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鬱な少年は妹に励まされる

 深い。

 闇が深い。

 泥沼に沈んでいくような、そんな感じ。

 炎火と別れたあと、家に帰ってからの行動が思い出せない。

 気づけば、真っ暗な自室でベッドの上に寝っ転がっていた。

 今は私服? 制服? ご飯は? 風呂は?

 家族が心配してたかもしれない。

 ああ、まずい。何でもないよって言わなくちゃ。

 だけど、今は無理だ。

 久しぶりに信じかけて、裏切られるかもしれない恐怖に耐えきれなくて、勝手に心の堤防が壊れかけた。

 何という勝手尽くし。流石に炎火にも悪い。

 明日、謝った方がいいかもしれない。

 いや、僕が謝ったところで意味なんて……。


「お兄ちゃん」


「……妹?」


「もう、こんな時ぐらい名前で読んでよ」


 今更呼びにくいだろ。空気読めよ。特に意味もなく妹の名前を伏せた作者の気持ちをくみ取ってやれよ。


「入るよ」


「……ああ」


 ガチャリとドアノブが回る音がする。

 キィィと音を立てながらドアが開く。廊下の電気の光が闇に包まれた僕の部屋に一筋の光を描く。


「……どうしたの」


「……ちょっと、自己嫌悪」


 弱すぎる自分。信じられない自分。行動出来ない自分。話せない自分。引きずる自分。

 どれを取っても、ダメな自分だ。


「……少しだけ。一緒にいていい?」


「……いいよ」


 ドアは閉められ、またも静寂の闇が部屋の中を支配した。

 妹は電気を付けない。

 僕を気遣ってくれてるのだ。

 ブラコンでは無い。家族として、心配してくれてるのだ。

 LIKEでも、LOVEでもない、DEAR。親愛なのだ。

 妹は一緒にいていいかと聞いたが、それは違う。一緒にいてくれるのだ。

 僕を心配して、優しくしてくれる。

 そして、同時に情けなくなる。

 こんなにも思ってくれる家族がいて、今も僕の体は闇の中だ。

 動けない。動きたくない。

 外は傷付くから。信じることは怖いから。

 そして、家族の期待に応えれない自分に、また自己嫌悪。

 卑屈で、最低だ。


「ねえお兄ちゃん」


「……なんだ。妹」


「お兄ちゃんはさ、お兄ちゃんでいてよ」


「……何だよ、それ」


 こんな自分が嫌だから、頑張ってるのに。

 いや、頑張ってなどいない。

 諦めて、妥協して、俺は望んでここにいる。

 でも、なりたくてなったわけじゃないんだ。


「お兄ちゃんはさ、今のお兄ちゃんになりたくてなったわけじゃないのは知ってるよ。裏切られたショックで、そうなったのは知ってるよ」


 あいつらに裏切られた。

 いや、先入観だ。

 先に裏切ったのはこっちなのかもしれない。

 だけど、裏切られた。

 裏切って、裏切られて。

 友達なんて、親友なんてそんなものだ。

 簡単に崩れた。

 そして、消えない傷跡だけが、僕の中に残った。


「でもさ。私やお兄ちゃん。お父さんにお母さんも怖いんだよ。お兄ちゃんがまた変わる事が。だって、変わるってことは何かあったんでしょ? また嫌な事があったかも。また裏切られるかも。そう思うと、心配なんだよ」


 でも、それでは前に進めないのではない。

 ……何を言ってるんだ僕は。

 今日、炎火に言ったばかりじゃないか。

「無理だね。そもそも、僕は今の自分をどうにかしようなんて思わない。この態度を問題児だと言うのなら、僕は問題児でいい」

 と。

 自ら停滞を望み、そしてまた進みたい。

 どれだけ業が深いのだろう。

 僕は、この冷たい闇の中にいるのがお似合いだ。

 いっそ、本当に引きこもってしまおうか。


「でもねお兄ちゃん」


 そんな、冷たい闇の中に。仄かに、だが確実に僕の体を温める、人の温度がそこにあった。


「私は、もっと心配かけて欲しい」


「妹……?」


 妹が抱きついているのだ。

 妹の声が、ダイレクトに響き渡る。


「お兄ちゃんには変化を望んで欲しい。変わって欲しくはないけど、それでも、今のままのお兄ちゃんを見るのも、辛いの」


 その言葉は、僕の脳を痺れさす。

 辛いの。

 そう妹は言った。

 妹以外の家族も、同じなのだろうか。

 兄も、母さんも父さんも、僕が思っていた以上に、妥協していた以上に、迷惑をかけていた?


「ゆっくりでいい。だから、お兄ちゃんには変わって欲しい」


 人はきっかけが無ければ変われない。

 なら、僕のきっかけは何だろう。

 暗い闇の中、僕は妹に触れて、言う。


「……妹たちを、家族をきっかけにしてもいいんだろうか。僕も、変われるだろうか」


「……変われるよお兄ちゃんなら。バックには家族(わたしたち)がいるんだもん。変われなくても変わらせてやるんだから」


「そりゃ怖い」


 壊れかけた心の堤防はいつの間にか修復され、僕の心の平穏は戻っていた。

 ……本当に、家族には頭が上がらない。


「あ、そうだ。お兄ちゃんの部屋のタンスの奥に、昔お兄ちゃんが中二病だった頃にネタを書き溜めてた黒歴史ノートあるよね。あれ使えば変われるかも」


「待てえ! どう使う気だそれを! というか何で場所がわかるんだよ!!」


「お兄ちゃんの事だからどうせ」


「そんな単純な思考回路はしてないはずだけど!?」


「あの頃のお兄ちゃんは……」


「僕は露骨な中二病の行動は取ってない!!」


「妄想は激しかったけどね」


<loading>


 ……朝だ。

 ……おお、どうやら昨日の僕は無意識のうちに私服に着替えてたみたいだ。制服はそこらへんに脱ぎ捨ててるけど。

 結局電気は付けずに乱闘したために気付かなかった。

 ……でもまあ、昨日は妹に感謝だな。気は紛れた。……いろんな意味で。

 いつも通り着替えて部屋を出る。


「うん?」


 廊下に出たところで、脇の方にビンが置いてあった。

 ……栄養ドリンク? 置き手紙もあるな。


「なになに……「ファイトー! いっぱーつ!」……CMかよ。兄かな」


 本当に、僕は家族に恵まれてる。

 僕は、栄養ドリンクを飲み干し気合をいれる。


「よしっ!」


 炎火に謝ろう。

 管理部云々は後回しだ。一先ず謝ろう。

 話はそれからだ。

 久しぶりの人間らしい決意とともに、僕は活動を始めた。

“嘘”次回予告

剣「炎火に謝りに行ったらどうやら炎火も自分に間違いがあることに気付いたようなんだよ。だから僕は寛大な心で許して炎火を下僕にし、リア充撲滅計画を練り始めたんだ。手始めに学校内のカップルを別れさせようか。

次回【炎火奴隷化計画】

待ってろよ。世界のリア充ども」


炎火「あんた。実は何も傷付いてないでしょう」

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