている、混ざらない、逸脱している。

 そんな存在の炎火に、惹かれるものが何も無いと言えば嘘になる。

 炎火という人物に、興味があるのもまた本音。


「……あぁ〜! イライラしてきた!」


 スッキリしない。

 ムカムカする。

 もういい。

 明日だ。

 明日話せばそれで僕の役目は終わりだ。

 関われとしか言われて無いのだから。

 回数も何も指定されていない。

 なら、一回だけ。それだけでいい。

 ちゃんと話して、終わりだ。


「……終わりなんだ」


 もっと関わりたい。

 人との関係に少なからず飢えている僕の心を塗りつぶすように、僕は呟いた。

 ………………。


「あっ!!」


 どうやって話せばいいんだあああああああああ!!!


<loading>


 ね、眠い。

 寝る間も惜しんで、ひたすらに会話の切り出し方、もしくは呼び出す方法を考えていた。

 そして、学校に行く直前でやっとか思いついたのだ。


「……保健室で仮眠でもとろうかな」


 急ぐ必要はない。

 放課後までに間に合わせればいい。

 それだけでいい。

 僕は徹夜で考えた呼び出し方法を頭の中でシミュレーションをし続けた。

 意識は絶え絶えで、気付けば学校前だ。

 全く。このままでは体が持たない。

 とにかく今は休もう。それだけ考えて、教室に向かおうとした。


「なあ。緋色の奴が別の高校の奴に絡まれたって知ってるか?」


「ああ。何でも朝早くに登校した奴が見たって」


「どこで見たんだ!」


「うわっ!? お前……えっと、は、早見……さんだっけ?」


「そんなことはどうでもいい! どこで見たんだ!」


「え、えっと、たしか前に工場があったとこだったかな。近道で通ってたら偶然見かけた、とかで」


「そうそう。朝練に遅れそうだとかで」


「ありがとう! 助かった!」


「あ、おい! 早見! お前学校は」


「早退だ!」


 僕は靴を履き替え、人の流れとは逆方向に走り出す。

 何をやってんだ、僕は。

 こんな目立つ事して、明日からは注目の的になってしまう。無論、炎火との関係性についてとかでな。

 でも、でも。

 僕はまだ、炎火と話していない。

 もしその炎火と話していた相手が、中学校時代にやられた奴らなら、炎火がそいつらとのケンカになってしまったら、もし炎火が暴力を振るったら。

 この学校にはいられない。


「まずは家だ!」


 武器になりそうなもの、証拠を抑えるためのビデオカメラ、あとは自転車。

 それらを取りに僕は家へと急いだ。

剣「……何をらしくないことしてんだろ。うん、あれだ。気の迷いだ。きっとこのあと大逆転があるよ。僕の記憶が操作されて何事もなかったかのように学校に通ったり、宇宙人に攫われたり、急に異世界に転生したり。

次回【後悔しか残らない。割と本気で】

はぁ」

炎火「どんだけ落ち込んでんのよあんたは!」

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