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鬱な男少年はバッドエンドを覚悟する

 もしも主人公みたいに、過去の因縁が数年前とか、結構昔になってたら、どんなに楽だろう。

 僕の中学時代がバッドエンドを迎え、高校時代のプロローグとなるであろう入学式との間が僅か一ヶ月ほどって、幾ら何でも短過ぎやしないだろうか。


「あらツルギ。おはよう」


「おはよう母さん」


 まあ、そんな事を考えていても無駄という事だろう。

 他の主人公だってエンドの後はプロローグがある。問題は期間なのだ。僕の場合、偶然エンドとプロローグの間が短かっただけだ。


「ご飯出来てるわよ」


「ありがと」


「それにしても、ツルギももう高校生ねー。お弁当張り切っちゃう!」


「今日は入学式で昼には終わるからいいよ。あと、弁当作るなら僕も手伝うって」


「あら嬉しい。でも、そういうのはちゃんと朝起きれたらにしてくれる?」


「……努力はする」


 僕は中学の頃のバッグに適当なラノベを詰めて、筆記用具とかその他必要なものを入れ、出掛ける準備を済ます。


「お兄ちゃん! やっとか来た!」


「うっさいぞ妹」


「名前で呼んでお兄ちゃん」


「気が向いたらな」


「お兄ちゃんの名前はすでに判明してるのになぜ私は判明しない!?」


「僕がお前を妹と呼んでいるからだ」


「あ、なるほど」


「ほら。ご飯食べるぞ」


「はーい! いただきまーす!」


 生粋のバカめ。だが、その性格に助けられているところもあるのだが。


「母さん。長男は?」


「まだ寝てるわ。講義はお昼からって言ってたし、ギリギリまで寝てるんじゃないかしら?」


「そっか」


「ああ、あとこれ。入学祝いだそうよ」


「……シャーペンって僕は小学生か。でも、ありがと」


「ふふ、伝えておくわね」


 さて。ご飯も食べ終わったし、余裕を持って学校に行くか。

 どうせ学校に行っても誰とも喋らずクラス確認して席確認して入学式やって後は自己紹介のみ。きっとなんのイベントも無く消化されるはずだ。


「あら、行くの? 少し早くないかしら」


「大丈夫。本持ってくから」


「じゃあ大丈夫ね」


 理解の早い母さんで助かるね、ほんと。


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


「行ってらっしゃーい!」


 ……流石に普通に学校のある妹より早くに行くのは早過ぎだったろうか。


<loading>


 本当に何事もなく消化されてしまった。イベント仕事しろ。

 ざわざわとすでにグループが形成されつつある教室の中で、僕はそう思わずにはいられなかった。


「さて、みんな席につけ。自己紹介をしてもらうぞ」


 そう言ったのは教壇に上がる人物。勿論先生だ。

 性別は女で、かなりの美人だった。

 カッカッ、と黒板に名前を書いて行く。


暗道(アンドウ) (ネヤ)。これから一年間。もしかしたら三年間君たちと付き合っていくことになる。担当は現代国語。よろしく頼む」


「先生! 彼氏いるんですか!」


 おお、早速か。

 というか、よくもまあそんな事を聞けるな。しかし、クラス内からは笑い声が出る。

 なるほど。どこかの大型グループの中心核か。あいつには絶対近寄らないようにしておこう。


「彼氏か? いないな。親からは早く孫を見せろとせがまれてはいるがな」


「じゃあ俺なんかどう?」


「教師と生徒の禁断の恋か。興味はあるが、ただでさえ苦労をかけている親に職をクビにされた報せを持って行くのは不本意だな。やめておこう」


「はーい!」


 なかなかにノリのいい先生らしい。受け答えもスムーズだ。

 男子生徒も上手い感じに立ち回ったな。これで殆どの生徒からは好印象を持たれるだろう。


「それでは、自己紹介をしてもらう。名前と、好きなもの。あと、何か言いたい事があれば言っていい」


 そうして、あ行の人から進んで行く。

 皆が無難に、時として中心核である人物が何人か、個性的な自己紹介をしていく。

 まあ、関わることなど無いし、合ったらその時だけ名前を覚えればいい。

 しかし、


「我が名は神滅(シンメツ)神無(カミナ)。神殺しを継承した者なり」


 こいつはどうしたものか。

 俗にいう中二病で、俺も一時期患者だったが、ここまで露骨なのは初めて見た。つい聞き入ってしまった。


「そいつの名前は藤堂(トウドウ) 健人(ケント)。みんな、仲良くしてやってくれ」


 いや無理だろ。


「ふっ。藤堂 健人とは仮の名。我が真名は」


「藤堂。座れ」


「……了解した」


 どうやら先生がラスボスらしい。

 というか、よく受かったな。面接とかどうしたんだ。学力はまだわかるが、面接もあのキャラで行ったのか? もしそれで受かるのなら、よほど学力面が優秀なのだろう。見た目によらず侮れないかもしれない。

 まあ、こんな奴もいるのかと再確認しながら、ついに俺の番が来てしまった。……はぁ。

 嫌だ嫌だと思いながら、俺は起立して自分の名を口にする。


刃山(ハヤマ) (ツルギ)。よろしくお願いします」


 着席。

 完璧だ。


「刃山。好きな事などはないのか?」


「特に」


 なぜ自分の趣味を周りに明かさにゃならんのだ。面倒ったらありゃしない。


「そうか。なら次だ」


 そういえば俺の後ろってどんな奴だろう。本読んでたら確認する暇が無かったな。

 椅子が動く音がしたので不自然じゃないように後ろに目を向ける。


緋色(ヒイロ) 炎火(エンカ)。好きなのは運動。よろしく」


 美少女、と言えなくはない顔立ちだった。

 セミショートで揃えられた黒髪。整った顔立ち。そして、炎のように赤く、強い意志を感じさせる瞳。

 しかし、僕が彼女に感じたのは、恐怖だった。

 所々にガーゼやカットバンが見える肌。明らかに殴り慣れてる拳。

 ……こいつは危険だ。よりにもよって後ろの席。

 ……僕の学生生活は、早くもバッドエンドを迎えたのかもしれない。

“嘘”次回予告

剣「一番最初とかやだな……。次回予告? 面倒だからパスしたいな……。頑張りたくないな。いいや、さっさとやろ。

次回、【皆死ぬ】

壮大なバッドエンドが待ってると思う。人生そんなもん」

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