エピローグ
エピローグ/
「ゆっこ~。お掃除おわったよん」
あれから一週間後。
ワタシは目覚めたばかりの体力の無さからか、はたまた発火能力を使いすぎた代償からかしばらく寝込んだ。
再び眠りから目覚めて第一に両親の墓参りをすることにした。
仏壇では挨拶してても、きちんと墓前での挨拶がまだだったのでこれが……本当の両親との別れを自分の中で理解する上で大切な儀式なのだろう。
学校帰りに親友の遥も着いてきてくれた。
両親の眠ってる所は実質半年間、放置されてたので雪山に埋もれてたので、除雪から始まり、ちょうど掃除も終えた所だ。
「さんきゅ。それじゃ借りた物返しにいかないとな」
「わたしが行くって。ゆっこは先にご両親に挨拶しておいでよ」
借り物であるスコップや柄杓など水桶ごと、遥に取り上げられてしまう。
気が利くんだか、ただのお節介なんだか。
でも今はその言葉に甘えておくことにして、もう一度だけ、感謝の言葉を伝えた。
「こんなに素直なゆっこは珍しいなぁ。普段もそのくらい可愛げあればいいのに」
「ほっとけよ」
親友は笑いながら、階段を上っていく。
少し離れて小さく見えるところで、振り返ると大きな声で訴えかけてきた。
「きちんと~、娘の元気な姿見せるんだよ~」
簡単に済ませようとか思ってたけど、あの分だとバレてるらしい。
念を押されたので渋々、改めて墓前へと向き直る。
ここへ来る途中に買ってきた生け花を添えて線香をあげる際にライターの類が無い事に気付いた。
ワタシは誰も居ない事を見計らって、線香の先端に人差し指を当てると、まるでシガーソケットを押し当てるように、ジジッと熱を持ち、小さな火が燃え盛る。
息を吹きかけて、余分な火を消してやってから、何を言えばいいのか少し考えてしまった。
「半年も掛かってしまって悪かったな二人とも」
出だしはそれだけ。それからはポツポツと目覚めてからの出来事を話し始めた。
理解不能なこの発火能力の事も、エセ教師の事も、隣人だったアイツの事も全部。
「ワタシの周りに居る奴らはどいつもこいつもお人好しばかりでさ。少しめんどくさいけど、良い奴なのは保証済みだからこっちの事はあまり心配しなくていいよ」
指先も冷たいままで、
吐息は白く、
夕陽だけが、辺りを赤く染めていく。
両親を襲ったあの焔ではない、自然が生んだ夕陽は綺麗で、
それが少しだけ、寂しさを募らせた。
不意に雪道をざくっと踏む音が聞こえる。
「親友も戻ってきたから今日のところはこの辺で終わるけど、春になったらまた来るよ」
そっと立ち上がり、見上げた先に立っている小さな影は、逝ったハズのアイツだった。
どれだけ頭の中をフル回転してみても、何も考えが浮かばない。
「化けて出るには早い時間帯じゃないのか」
「うわっ、キツイ第一声ですね」
照れたような、何を話していいのかわからないようなそんな表情で頬をしきりに掻いている。
「……それで? オマエ消えたんじゃなかったのか。この嘘つき」
「いやあ、よく考えたら成仏ってどうやってするのかわからなくて。学校では教えてくれませんしね」
さも当たり前のように語る辺り、本当に逝く事が出来ないらしい。
ちょうどいい。眠りから目覚めてから苛々しっぱなしだったんだ。
「実験する気はないか。散々ワタシでテストだの実験だの称してやらされてきたんだ。火葬してやれば逝けるかもしれないぞ」
ソイツの前に一歩近寄ると、後ろへ後退していくのは危険を感じたらしい。
「いやいやいやっ! 火葬って元となる死体が必要じゃないですか。ボクそういうの残ってないですし!」
「だから実験だって言っただろ。思念体だか魂だかなんだかわからないけど。そこに存在しているんだから。酸素のようによく燃えるかもしれないな」
二人で話してると上から降りてくる人影が一人。今度こそ親友の姿だった。
「あれぇ。ゆっこ今誰かと話してなかった?」
ワタシの隣に居るハズのソイツの姿を遥は見えてない。
他人には見えない、存在か。
なんとなくお互いの顔を見合って、そのあどけない表情を見ていたら、なんだか説明するのも面倒なので、適当にあしらう事にした。
「まだこの世に未練でもある奴がいるんじゃないのか。うちの両親も今夜辺りでてきたりしてな」
「ちょっとぉ、そういう話やめてよ~」
耳を塞いで逃げていく遥を追いかけず、たった一週間ぶりかそこらの相手に振り返り、
ワタシはある言葉を伝えた。
「おかえり……シンリ」
/放火魔 完
放火魔はこれで終わりです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。