鬱な少年は変な先生に捕まる
放課後。
僕はなんとか炎火と話せないか、頑張って勇気を出すも、僕の勇気など線香のそれよりもか弱かった。
今日も炎火は話す隙を与えず(本人にはその気は無いだろうが)帰ってしまった。
はぁ、やっぱりそう上手くは行かないよな。
そもそも人と話すことでさえ僕からしたらG級クエストと同ランク、いやそれ以上だ。
僕の装備は丸腰で、装備もアサシン◯リンガでアイテムも無い。
炎火は言うなればミラ◯ーツだ。
いったいどこまで腕を磨けばクリア出来るだろうか。というかどんな縛りプレイだ。
さらに、僕の邪魔をするものもある。
それは、他人だ。
「あれ、緋色 炎火と話したっていう」
「なんて言ったっけ……羽虫くん?」
「根暗っぽいよなー」
余計なお世話だ、と声を大にして言いたい。
そもそも根暗だというのもお前らの第一印象だろうが。
第一印象は見た目が九十パーセントと言う。
しかし、一番最初、と言うのはいつだって不確定要素が混じるものだ。
第一印象。そんなものあてにならない。
というか、見た目なんて詐欺師が最も大切にしてる要素では無いか。たしかに、身を整えるには必要だが、だからと言って僕の“根暗”という印象まで見た目でつけられたくなどない。
炎火だって話してみればそこそこ普通だ。少々突っ走るとこがあるが、筋は通ってる……ような、そうじゃないような。
まあ、悪い奴じゃ……
「ああもう!」
『っ!!』
あ、やべ。
視線が集まる。
心拍が加速する。
「おい、なんか急に大声出してっぞ」
「きもーい」
「こわーい」
「何か変な奴だよな」
聞こえてるぞ!
僕はこれ以上ここにいると、ストレスでやられそうなのですぐさまそこから離れた。
……どうして、炎火の事でこんなに動揺してるんだ僕は。
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「少年」
「はい……?」
玄関付近。
僕は思わず反応したが……あれ?
これって僕? 周りに人はいないし、僕……だよな。
「こちらだ」
「あ、暗道先生」
声のする方向を向くと、そこには僕の所属するクラス担任、暗道 閨先生がいた。
僕に何か用事だろうか。
「いやなに。一担任として、クラスの人間に気を使ってるだけさ」
「……はぁ。友達とかなら大丈夫です。間に合ってますから。一人も慣れてますし、無理に誰かと関わっても迷惑かけるだけなんで」
僕に話しかけ心配事、クラスのこととばれば僕がぼっちについてだろう。
先に先手を打ち、踵を返そうとする。
が、どうやら僕の予想は違ったようだ。
「いや、そっちじゃない。そんな普通な事に興味はないし、君の生き方に茶茶を入れるつもりはない。私が聞きたいのは緋色 炎火の方だよ。刃山 剣くん」
「……最初に少年って言うもんだから、名前なんてわからないと思ってました」
「それは心外だ。話した事もない人から名前を言われるのは非常にストレスにくるものだと配慮した上でなのだが」
「たしかに、知らない人が一方的にこっちを知っているかもしれないという状況は非常にストレスが溜まりますね。ですが、教えてもないのに突然言われるというのも、なかなかストレスなものですよ」
「はは。君は意外とハキハキ喋るタイプのようだな。一対一には強いのかな? やはり第一印象というのはなかなかにアテにならないな」
「僕も先生はもっと気のいい感じの先生だと思ってましたよ」
「第二印象はどうだい?」
「とりあえずボロクソ言っても大丈夫な相手だと認識しました」
「それは光栄だ。この年になり、社会人ともなると、本音を喋り合える仲というのは貴重だ。大人になると嘘と誠が入り乱れる汚い世界をたくさん見るようになってしまうからね。生きがいを見つけるのも大変なんだ。どうだい? 私の話し相手にならないかい?」
「断固拒否します。生徒に大人の汚さを教える先生なんて信用できませんからね」
「正論ばかり並べるテキスト通りの教師よりはいいと思うのだが?」
「……それは、まあ」
しまった。
いつの間にか話し込む流れに引っ張られている。
完全に相手のペースだ。
上手く避けないと。
「さて、本題に戻ろうか。緋色 炎火のことだ」
「……随分と急ですね」
「生徒のことを思えば、急でもあるまい」
「どっちの、ですか」
「無論、君だよ。長引かせると逃げられそうだからね。さっさとその頭に本題を入れさせた方が楽だと判断した」
「狡いですね」
「それが大人だ」
流石に年の功。
この人には勝てそうがない。
まあ、この人が特殊、という言い方もあるけれど。
「緋色 炎火が少々厄介ごとに巻き込まれたようだ」
「僕には関係ありません」
「刃山 剣。六月十日生まれ。趣味は読書。将来は進学して安定した職業に就き、親孝行をしたいそうだね」
「……それが、なんですか」
「いやはや。何とも感銘を受けたよ。高校生で親孝行するために安定した職業に就きたい、と目指す者はいったいこの世に何人いるだろうね。それで、私は君の出身中学校へ電話をかけた」
「っ! あんた……」
「なに。ちょっとしたリサーチだよ。結果はなんと、全職員から、“剣は真面目でいい子だった。優しく積極的、生徒の模範となるべき生徒だ”という返答を貰えたよ」
「……いい子ぶってただけですよ」
この話は早く切り上げないとまずい。
厄介ごとに巻き込まれる。
この先生はきっと、それを狙っている。
「それで、私はそんな剣くんにお願い事をしたい」
「お願いならしなくてもいいですよね」
「上からのお願いは“命令”と同義だよ。知らないのかい?」
「………………」
「結構。ということで、君には一つだけお願い事をしたいんだ。聞いてくれるかい?」
どうやら、僕は完全に退路を絶たれたようだ。
もはや聞く以外に、僕に道はない。
「……いいですよ」
「いやあ助かる。君ならそう言ってくれると信じていたよ」
白々しい。
ああ、そうか。わかった。
第三印象は、“嫌な奴”。これ以外にあり得ない。
僕の睨みを軽く受け流し、そして暗道先生は言った。
僕がずっと出来ずにやきもきしていた事を。
「緋色 炎火と関わってくれないか?」
“嘘”次回予告
閨「私の類い稀なるカリスマ性に心打たれた剣くんは私に永遠の忠誠を誓った。そして私は学園を皮切りに、日本、大陸、海、地球、そして宇宙銀河さえもその手中に収めた。
次回【私は新世界の覇王となる】
ふはははは!人がゴ」
剣「言わせないよ?」